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1 未乃莉、一軍美少女を見逃す

希望ヶ丘女学院高等部合格のお祝いに祖父から贈られた世界文学全集57冊セットで頭がいっぱいになっている未乃莉にとって、もはや肝心の入学式など完全に上の空案件。


『風と共に去りぬ』の続きが気になって仕方ない未乃莉をよそに校歌が斉唱され、校長先生の式辞のあと新入生代表があいさつし、在校生代表から歓迎の言葉があり気づけば全てが終了していた。


「見た?びっくりしたよね!」


教室に戻る途中、従姉妹の舞花がトレードマークのボブカットを振り乱しものすごい速さで駆け寄ってくるや否や、未乃莉の腕を掴んで言った。


「??」


「もうほんと、一軍女子って感じ!」


毎回、主語がない舞花の発言は軽く謎解きで困惑させられてばかりいる。


「????」


「この私よりセーラー服が似合うなんて反則!しかも背が高くてスタイル抜群だし!」


「舞花ちゃん、あのさ」


その自信は一体どこから生まれて来るの?

で、そんなに興奮して誰の話をしてるの?


素朴な疑問を投げかけようとした時、遅ればせながら少しだけ周りを気にした素振りを見せ未乃莉の耳元でこそっと舞花はささやいた。


「吉澤さん」


「誰それ?」


まだ、ぽかんとしている未乃莉をながめ、舞花はあきれたようにため息をついた。


「新入生代表のあいさつしてた子!うちらと同じクラスなんだけど、ミノリン見てなかったの?」


未乃莉は首を横に振る。


「見てない」


「嘘!入学式中ずっと何してたの?私、可愛い推せる!って思いながら見てたのに!ミノリンだって美少女好きでしょ?」


「舞花ちゃん、あのね私は」


どちらかといえば実際の美少女を愛でるより『風と共に去りぬ』のように美少女が登場する物語を読んで胸ときめかせるほうが好きなんだけど。

正直な話、未乃莉はそこまで人間に対して興味が湧いてこないのだ。


「私、あの子と友達になりたい!協力してくれる?」


「舞花ちゃんのコミュ力なら、別に私の助けなんていらな…」


「いる!いるの!必要なの!だからお願いミノリン!」


出ました。必殺、舞花のお願い。

可愛い女子がいるから推し活しよう!と何の興味もない鼓笛隊とミニバスケットに付き合わされた小学校、一目惚れした憧れの先輩とお近づきになろう!をテーマに全く望んでないテニス部で共にしごかれまくった地獄の中学校。


物心ついた時から常に身近に推しを作り、隙あらば一緒に鑑賞したがる従姉妹・舞花の性癖につきあわされ続けた未乃莉の道連れライフも15年目に突入。次こそは断ってやろうと何度、心に誓ったことか。


「分かった」


それなのに、訴えるような舞花の眼差しを前にすると問答無用でうなずいてしまう恐るべし魔法の眼力。


とはいえ、どう頑張っても今のところ一軍美少女の姿を一ミリも思い出すことができなくて。何なら明日まで、舞花が発した吉澤という名前すら覚えていられるか怪しい現状、どんな形で自分は協力すればいいのか全てが曖昧だったりするけれど。


今後いやでも彼女が濃厚濃密に関わってくることになろうとは、まだこの時点では未乃莉は全く夢にも思っていなかった。

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