逃げろっ!!
あたし達が倒したはずの敵はまた動き始め、次々と中央へ集まっていく。そいつ等は徐々に一つになっていき、やがて紫色の球体へと変化していった。
形をよく見ると、たくさんの異形化した人たちが蠢いているのが分かる。…き、気持ち悪いってどころじゃないわよ、これ!
「…ぜ、全員集まったわ!」
敵が全員合体し終わるのを見てフリントがそう言った。この後に何が起こるのは全く分からない。なのであたし達は今までよりも警戒を高めながら戦闘態勢に入る。
――すると、球体へと変化した奴の身体の左側から何やら棒状のような物が生えてくるのが見えた。
「な、何あれ…!?」
今の光景を見て、ミントが怯えた声を出す。
そして、今度は右側からも同じ物が生えてきた。更に今度は左下、右下からも同じ物が出てくる。これはもしかして…手足のつもりなのかしら?
「い…いやああああっ!怖いよーっ!!」
ミントは異様すぎる光景に耐えられなかったのか、その場から逃げてしまう。ちょ…ちょっと、どこへ行くのよ!?
「ミ、ミントちゃんっ!――ごめん二人とも、あの化け物は君たちがやっつけちゃって!私はその間にあの子を追うわ」
それと同時に、今度はフリントがミントを追っかけ向こうへと走っていった。フ、フリントまで…。冗談じゃないわ、あたしとナラの二人であいつと戦えというの?
球体の化け物は両腕を上にあげ、雄叫びを上げるかのようなポーズを取る。あたしとナラはそれに圧倒され、その場から動けなかった。
「ク、クリムさん…。私たち、こんなのに勝てるのでしょうか?」
ナラが不安そうにあたしに聞いてくる。正直、勝てる見込みは全くと言っていいほどない。今まであたし達はギルドに入ってから色んな魔物と戦ってきたけれど、流石にこんなグロテスクな外見をした奴と戦った事なんか一度もないんだから。
(ああもう、ナオトとアルベルトの奴は何やってるの!早く戻ってきなさいよ!)
あたしは心の中でそう叫んだ。――その時、ズシンと大きな音が鳴り響く。前を向くと、あの化け物がゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えた。奴は今にもあたし達に攻撃をしてきそうだ。
…くっ、こうなったらもう悩んでいる時間は無さそうね。
「ナラ、ここはあたしとあんただけでもこいつを食い止めるのよ。二人だけじゃ完全に倒す事は出来ないけれど、仲間が戻ってくるまでの時間稼ぎにはなるハズよ」
「時間稼ぎ、ですね。…分かりました!それだったら私でも何とかできそうです!」
「話が早くて助かるわ。それじゃ、さっさとやるわよ!」
準備が整い、球体の化け物との戦いが始まった。先攻したのは化け物の方だ。化け物は左腕を大きく振り上げ、それをムチのように勢いよくしならせる。
「あ、危ないっ!」
あたしとナラはその攻撃がギリギリ当たる直前でかわす。大きく振られた腕が地面に命中すると、当たった部分にぽっかりと大きな穴が開いた。
「は、はわわ…。あんなのが私たちに当たったら一溜りもありませんよ!」
ナラが地面に空いた穴を見てそう言った。確かに、あの攻撃がまともに当たれば致命的なダメージを受ける事は確実。あれを防ぐ方法は何かないのかしら…。
「――あっ、ナラ!また攻撃が来るわよ!」
あたしが考え事をしていると、化け物が今度は右腕を使ってさっきと同じように攻撃してきた。あたし達はまたそれをかわして――。
「きゃあっ!」
「ク、クリムさんっ!?」
――いったと思いきや、あたしはあと一歩の所でかわしきれず攻撃を僅かではあるものの食らってしまった。
「うっ、ううっ…」
攻撃を食らったあたしはその場に倒れこむ。直撃していないとはいえ、今のはかなり痛い。もし次で攻撃をまともに食らってしまえば、最悪の場合あたしは死んでしまう。
「クリムさん、大丈夫ですか!?」
ナラがあたしの所へ駆け寄ってきた。
「…あたしの事は気にしないで、ナラ。それよりも今はあいつを止めるのが先よ」
「そんな事言われても、私はクリムさんが心配なんです!待ってください、私があなたを背負ってあげますから」
「え?ちょっとナラ――」
あたしの発言を最後まで聞かず、ナラはあたしの身体を背中に背負った。その後、ナラはあたしを背負ったままフリントたちが走っていった方へと向かっていく。
人を一人背負っているとはいえ、かなりの速さで走っているナラ。さすが、安定の馬鹿力ね。本当に心強いわ。
「クリムさん、あなたを安全な場所まで運び終わりましたら私一人でもあれを止めて見せますからね」
走っている途中でナラがそう言ってきた。な…何を言っているの?ナラだけでもあいつを止めて見せるって?
「ナラ、本気で言ってるの!?いくら馬鹿力のあんたでもあいつを止めれるかどうか――」
「大丈夫です!最後まで諦めないという想いさえあれば、どんな困難だって絶対に乗り越えられますよ!あの時、ダミアンさんと戦った時みたいに…!」
「そういう問題じゃないって――ん?」
あたしがそう言いかけた時、後ろから何かが転がって来る音が聞こえてきた。
「…クリムさん、この音は?」
「後ろから聞こえてくるわね…って、えっ!?」
後ろを振り返り、あたしとナラは驚愕した。そこにはあの球体の化け物があたし達に向かって転がってきたのだ。どうやら逃がすつもりはないらしい。
ナラはそれを見てさっきよりもスピードを上げるも、化け物はそれを嘲笑うかのように迫ってくる。このままではあたし達に追いつかれるのも時間の問題だ。
「…ナラ、もっと速く走れないの!?このままだとあたし達、あいつに押しつぶされちゃうわよ!」
「ご、ごめんなさいクリムさん!私、これ以上速くは走れませんっ!」
「じゃあどうすんのよ!?」
「クリムさん、ここは私にしっかりとつかまってて下さい!――やあっ!」
ナラはそう言うと、勢いよく横にジャンプした。化け物はまっすぐ通り過ぎ、そのまま向こうへと転がっていく。…間一髪回避、って所ね。
「…ふぅ、大丈夫ですか?クリムさん」
「え、ええ。何ともないわよ。ナラ、今のはいい判断だったと思うわ」
「えへへ…ありがとうございます。これしか方法はないと思っていたので、ひとまず成功させる事が出来て嬉しいです」
「そうね。でも、まだ安心するには早いわ。今度はこっちがあいつを追いに行くわよ」
「はい!…あ、その前にクリムさんを安全な場所に避難させてからですね」
そう言うと、ナラは再びあたしを背負いながら走り出した。




