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第九話 少女と犬の絆

 幸福館のとある部屋に二つの青い炎がある。その一つが、今にも消えそうなくらい、小さくなっていた。


 おや、皆様、またお会いしましたね。幸人です。もうすぐ私の対価の棚がいっぱいになりますよ。いっぱいになった暁には、やっと私は……

おっと、取り乱してしまいました。すみません。 今回は、どんなお客様が来られるのやら。


「幸人様~、お客様連れて来ましたよ」


おや、お客様が来られたみたいですね。では、この辺で失礼致します。皆様に幸あらんことを。



 一人の女の子が、幸福館の扉を開いた。彼女の名前は、羽山聖良。高校一年生だ。

聖良は、薄暗い幸福館の中を歩いていた。しばらく歩くと、少女に出会った。少女は

「ようこそ幸福館へ。私は、この幸福館の主、幸人様の助手の奈美と申します。これから、あなたを幸人様の元にお連れ致しますので着いて来てくださいね」

と、奈美に言われ、聖良は、奈美の後を着いて行く。そして、幸福館の奥にある部屋に着いた。

「この部屋の中に幸人様がおられます。では、どうぞ中へ」

と、奈美が聖良の方を向いてお辞儀をした。

聖良は、奈美に誘導され、部屋の中へ入った。

部屋の中は、蝋燭の炎に灯され、部屋中に霧のようなモヤが立ち込めていた。その中を歩いて行くと、男の人が待っていた。聖良は、その人の前まで行くと、男の人が

「ようこそ、幸福館へ。私は、この幸福館で幸せ案内人をしています幸人と申します」

と、深々とお辞儀をした。幸人は続けて

「あなたは、何らかの不幸があって、この幸福館の扉を開いた。そうですね。ここでは、不幸を取り除き、幸せに案内させて頂いてます」

「はぁ~」

「では、こちらに来て座ってください」

と、幸人に言われ、奈美に誘導され椅子に座った。幸人も、聖良に向かい合って座り、水晶玉に手を伸ばす。すると、水晶玉が、ゆっくりと光だした。そして、幸人が目を閉じて、語り出した。

「あなたのお名前は、羽山聖良様ですね」

「はい、そうです」

「では、あなたの不幸を見させて頂きますので、この水晶玉を見つめて下さい」

と、言われ聖良は、水晶玉を見つめた。すると、聖良は、意識が遠退いて行くのを感じた。その後すぐに、聖良の瞳が虚ろ瞳に変わった。

それを確認した幸人は、 「これが、もしかしたら私の最後の案内になるかもしれませんね。奈美さん、しっかり見ててくださいね。この方を幸せに案内出来たら、奈美さんにして頂く事がありますからね」

と、幸人は、奈美に告げた。奈美は

「分かりました……しっかり見てますね」

「お願いします。それでは、あなたの不幸を聞かせてください」

と、虚ろな瞳の聖良に向かって言った。

「私は……」



 聖良は、明るい性格だ。部活も、熱心にやっている。しかし、聖良には、どうしても苦手な事があった。それは、聖良がまだ小さい頃に、近所の犬に追い回されてしまいそれ以来聖良は大の犬嫌いになってしまったのだ。それ以来、聖良は犬を見ると足が震え、吠えられると泣き出ししまう。

学校から帰る時も、犬がいないような国道沿いを帰っていた。

 ある日、いつものように、部活で泳ぎ疲れた身体に甘いデザートの補充をし、親友の理恵とたわいもない会話で盛り上がって、帰ってる途中に、野良犬が、道路の端っこで寝ていた。聖良は、寝ている野良犬を見て、足が震えだし、身動きがとれなくなってしまった。 そんな状況をみかねた理恵が、聖良の手をとり

「聖良って、本当に犬がダメだよね。あの子だって可愛いじゃない」

と、言いながら引っ張ってくれて、難を逃れた。 「だって、恐いんだもん。昔、追いかけられたトラウマがあるから……」 「ふ~ん。でも、犬もバカじゃないから、聖良がそんなんだと犬も追いかけ回したくなるんじゃないの?」

