第一話
死んだ。
間違いなく死んだ。
夏の気まぐれな、ゲリラ豪雨。真昼間だというのに、一メートル先も見えない土砂降りの雨のカーテンだった。
そこで、タバコ屋の軒先を借りるのは、ごく当たり前の行動のように思う。
タバコ屋はもうすでに営業して何年もたっていて、シャッターが閉まっている。脇に自販機があった。
俺は、しばらくすれば止むだろうと、スマートフォンを取りだす。
今思えば、それは命取りであった。
キキィッという甲高いスリップ音が聞こえた時にはもう遅い。
交差点を無謀な速度で曲がってきたトラックが、ガードレールをもろともせずに俺に突っ込んできたのだ。
あ、これは死んだな。
最期の瞬間は、何というか、何も思わなかったというか……思う暇がなかったというか。
痛みを感じる暇もなく、意識を失ったことから、恐らくは即死だったのだろう。トラックに押しつぶされたのだから、体は恐らく……やめとこう、気分が悪くなるだけだ。
まあ、ともかく、俺は死んだ……と思ったら、奇跡的に生きていたらしい。
目が覚めると、見知らぬ天井がある。
声を出そうとすると、「アー、アー」出ない。体も、思うように動かない。
あー……こりゃ、奇跡的に助かって重度の障害が出たパターンかね……
はあ……まあ、仕方ない。頑張るしかない。
「あらあら、どうしたの、お腹がすいたの?」
「っ!?」
女の人の顔がのぞき込んできた。何、看護婦さん? え? え? え? でかくない?
つか、髪が赤いし……ちょっとはっちゃけすぎじゃない?
困惑する俺をよそに、女の人はごそごそ、下半身をまさぐる。
「うーん。おしっこじゃないみたい。やっぱりお腹が空いたのかな。待ってて。お母様を呼んでくるから」
お母様? お袋か?
と母親が現れると聞いて、俺は一気に冷静になった。
どうせ泣くんだろうなあ……案外、涙もろいんだ、あの人。
まあ、死んでないだけ、もうけもんだと思ってほしいんだけど。
「アーニャ、どうしたの?」
「赤ちゃん、お腹空いたみたい」
そんな声が聞こえてくる。違和感。まったく聞き覚えのない声。
俺の顔を覗き込んだのは、金色の髪をした右目が赤、左目が緑の美女で、結構な美人だった。
えっと……あなた、誰ですか?




