始まりの朝?夜?夕方?
バルトリカに乗ってマギアロイドに向かい帰路を進む一同、その顔は疲れに満ちていた。
半年ほど前に宇宙貴族の魔の手から家族と世界を救い、新たに再出発したジン達。その仕事は評判が良く頼りにされることも多かったが中々ハードな仕事も含まれているようで解決した後、一同は疲れ切ってすぐ帰るという生活を繰り返していた。
「金は貰えるが、、、そろそろしんどいが勝つぜ」
「ジンさん、アタシは明日一日中だらけるっス」
そんな二人の元にテュールが駆け込んでくる。
「ねえねえ!髪の毛ピースに切ってもらったよ!どう?前髪パッツンで後ろはロング!」
テュールは黒い女性ものの服をを着ているが、肉体は正真正銘の男ではある。ある事情から性自認というものがほぼないようで自分の好きな服を着ることが多く、もちろんそれは見た目にも繋がってくる。
この前はオールバックに革ジャン着てたなとジンは思い出しながら返答する。
「いいと思うぜ」
「あっ適当に返事したでしょ!まあいいけどさ。そろそろ寝る?」
「まあそうだな、、、着いたら起こしてくれ」
そう言ってジンは部屋に戻っていく。
「なんか怒らせちゃったかな?」
「そんなことないっスよ、疲れてるだけっス」
「今回はなんで僕ら四人だけだったの?」
「当番制の導入っスよ。毎回全員で言ってたら休める時間少ないっスから」
「けど、ジンは毎回言ってるよね?」
「やることないから言ってるらしいっスよ」
「心配ねえ」
いつの間にか横にピースが立っていた。
「びっくりした!ねえピース!この髪型似合ってるってさ!」
ピースとテュールは談笑を始める。
ナタリアは整備するものがあるといい自室に戻る。
同刻、部屋のベッドで眠りに落ちていたジンはある夢を見る。
路地裏で猫がまっすぐ見つめてくる。ジンもじっと見つめ返している。
猫は動かない、だからジンも動かない。
なぜ猫が動かないことに倣っているのかと変な気分になりジンは路地裏から出ようとする。
その時後ろから声がかかる。
「今のままでいいの?」
ジンは振り向くそこには猫しかいない。
本来ならありえないがありえないことは嫌というほど経験してきた。
「今のは、、、お前か?」
ジンの言葉を無視して猫は話す。
「あなたにはもっと大きなことを為す力がある。それを無駄にして何がしたいの?」
「そういう類の話はもう済んでんだよ。他を当たれ」
ジンは路地から出ようとすると再度声を掛けてくる。
「そう、、、安心した」
急いで振り返り最後の言葉の真相を聞こうとしたところで現実に引き戻される。
ベッドの上でテュールがジンに重なるように寝転びバタバタと足をばたつかせながら起こしている。
「着いたよ!ジン!起きてよ!」
「、、、んー、起きてるぜえ、、、ねみい」
テュールの脇を抱えて起き上がりながらベッドの横に移動させる。
船を降りるとマギアロイドのターミナルである。この惑星が丸々、彼らの拠点となっている。
そのため使えていない土地の面積が莫大であることは言わなくても分かるだろう。
半年前に暴いた宇宙貴族ロード家の悪事、それの賠償はあらゆる方面にあらゆる形で払われていた。
ジン達、レッドアームファミリーも例外ではなくロード家の財産の0.1%が渡されることとなった。
それが惑星マギアロイドであった。
徐々に緑は増えて自然も広がっているようだ。
深呼吸すると心地よい空気が肺を満たしてくれる。
「ねえジン」
「なんだ?」
「お金ってそんなに困ってるの?」
「いや、そんなことはないぞ」
「だったら、みんなで旅行でも行こうよ。休暇取ろう」
テュールの提案にジンは驚く、そんなこと考えたことがなかったからだ。
「んー、、、まあ、また今度な。何ならオリヴィアとかマーガレットと行ってくるかテュール?」
テュールは残念そうな顔を一瞬した後、顔をしかめてもういいと言い去っていった。
「なんか変なこと言ったか、、、」
「みんな心配なのよ、ジンちゃん」
「ピース、、、つってもなあ」
ジンはピースと雑談しながら建物の中に入る。
最新設備が設置されているこの場所は拠点であると同時にホームでもある。
彼らは自分の部屋に戻り一息つけば皆自由に行動する。
ジンは食事の時間まで自室で今回の依頼の報告書を作る。
「子供が神隠しに合う事件だったよな、、、神骸絡みではなかった」
独り言をつぶやきながら報告書を作成する。
ナタリアに作ってもらった電子眼鏡をかけて文章の添削を行いながら画面とにらみ合いをしているとドアがノックされる。
「なんだ」
返事をすると扉が開く、そこには赤髪のにそばかすの女性が立っていた。
「ジン、ご飯ですよ。今日は皆で作って食べるみたいです」
「ああ、悪い。すぐ行く」