と、理恵は、苦笑しながら言った。聖良は、目一杯頬を膨らまして

「ひっどい~、笑わないでよぅ~」

「ごめん、ごめん。でも、野良犬っていっぱいいるんだし、少しは克服しなきゃだよ」

「う、うん……分かってるよ。でも、足が動かなくなっちゃうのよね」

と、溜め息をつきながら言った。

「でも、聖良が犬に恐がってる姿は、めっちゃ可愛いかったよ。あんなん見たら、男子はほっとけないだろうな。聖良って可愛いから」

「もう、茶化さないで」 二人は、それからそれぞれの家路に着いた。

聖良は、理恵と別れ家に帰る途中に、再び野良犬と出会ってしまった。聖良は、足が震えながらも早く、野良犬から離れようと必死に歩いていたが、野良犬が突然

「ウゥ~、ワン!」

と吠えた。吠えられた聖良は、身体から血の気が引くような感覚に見舞われ、足の力が抜けてしまい、腰を抜かし、座り込んでしまった。野良犬は、ゆっくりと聖良の元にやって来ると、

「ワンワン、ワォ~ン」 聖良は、腰が抜けて立てれない。聖良は、泣きながら

「きゃぁ~、こっちに来ないで。私、君に何も悪い事してないよ。お願いだから来ないで」

と、泣き叫びながら、後退りした。

野良犬は、そんな聖良にお構い無しに、聖良の目の前に行き、口を開け鋭い牙が、夕日に当たって、キラっと輝いた。

聖良は

「私、もう駄目。このまま噛まれて狂犬病になって死んじゃうんだ。不幸だよ。やっぱり犬なんて好きになれない……」

と、目を閉じた。しかし、聖良は噛まれていない。聖良は、恐る恐る目を開けると、そこに、少女がいた。少女は、聖良の近くにいた野良犬の頭を撫でていた。

野良犬も頭を撫でられて嬉しいのか、甘えた声で鳴き去っていった。

少女は、聖良の方を向き 「お姉ちゃん、犬が恐いの?」

「えっ、うん。犬が嫌いなの。助けてくれてありがとう。私、犬を見たら足が震えちゃうんだ。笑っちゃうでしょ。私、不幸だよ」

と、少女に言った。すると少女が

「お姉ちゃん、不幸なんだ。だったらいいところに連れて行ってあげるよ。着いて来て」

と、少女に手を引っ張られ、起き上がると、聖良は、少女の後を追った。しばらく行くと、少女は大きな館の前で足を止めた。

「ここが、いいところなの?」

「うん! そうだよ。さぁ、早く中に入って」

と、少女に言われ、聖良は幸福館の扉を開いた。


 聖良は、虚ろな瞳のまま全てを語った。幸人が、指を鳴らす。すると、さっきまで虚ろな瞳だった聖良の瞳が元に戻り、聖良も正気を取り戻した。それを確認した幸人は 「あなたの不幸を聞かせて頂きました。あなたは、極度の犬嫌いなのですね。犬と目が合うと犬が近寄って来てしまうのですか? それが、あなたにとっての不幸と言う訳ですね」

「はい、そうです。私も、克服はしたいんですが、なかなか……」

「分かりました。あなたの不幸を取り除き、幸せへ案内致しましょう。しかし、その為には、あなたの大切な物を対価として頂きますがよろしいですか?」

「大切な物? 分かりました。幸せなれるなら」 「かしこまりました。では、対価を頂きます」

と、言って幸人は、聖良の前に立ち、聖良の目の前に手を伸ばした。すると、幸人の手が光だした。しばらくすると光が消えて

「これで、対価を頂きました。しかし、私に対価を払った事を誰かに言ったりすると、たちまち不幸になりますのでお気をつけ下さいね」

「分かりました。気をつけます」

幸人は、再び聖良の額に人差し指を付けておまじないを書いた。

「これで、全ておわりました。では、聖良様に幸あらんことを」

その瞬間、聖良の目の前が真っ白になっていく。しばらくして聖良も気を失った。



 聖良の目が覚めた時には、幸福館は消えていた。聖良は、不思議な気分だったが、聖良はそのまま家路に着いた。家に帰る途中、雨が降りだした。聖良は、少し遠回りして帰ろうと、大きな道に出て、帰っていると、聖良の目の前に白い犬がいた。聖良は

