第18話 どうだ、護衛チーム結成だろう
国王アルジャンとの謁見から数日後、成金は二人の人間を自宅に招待していた。
令嬢ソフィアと町の番兵ダイムである。
「私たちを国王陛下の護衛に? あなたもついに私の力を欲する時が来たのね」
「その通りだろう」
成金がアルジャンに言った「推薦したい二人」とは、ソフィアとダイムのことだった。
さて二人の返事は――
「あなたがそこまでおっしゃるのなら……手伝ってあげてもよろしくてよ」
「俺もかまいません! 是非手伝わせて下さい!」
「かたじけないだろう」
成金は頭を下げる。
実際のところ、ソフィアのコイン投げの技巧とダイムが将棋で培った大局観は国王護衛という任務においても、大いに役に立つと踏んでいた。
適材適所は商売における基本中の基本である。優れたビジネスマンである成金ならではの判断であった。
「では景気づけに一杯やるだろう」
成金が手を叩くと、ローザがワインボトルとグラスを持ってきた。
「まあ、これはいいワインですわね」
「さすが成金さん!」
「景気づけだろう。こういう時は贅沢するに限るだろう」
頭を下げて退室しようとするローザを成金が呼び止める。
「ローザ君、今日は君も一杯どうだろう」
「よろしいのですか?」
「ああ、酒の席は一人でも多い方が楽しいだろう」
「ではお言葉に甘えて」
ローザもソファに座り、グラスを傾ける。
所作は上品で美しく、貴族であるソフィアも感心してしまう。
「さすがですわね、ローザさん。成金がパートナーとして信頼するだけのことはありますわ」
「ソフィア様こそ、旦那様と共闘し、好敵手とお認めになっただけのことはありますね」
認め合うような言動をする二人。
「だけど負けなくてよ。女としても、成金の相棒としても」
「その台詞、そっくりお返しいたしますわ」
火花を散らす令嬢とメイドに、ダイムも思わず声を漏らす。
「いやぁ、両手に花ってやつですね。成金さん」
「二輪とも、とても手強い花だろう」
***
国王による演説がある前日、護衛チーム三人は王都へ向かうことになる。
馬車はソフィアが用意した。
いかにもソフィアが好みそうな豪勢な馬車であった。金箔が貼られ、竜の意匠まで施されている。
「王都に向かうなら、これぐらいの馬車じゃありませんとね」
「ちょっと派手すぎるだろう」と成金。
「俺もこういうのはあまり……」ダイムも顔をしかめる。
「うるさいわね! 馬車なんていうのはちゃんと目的地に着けばなんでもいいのよ!」
「先ほどと言ってることが違うだろう」
とにかく豪華馬車で王都を目指すことになった一行。
しかし、馬車内は退屈である。
ソフィアが景色を見ながらため息をつく。
「何かゲームでもしませんこと?」
ダイムが反応する。
「だったら将棋でもやりませんか」
ダイムは将棋盤を持ってきていた。
するとソフィアも目も輝かせる。
「将棋ってチェスに近いゲームよね。私もやったことあるわ。是非やりましょう!」
経験者同士、さっそく対局する二人。
「これで、飛車いただきですね」
「強すぎますわー!」
ソフィアの腕前ではダイムの相手にはならなかった。
ダイムの棋力を知っていた成金はこうつぶやいた。
「こうなることは分かってたろう」
***
馬車が王都に到着すると、三人は城を目指す。
国王演説の前日は城に宿泊させてもらうことになっていた。
生まれて初めて王城を目の当たりにしたダイムは、その巨大さに圧倒される。
「でけー……」
「どうだ、たまには見上げるというのもいいものだろう」
「そうですね。マルカの町にはこんな見上げるような建物ありませんし……」
上を向いたままのダイムに対し、ソフィアは眉をひそめる。
「みっともないですわよ。おのぼりさんじゃないんですから」
ダイムもムッとする。
「じゃあソフィア様はお城に驚いたりしないんですか?」
「当然ですわ。私はお城なんて何度も見てますもの」
「だったら俺に、城の中を案内して下さいよ。どこに何があるとか」
「……」
ソフィアは黙り込んでしまう。
「ほらー、ソフィア様だってあまりお城のこと知らないじゃないですか!」
「うるさいわね! コイン叩き込みますわよ!」
成金はいつもの笑みでこうつぶやいた。
「あまり見栄は張らない方がいいだろう」
***
三人は客用の寝室に案内される。
本来は男女別室にするべきだが、チームを組む同士で分かれることもないと、ソフィアの希望で同部屋となった。
ダイムはベッドを見てはしゃぐ。
「こんなでかいベッド初めて見ましたよ!」
ベッドに寝そべり、弾力を利用してぼよんぼよんと跳ねる。
「まったく……これだから庶民は……」
しかし、見ているうちにソフィアの中にも遊び心が芽生えてきた。
「楽しいですわー!」
ソフィアまでぼよんぼよんと跳ね始めた。
二人を見て、成金は呆れてしまう。
「やれやれ、二人ともまだまだ子供だろう」
しかし、見ているうちに――
「どうだ、楽しいだろう!」
結局三人でベッドの上で跳ね続けた。
やがて、三人がこの遊びに飽きた頃にはすっかり疲れ果ててしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……もう無理……」
「私としたことがはしゃぎすぎましたわ……」
「ぜぇ、ぜぇ……どうだ、とても疲れたろう……」
食事を取ると、そのまま三人はぐっすり眠ってしまった。




