↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/8

欠片

 父は、手の中の金属片を見つめていた。


「同じもの?」


 聞いても、すぐには答えない。


 黒い石を指先でなぞる。


「父さん」


「似ている」


「似てるだけ?」


「ああ」


 それ以上は言わなかった。


「で」


 アカポリスが壁にもたれる。


「そろそろ説明してくれる?」


「何をだ」


「そっちの坊ちゃんが、なんであの男を探してるのか」


「坊ちゃんって俺?」


「他に誰がいるの」


「ライク」


「知ってるよ」


「じゃあ名前で呼んでよ」


「そのうちね」


 軽くあしらわれた。


 父が金属片を握る。


「市場にいた男が、アリナを最初に魔女と呼んだ」


 アカポリスの表情が変わった。


「妹さん?」


「ああ」


「……なるほど」


「何が?」


 俺が聞く。


「私が見たとき、あの男はあんたの妹を見てた」


「やっぱり?」


「ずいぶん熱心にね」


「それで追ったの?」


「それだけじゃない」


 アカポリスが父の手元を見る。


「それを着けてたから」


「黒い石?」


「正確には装置の方」


 父が顔を上げる。


「いつ気づいた」


「騒ぎになる少し前」


「前?」


 胸の奥がざわついた。


「アリナが魔法を使う前から、あの男を見てたってこと?」


「そうなるね」


「なんで」


「似た装置を探してた」


 父とアカポリスの視線が合う。


「お前もか」


「その言い方だと、あんたもみたいだね」


「どこで知った」


「昔の伝手」


「誰だ」


「それを聞くなら、先にそっちから話しな」


「アカポリス」


「バレンティア」


 二人とも黙る。


「……仲悪いの?」


 聞くと、アカポリスが吹き出した。


「昔からこんな感じ」


「そうなの?」


「余計なことを言うな」


「ほらね」


 父が小さく息を吐く。


「それで、男はどうした」


「逃げた」


「どうやって」


「普通に走って」


「お前から?」


「そこ、そんなに引っかかる?」


「引っかかる」


「失礼だねえ」


 アカポリスが弓を軽く叩いた。


「一発当てたよ」


「どこに」


「右腕」


 父が手の中の金属片を見る。


「それで落ちたのか」


「たぶんね」


「たぶん?」


「命中した瞬間、妙なことが起きた」


「妙なこと?」


 アカポリスが俺を見る。


「男の姿が消えた」


「消えた?」


「正確には、一瞬見えなくなった」


「魔法?」


「さあ」


「魔法装置では」


 父が言う。


「私もそう思った」


「王国式ではないな」


「見たことないね」


「でも」


 俺は二人を見る。


「男だったんだよな?」


「ああ」


「なら、魔法を使うなら装置が必要なんだろ」


「普通はね」


 アカポリスが答える。


「普通は?」


「今のは忘れな」


「気になる言い方するなよ」


「気になるなら、自分で調べな」


「意地悪だな」


「よく言われる」


 父はまだ黒い石を見ていた。


「その男の顔は」


「見た」


「ライクが見た男と同じか確認できるか」


「特徴を言ってみな」


 今度はアカポリスが俺を見る。


「黒い髪。細い。俺より少し背が高かった」


「目は」


「細かったと思う」


「歳は」


「三十……くらい?」


「曖昧だね」


「一瞬しか見てないんだよ」


「右の頬に傷は?」


 記憶を探る。


「……あった」


「細い傷?」


「ああ」


 アカポリスが頷いた。


「同じ男だね」


「やっぱり」


「でも名前は知らない」


「どこの人間かも?」


「知らない」


「誰に雇われてるかも?」


「知らない」


 全部分かると思っていたわけじゃない。


 それでも、少し落胆した。


 アカポリスが俺を見る。


「何、その顔」


「もっと知ってるのかと思った」


「期待されても困るねえ」


「追ってたんだろ」


「追ってるからって、全部分かるなら苦労しないよ」


 父が小さく頷いた。


「それでいい」


「よくないよ」


「決めつけるよりはいい」


「またそれか」


「大事なことだ」


「はいはい」


「返事は一回でいい」


 アカポリスが俺を見る。


「親子だねえ」


「似てないんじゃなかったの?」


「口は似てるって言っただろ」


 父が無視して話を戻す。


「お前はいつからこの男を追っていた」


「三日前」


「三日前?」


 思わず聞き返した。


 アリナが連れていかれたのは今日だ。


「じゃあ、やっぱり……」


「何?」


「今日たまたま市場にいたんじゃない」


 アカポリスが少しだけ目を細める。


「そうかもしれない」


「アリナを見張ってた?」


「かもしれない」


「じゃあ――」


「坊ちゃん」


 初めて、その声から軽さが消えた。


「分からないことを、分かったことにするな」


 父を見る。


「……それ、父さんにも言われた」


「いいこと言うじゃない」


「お前に褒められても嬉しくない」


「私は褒めてないよ」


 また二人が睨み合う。


 でも。


 一つだけ分かった。


 男は今日、偶然市場に現れたわけではないかもしれない。


 三日前から、アカポリスはその男を追っていた。


 そして王国も、今日より前からアリナを対象にしていた。


 別々だったものが、少しずつ近づいている。


「アカポリス」


 父が呼んだ。


「何」


「頼みがある」


「嫌だ」


「まだ何も言っていない」


「昔から、あんたの頼み事でろくな目に遭ったことがない」


「今回も似たようなものだ」


「なおさら嫌だね」


 そう言いながら。


 アカポリスは帰ろうとはしなかった。


 父が俺を見る。


 それから、もう一度アカポリスへ向き直る。


「ライクを頼みたい」


「は?」


 俺とアカポリスの声が重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。