第16話 どうだ、国王から呼び出しだろう
成金が闘技大会で優勝したことは、マルカの町でも広まっていた。
「優勝おめでとう、成金さん!」
「強かったんだなぁ!」
「一流の拳法家に勝っちゃうなんて!」
成金も笑顔で応える。
「みんな、ありがとうだろう」
もちろん、成金と縁のある人間たちの耳にも入っていた。
特にソフィアなどは花束を持って成金の元を訪れ、
「闘技大会で優勝したそうね。まあ私のライバルなんですから、そのぐらいできて当然ですわね」
「どうもだろう」
と上から目線で成金を褒め称えた。
しかし、こんな成金にまた一難が降りかかることになるのだった。
***
成金は家で庭木の手入れをしていた。
「この枝を切るだろう」
切るのはもちろんハサミではなく、よく研いだ紙幣で行う。成金からすればハサミより紙幣の方が扱いやすく、結果として木に与えるダメージも最小限になるという。
そのおかげなのか、成金宅の庭木はどれも健康的に生長している。
メイドのローザがやってくる。
「旦那様、お客様です」
「誰だろう」
「王都から来られた……お役人とのことです」
「分かったろう」
商売上、成金は役人と打ち合わせすることも多いが、“王都の役人”というのは流石に珍しい。
成金は作業を中断し、役人と会う事にした。
役人は茶色い制服を身につけた、七三分けの男だった。
リビングにて、テーブルを挟んで二人は向かい合う。
まずは成金から切り出す。
「王都からわざわざお越し下さって、どんな用件だろう」
「国王陛下があなたにお会いしたいそうだ」
成金は驚く。
成金は大富豪だが、身分は平民である。一国の君主が平民に会いたいと使者を送るなど、滅多にないことだ。
「なぜだろう」
「あなたの数々の功績は聞いている。放火犯を捕まえたり、山賊を倒したり、先日はレアルで行われた闘技大会で優勝したとか」
「どうもだろう」
「しかし、同時に気になる噂も耳にしている。あなたは自分で稼いだ紙幣を、とんでもない使い方をしていると。これに陛下は大変ご立腹だ」
国王は成金を褒め称えるというよりはむしろ、糾弾したいらしい。
しかし、功績はある人物なので、実際に会って話を聞いてから沙汰を決めたいとのこと。
「分かっただろう」
「では……謁見は一週間後ということで、王都にてお待ちしておりますよ」
役人は用件を述べ、謁見の詳しい日時などを告げると、邸宅を後にした。
残された成金は独りごちる。
「王様と会うのは初めてだろう」
***
一週間後、成金は馬車を邸宅の前に呼び出す。
「ではローザ君、行ってくるだろう」
「行ってらっしゃいませ」
国王との謁見次第では、成金の立場は危うくなるが、ローザは落ち着いたものである。
成金はそのローザの冷徹さを心地よく感じていた。
王都に向かう馬車に揺られながら、成金は紙幣を見る。
成金はこの紙幣を燃やしたり、投げたり、振り回したり、防御に使ったり、さまざまな用途に使って助けられてきた。
しかし、そのせいで今回国王に呼び出されることとなった。
だが、不安はなかった。国王の前でも自分のやり方を貫くのみ。
「きっと大丈夫だろう」
成金はいつも通りの温和な笑みを浮かべた。
***
数時間後、馬車が王都に到着する。
王都は城壁に囲まれた巨大都市である。マルカの町と比べると、面積は広く、人口も多い。そしてなにより華やかである。
成金は御者にチップとして札束を渡すと、城下町に入っていく。
賑やかな大通りに差し掛かる。
成金は太った体で人をよけながら歩く。
「マルカの町に慣れるとこの人混みは一苦労だろう」
露店が立ち並ぶ区域。成金はチョコレートパイを売っている店に目をやる。
「どうだ、一つ欲しいだろう」
「毎度!」
チョコレートパイはおいしかった。
生地はサクサクで、中にはふんわりとしたチョコレートが入っている。
「また太ってしまうだろう」
成金は食べながら自嘲した。
すると――
「おかーさん、どこー?」
成金は迷子になっている少女を見つけた。
この人混みでは、幼子が迷子になってしまうのも無理はない。
成金はいつもの笑顔で少女に近づくと、「一緒に捜してあげるだろう」と声をかけた。少女も成金を信頼し、大人しくついてきてくれた。
ところが、しばらく捜しても少女の母親はなかなか見つからない。
「こうなれば最後の手段だろう」
成金は一枚の100リエン紙幣を取り出すと、それを手放した。紙幣はひらひらと舞い、どこかへ飛んでいく。成金と少女はその後をついていく。
紙幣はまもなく、一人の女性の元にたどり着いた。
「おかーさん!」
「ああっ、捜したのよ!」
成金にかかれば紙幣は人捜しの道具にもなる。
母子に礼を言われ、成金も微笑みを返す。
「おかげで肩の力が抜けただろう」
やはり成金も初めての謁見は緊張していた。だが、いつものように人助けをしたことで気持ちが楽になった。
少女の母親を見つけた地点はちょうど城の近くであった。
石作りの巨大な城が、成金を見下ろすように鎮座している。
「さあ、行くだろう」
国王と謁見するため、成金は門を守備する兵士に話しかけた。




