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何でもない凡人が理想の一刀に届くまで〜ゲーム世界に転生したモブ、最強の裏ボスに弟子入りする〜  作者: 栗色


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第四話 未だ届かぬ一撃

「ここが、マガツキ学園都市……」


 あれ以降、何事もなく船は港へと入港した。

 キリエは周囲に混じるようにタラップで降りる。


 周囲の人間はやはり受験生が大多数を占めていて、マガツキの景色を物珍しそうに観察している。反応は様々で、単純に景色に感動している者、研究的な意味で興味深そうに観察を始める者、全土から見渡せる大きさの境界門を見て戦意をたぎらせている者などがいた。

 受験生以外にも熱心な彼らの親御さん方や、マガツキに店を構えているであろう大人たち――そして制服を着た者たち。


 キリエの前を仲良く歩く数人のグループの中には、将来改造実験を施されて肉塊になるカエデがいた。

 彼女は友人であろう王城学院の女子たちと仲良く話している。恐らく彼女たちは護衛だったのだろう。


(やはり、無手か)


 一見するとカエデは武装をしていない。他は武器を持っているはずなのに彼女だけは持っていない。

 先程魚人を討伐した際は、大剣を手に持っていたはず。


 船に忘れてきた、なんてヘマはしないだろう。

 もし忘れてきたとしても彼女の友人が指摘するはず。


 となれば答えは一つだった。


「開花に至っている。……なるほど、だから狙われたのか」


 開花。

 それは魔剣士の第二段階。疑似神経が溶着し、各人に対応する特別な力……固有能力が目覚める。


 共通する恩恵として、魔剣の召喚を可能とすることができる。

 確か平均では、五年以上の歳月が必要なはず。終わりかけとは言え一年生の時点で開花を発現するとは大した才能と言えるだろう。


「…………ふむ」


 キリエは視線を元に戻す。

 先程から花吹雪が舞っている。


 その正体は、受験者を応援しに来たマガツキの住人たちだった。

 まだ受験日じゃないし、今回以外にもまだ受験者は来る。もしかして毎回やっているのだろうか。


 暇人かよ、というキリエの呆れは風に消えていった。


「頑張れよー!」


 激励を受けた受験生たちが表情を引き締める。

 見知らぬ土地に浮かれていないで試験に集中しないといけない、といった雰囲気が出来上がっていく。


 生憎とキリエは推薦状をもらったので、悠々自適に受験日までゴロゴロすることができる。

 ……少しだけ、受験に挑む彼らに申し訳ない気持ちになる。本来功績を上げたものが推薦状をもらうことができるのに、キリエは何もしていないから。


 気分は裏口入学のようだった。

 親が勝手に裏金を渡して当人は寸前まで知らなかったような、そんな気まずい感じ。


「……………………………!」


 キリエの憂鬱な気分は一気に吹き飛ばされた。

 こちらを激励するマガツキの住人の、さらに奥。


 口端が吊り上がり、弧を描く。


「——見つけた」


 これでキリエが探偵のような真似をする必要はなくなった。



 ◆◇◆



 聖カタリナ学区。

 緑地化実験の末に誕生した森林地帯、そのさらに地下。


 誰にも見つからないような薄暗い部屋に、数人の男女がいた。

 研究者のような白衣を身に纏い、その下には濃紺の制服に金のブローチ。聖カタリナ学院の生徒たちだ。


「……やはり、理論に基づくと才能に溢れた素体が必要だ。いくら演算を行っても失敗の結果が出る」

「君が素体になればいいんじゃないか?僕らの中で一番条件に当てはまるのは君だろう?開花も経ている君が一番強い」

「無論試したさ、だが結果は同じ。過程も同じ。数秒しか負荷に耐えきれないと結論を出した」


 うんうん、と唸るカタリナ学院の生徒たち。


「才能に溢れた素体……それ以外に道は無いか」

「ですが、どうするのですか?貴方ですら数秒となると……確実に耐え切れそうなのは王城の【万雷】や金炉の【残夜】くらいです。捕縛は不可能ですよ」


 代案、他手段、いくら考えてもこれといった答えは出ない。

 今現在、彼らは手詰まりの状況だった。


「……少しでも負荷を減らす。いくら演算をしてもこのままの材料だと不可が出るだけだ。情報をかき集めて、最適化させる」


 異を唱える者はいなかった。

 この場の誰もがそれしか選択は無いと判断したためだ。


 そう結論づけたところで、コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。


「誰だ?」

「いくばくかの歳月」


 設定した合言葉により、一人が扉を開ける。

 この研究所は第三者に見つかってはいけない。そのためこちらの人間か、偶然の折り重なりで辿り着いてしまった住人ではないか確認する必要があった。


 一人が扉を開け、入って来た者を歓迎する。


「遅かったじゃないか」

「悪い、向こうでトラブルがあったらしい」


 入って来た者は研究者ではなく、現地に赴いて素体を攫う役割を担っていた。

 この中で二番目に実力があり気配察知に敏感な者が彼だった。


「それで?何か収穫は?」

「ある」


 自身を持って言われたその言葉に、会話を聞いていた研究者たちは色めき合った。

 誰もが興奮した様子で言葉の続きを待っている。


「名前は柊カエデ。王城学院の一年生」

「一年?不適格じゃない?」

「いいや……柊カエデ、聞いたことがある。確か入学して半年で開花に至った生徒だ。入学するまで魔剣を持ったこともないことは確認済みだ」


 何だと!?という驚きの声が上がる。

 半年で開花に至るなど、尋常の事ではない。


「……これは、あるかもしれない!」

「ああ!」


 喜色に満ちた彼らの声。

 暗闇にも思えた試みに、一筋の光が差したような気がした。







 ——斬れる。


 そして、その光は断たれることになる。


「え」


 誰かの声が聞こえた。

 超巨大な光が迫っていた。この部屋を埋め尽くすほど大きな半透明の光。


 半透明の光……否、それは斬撃。

 その余波である。


 誰の反応も許されず、その斬撃は全てを切り裂いた。




 ◆◇◆




「これは……なんだ!?何が起こった!?」


 本日、聖カタリナ学区で大きな事件が起こった。

 森林地帯の一角が消(・)失(・)。


 原因は、何らかの魔剣実験によるものだと考えられている。

 実験者は不明。その場には犯人の痕跡すら残されていなかった。


 被害者は不明。犯人も不明。

 何もかもが不明な事件であった。


『まるで、切り取られたかのようだった。神が大地をケーキに見立て切り取ったような』

 ――報告者:聖カタリナ学院の生徒会長アリーゼ・カーマンによる証言。


 現在、森林地帯は封鎖されている。



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