第18話 僕は46億年の歴史に絶望した
その後、僕は何度も戦った。
宙を飛ぶ虫たちと戦った。空高く佇む樹の葉っぱに体当たりもしてみた。何度か訪れる絶滅イベントに、僕の全財産を賭けたりもした。
しかし奴らはしぶとかった。
絶滅イベントがあるたびに株価を急成長させるスタートアップがうようよ発生する。いくら隕石が降ってこようと、氷河期が来ようと。
陸上では四足歩行動物が我が物顔で闊歩し、植物はあたり構わず花粉と種を撒き散らす。
植物というやつがいかに悪質な生き物か、僕は窒素の身になってつくづく実感した。
奴らは土中の生物と結託して、いとも簡単に窒素を食いやがる。一度取り込まれたら、なかなか人質生活から解放されない! おかげでうんこ妻が大量発生してしまった。相変わらず反社グループCにはえっちなものを押し付けられるし。
そうしてなんとか逃げ出して大気に這いずり出ると、今度は恐竜がのさばっていた。
これには僕もちょっとテンションが上がった。生の恐竜は格好良かったし、迫力満点だった。窒素の身なのに、ティラノサウルスには毎回びびった。首長竜が泳ぐ姿は最高だった。
しかし奴らの縄張り争いを見ているうちに、僕は次第に隕石落下を待ち遠しくなった。
隕石は、ある日突然やってきた。
その瞬間、僕はまた人質生活に舞い戻ったが、今度こそ生命が大絶滅してくれたので、思い残すことはなかった。
もう、うんこ妻に囲まれても構わなかった。反社グループCのえっちな売りつけも、もう気にしなかった。細菌どもに蝕まれても、もう平気だった。
そんな日々が千年々過ぎた。
僕はある日、地中から出た。
洞窟の中で火を起こす毛むくじゃらの猿たち。
もう、こんな時代まで来たのか。
この先この猿たちがどうなるのか、僕は知っている。地球を破滅に追いやる破壊生物だ。
だけど僕にはもう、どうでも良かった。
僕は、窒素だった。
(※作者の思考とは別物です)
(※本作は誇張なく理科を語っています。他意はありません。本当ですよ)
(※生物進化史は端折りましたが、序盤の動物行動含めほぼノンフィクション科学です)
(※本作を地球史理解に活用頂くのは光栄ですが、酸素を粗大ゴミうんこと書いたり、炭素や水素との化学反応をCとのいかがわしい取引と書いたりして間違えても、作者は責任取りません)
(※作者は生命活動を支持するただの自然史好きです)




