第12話 ワストンの不覚
アキハ、カトレア、ワストンの3人が拠点にしていた借家に、ブルガリ、アマンダが合流して、賑やかなことになった。
夜中に、アマンダとワストンにセバスから念話が入り、アマンダは朝から出かけることになった。アマンダはパップス商会に行き、見事パップスのハートを射止めた。
数日後、貴族か大金持ちの令嬢に見える衣装に身を包んだワストンが、セバスから差し回された馬車で、この街を出た。馬車には、アキハの分身が護衛兼侍女に変装して同乗している。
フィデラル・ウィンスロー男爵の領地は、ウィン村とスロー村の2つの村からなる。ウィン村は、元はウィンスロー村だったが、数代前の兄弟による家督争いの折に、弟とその支持派閥が新しい土地を開拓し、以来、元からあった村をウィン村、弟が拓いた村をスロー村と呼ぶようになった。
ランドリアの街からは馬車で1日の距離にあり、ワストン達を乗せた馬車も朝に街を出て、ウィン村に着いたのは日没寸前だった。
村の入り口を守る兵士に多めの金を渡して村に入り、兵士に教えてもらった宿屋で旅装を解いた。
『さて、どうやって男爵を引き付けるか?ですわね』
『男爵家に手紙を書かれてはどうですか?私が届けて参ります」
「手紙ね。どう書けばいいのか分からないわね。セバスに聞いてみましょう」
『セバス、今、いいかしら?」
『ワストンか。ウィンスロー男爵に会う手筈は考えたか?』
『お見通しなのね。手紙を書いて、アキハに届けさせようと思うけど、手紙に何て書いていいか分からなくて』
『そんなことだろうと思って用意しておいた。今、転移させる』
セバスの言葉が終わると、目の前の机の上に一通の封書が現れた。
『それを読んでくれ』
ワストンは封書を開けて中の手紙を取り出して広げた。
『何?これは白紙?』
『白紙に見えるが、実は白紙ではない。魔法が掛けてあるから、その手紙を見た男爵は、そなたに会いに来る。だから、その手紙を封書に戻し、封蝋して、アキハに持たせて届ければ、後は宿屋で待っていればいい』
『この手紙にそのような魔法が掛かっているとしても、男爵を迎えて、どのように交渉をすればいいのでしょう?』
『交渉は、私がする。その間、そなたの意識を貸してもらうことになるがな』
『私の意識を乗っ取るのですか?そんなことを、女に求めるのですか?』
『そなたが女であるかどうかは関係ない。これは機密事項だが、私はいつでも、誰の意識でも自由に乗っ取ることが出来る。そして、この能力を使うのは主殿の命令を実行する為だ』
『そうですね。ご主人様の命令でしたね。それなら、仕方ありません。でも、意識を乗っ取っていやらしいことをさせないで下さいね』
『くだらないことを心配するでない。まったく、主殿が甘いからといって、つけ上がりおって』
『そんなことは・・・』
『まあ、そのことは今はいい。そなたは、ウィンスロー男爵を取り込んで、男児をつくることに専念せよ』
『畏まりました。セバス様』
セバスの叱責を受けたワストンは、セバスに敬語を使い始めた。それは、自分の息子をこの国の王にするにはセバスの後援がなくてはならないと気付いたためだろう。ワストンは、母としての本能的な野心のために、進んでセバスに膝を屈したようだ。
『他の誰かがいるところで、私に敬語を使わぬように。特に、主殿がいるところではな』
『心得ております』
こうしてワストンとセバスの念話による打ち合わせは終わった。
翌朝、ワストンは封書をアキハの分身に渡した。
『これを男爵家に届けて。男爵本人でなく、使用人や門番に渡しても、ちゃんと男爵に届くから、相手に手渡したら、首尾は見届けなくてもいいわ。そのまま、すぐに帰って来て、そしてこの宿屋で、男爵が来るのを待ちましょう?』
『首尾を確認しなくてよいのですか?」
「構わないわ」
「それでは、行って参ります」
フィデラル・ウィンスロー男爵家に手紙を届けたアキハが戻ったその日の夕方、ワストン達が泊まっている宿屋の前に豪華な馬車が泊まった。
その馬車から壮年の男が降りて、一人で宿屋に入ると、アキハの部屋の前を通り越して、ワストンの部屋までやって来てドアをノックした。
ワストンの視点
ドアをノックする音を聞いてからの記憶がない。
気が付けば私はベッドの上で、殿方に身を任せていた。
私の口から、いままで上げたことがない声が漏れる。恥ずかしいから声を上げるのを止めようとしたが、私の体は、私の思い通りにならない。まるで誰かに操られているかのようだ。
そのとき、思い出した。セバス様の言葉を。
『今の私はセバス様に操られているのだわ。いやらしいことはさせないでとお願いしたのに、思いっきりいやらしいことをさせられている』
しかし、よく考えたら、それが目的で手紙を出したのだから、いやらしいことをしないわけがないということが分かっていなかった。
『私としたことが、不覚でした』
そんな感傷を無視するかのように、私の身体が勝手に動く。
この夜、私はフィデラル・ウィンスロー男爵の子を、この身に宿した。