「お願いだから、こっちに来ないで」

と、心の中で叫んでいると、白い犬は、急に、反対側へ渡ろうとしたのか、道路に飛び出してしまった。聖良は

「あっ、危ない」

と、叫んだが遅く、白い犬は、猛スピードの車に轢かれてしまった。

白い犬は、白い毛並みがみるみる、血で赤く染まっていった。聖良は、苦しんでいる白い犬と目があい

「お願い、助けて」

と、白い犬に言われたような気がした。

聖良は、いてもたってもいられなくなり、白い犬の元へ駆け寄った。

「どうしよう、このままじゃ、死んじゃう」

聖良は、携帯電話を取り出し、母親に電話かけ、母親が来てから一緒に動物病院へ連れて行った。 白い犬は、一命をとりとめ、聖良が、引き取ると言い出した。それを聞いた母親が

「あんた、犬嫌いでしょ、大丈夫なの?」

「だってほっとけないよ。私も頑張るから」

と、言って白い犬の頭を撫でた。

 その後、白い犬は、ケリーと名付けられ、事故の後遺症で半身麻痺になったが、聖良は、根気強くケリーのリハビリをした。その内、聖良は、ケリーにだけは、平気になっていた。

そんな中、理恵の協力もあって、ケリーは、少しづつだが、歩けるようになり、聖良とケリーの絆は、ますます強くなった。しかし、そんなケリーと聖良に突然別れがやって来た。

それは、聖良がいつものように、ケリーと散歩していると、聖良は何か胸騒ぎを感じていた。

何だろうとボーッとしていると、聖良の前に猛スピードの車が現れ、聖良が

「轢かれる。私死んじゃう」

と、思った瞬間、ケリーが、自分を犠牲にしてまで聖良を突き飛ばして、ケリーだけが轢かれてしまった。聖良は、ケリーに突き飛ばされた瞬間意識を失っていた。

病院で、目を覚ました聖良は、ケリーに助けられた事を知り、瀕死の状態のケリーの元へ行くと、ケリーも最後の力を振り絞って、聖良の泣き顔を舐めた。その時、聖良は 「私もたのしかったよ。今までありがとう」

と、ケリーが言っているように感じた。

そうして、ケリーは、静かに目を瞑り、命の灯火は消えた。

その後、聖良は、ケリーの月命日には、ケリーの墓に行き

「ケリーのおかげで犬が大好きになったよ。今は、たくさんの子達に愛情そそいでるよ」

と、ケリーの墓に告げた。聖良は、あの時に、払った対価は、きっとケリーだったんだと思いながら、今では、パピーウォーカーとして幸せに暮らしている。



 一方その頃、幸福館では、

「聖良様は、幸せになられたみたいですね。先程、対価として頂いた、ケリーと名付けられた犬の魂が来ました。これで、私の対価の棚はいっぱいになりましたね。これで、先代の幸人様との約束は果たせました。奈美さん、今度は、あなたが、三代目の幸せ案内人としてやって頂く事になりますよ」

と、幸人は、奈美に告げた。奈美は

「私、どうしたらいいのでしょうか?」

「そうですね。まず、幸せ案内人になるには、改名しないといけません。本名を訪れたお客様に知られてはいけないので。では、奈美さんこちらに来てください」

と、幸人は、奈美を魔法陣の上に立たせた。幸人は、目を瞑り

「汝、奈美、そなたをこれより幸せ案内人に命ずる。名を幸乃とする」

と、幸人が言うと、魔法陣が光だし、奈美の身体を包んだ。光がおさまると、魔法陣の中には、五歳の奈美がいたはずなのだが、どう見ても、十六歳ぐらいの女の子がいた。女の子が魔法陣からでると、幸人の前に立ち、お辞儀をして

「幸人様、お疲れさまです。今、この時より私、幸乃が、幸せ案内人として皆様に幸せを案内いたします」

と、幸人に言った。

「幸乃さん、頑張ってくださいね。私は、もうすぐ消えてしまいます。私には、先代に払った対価があります。その対価が何かは言えませんが、先代との約束は果たしました。あとは、幸乃さんに任せますね」

「幸人様……分かりました」

「では、いつの日か」

と、言って、幸人の身体が消えていった。

 その瞬間、とある部屋の中にある、青い炎の一つが消えた。



 皆様、いらしてましたか? 私も、たくさんの人を幸せに出来て、たくさんの事を学びました。 私は、これで、皆様ともお別れですが、最後に、私の過去を皆様に見ていただこうと思っております。何故、私が、幸せ案内人をしているのか?

もし、興味のある方は、また幸福館へいらしてください。

では、皆様、またいつかお会いできる事を願ってます。

それでは、皆様に幸あらんことを。

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