「最近大丈夫ですか?ずっと仕事ばかりですけど」
問題はないと答えジンはへの明かりを消して向かう。
食卓には円型の食べ物が置かれていた。
「なんだこれ?」
「テュールが、教えて、くれた」
「お好み焼き!それとマンドラゴラの丸焼き」
テュールはは初めて食べた料理だからなのかマンドラゴラという動物の丸焼きがえらく気に入っている。
「お好み焼き、、、何がお好みなんだ?」
「好みの食材を焼くからじゃないかな、そんな細かいことに腕の力は使わないから分かんない」
別次元の知識で例えたり料理を食べたいと再現するのは好きだが、深いところまで力を使おうとしない。だからこそ、バランスよく力を使えているのだろう。
各々がお好み焼きを作り始める。
「兄さま、そういえば先ほど郵便が届いていましたわよ」
「郵便?何も注文してないぞ」
席を離れて、留守中に当人宛にものが届いたときに置いておく籠を見に行く。
封筒の表面にはこう書かれている。
リゾートYOSHINO 惑星コイル 一週間の旅
「俺の記憶にないな、これ誰か頼んだか?」
ジンは食卓に戻り封筒を見せる。
誰一人として申し込んだと言わないので全員がテュールを見る。
「僕じゃないよ」
「本当か?前も通販番組で勝手に頼んだろ」
「違うよ!あれでむちゃ怒られたから、申してないもん」
「嘘はついてないですわ」
オリヴィアはテュールの思考状況を読み取ったのだろう。
「勝手に頭の中見ないでよオリヴィア」
ジンは封筒を開けて中身を呼ぶ。
「この度は厳選なる抽選の結果、見事に当選したことを通知します、、、申し込んだ覚えもないんだけどなあ、まあいいや行きたい奴がいるなら譲るぜ」
「ジンさんが行けばいいじゃないですか」
「そんな時間はまだない」
ジンの言葉に変な空気が流れる。封筒を机において席に戻りお好み焼きを食べる。
全員が食事を再開するなかナタリアは封筒の中身を読みなおす。
「これ、、、ちょうど七人分っスよ」
その言葉に全員が驚く、行けると思っていなかったが今は違う。
「コイルと言えばすごい観光惑星って聞いてますよ」
「僕行きたい!」
「私も行きたいですわ」
「マッドも、行きたい!」
「せっかくなら私も見てみたいものがあるわあ。今検索したてるだけだけどお」
ジンはお好み焼きを箸で持ちながら答える。
「だったらお前らで行って来いよ。俺はやることがある」
するとナタリアはがっかりした顔をして席に座る。で
「じゃあこの話は無しっス」
ジンは少し驚いたような顔をしてナタリアを見る。
「なんだよ。そんな言い方ないだろ」
ナタリアは封筒の中身の紙を一枚見やすいように前に出す。
「ここに書いてあるっス、『同行者は自由だが、必ずジン・レッドアームが同席すること』と書かれてるっス」
全員がジンの顔を眺める。ジンは耐え切れずに答える。
「分かった!分かったからそんなこっち見んな!皆で行きましょう、そうしましょう」
その言葉に全員が喜びの言葉を出し、各々が旅行の準備の話をする。
食事を終えてジンは部屋に戻る。
報告書の続きを仕上げているとマーガレットが再び訪ねてくる。
「、、、楽しみですね」
「ん?ああ、そうだな」
「どうしたんですか?」
「いや、宛先がジン・レッドアームになってる。俺は口頭ではジン・レッドアームを名乗っているし、あれからの登録もレッドアームを使っているが、この配達会社は登録がヴォルフのままなんだよ。どうあれ俺の正体を良く知ってる可能性が高い。興味深いぜ」
返答がなく、不思議に思いジンは振り返るとマーガレットは心の底から呆れた顔をしている。
「旅行が楽しみだからOKしたのではないのですか?呆れましたよ流石に」
「いや、旅行も楽し、、、」
「仕事や神骸に関することしか興味ないんですか?」
少し語気が強くなる。しかしジンは半笑いで答えてしまった。
「なに熱くなってんだよ。別になんだっていいだろ細かいことは」
「細かくないです。この半年の間デートなんて全くしてくれなかったじゃないですか」
ジンはマーガレットの怒りにたじたじになる。
「いや、七回ちゃんと計画しただろ?」
「七回中何回行きましたか?」
「それは、、、」
「ゼロです!一回もデートなんてしてません!仕事が入ってばっかり!」
マーガレットのいきなりの不満にジンは焦る。
「おいおい、落ち着けよ。たかがそんなことで、、、」
ジンは話を途中でやめる。マーガレットが本気で悲しんで怒っているのを感じたからだ。
「たかが、、、そう、ですか。そうですよね、、、私との時間なんてたかがその程度ですよね」
マーガレットは言い放った後すぐに部屋を出ていく。
一人ポツンと部屋に残されたジンは自身の失態に嫌気がさして頭をかく。




