第十六話 ぼっち
「——それでめでたくボッチとなったんですか」
「めでたくは無いが、まあそんな感じだな」
キリエから魔力測定の際にあった出来事を話されたヨルは、やはりか、と目を細めた。
マガツキにある魔剣士学院の中でも、さらに上昇志向が強い生徒を擁する学院が王城学院である。
他者の評価に一切目を向けないキリエのような異物は、遠巻きに見られることは想像に難くない。
加えて、キリエは魔力漏出症候群を患っている。あまり一般的ではない症例だが、その意味を受験勉強などにより知っている者は王城学院には多数いるだろう。
魔剣士としては死んだも同然の足枷を持つ者に、共に歩もうとする人間は奇特と言っていい。
また逆境からめげることがなかったゲーム本編でのシラハでさえ、ほとんどの人から理解されなかったのに、傍から見たキリエは逆境に腐って何もしない人間に映るだろう。
そんな人間には誰も近づかない。
「はぁ、まったく言った通りになりましたね。だからもっと貴方は他に目を向けるべきだと忠告しておいたんですよ」
「向けているが」
キリエはむ、とした顔で反論する。
他に目を向けていなければ、シラハの魔剣の件を放置していた。
目立つことから逃れたい思惑が半分くらいはあったとはいえ、わざわざ教室を抜け出してダンジョンに急行までした。
これ以上なく素晴らしい行動をした、そうキリエは思っている。
それもヨルは理解している。
「………………コミュニケーション自体は、まぁまぁ普通にこなせるんですけどね」
ヨルから見たキリエは、平時であれば普通の青年だ。それは間違っていない。
陰気なオーラを纏っているものの、ある程度の会話は試みることができるし、良識もある。
しかし、剣が絡むと話は別だ。
良識とかそこらへん全部ど忘れしたかのように、剣に盲執する。
そうなると人間関係は単純な図式に変換される。
すなわち斬れるか斬れないか。
「悲しいことです」
「母親かあんたは」
そこまでキリエを剣の道に引きずり込んだのは、不覚にもヨルの一撃であった。
そこをずっと追いかけていっているキリエの姿に思うところはある。
喜ばしくもあり、それと同時に心配でもある。
ヨルにとってキリエはもうすでに、愛弟子だった。
ヨルはスプーンでオムライスを食べながら、すまし顔のキリエを見る。
(いつか、その刃が私に届かんことを)
弟子は師匠に似るとは、良く言ったものだ。
キリエの性質を見抜いて嘆きながらも、その道を突き進んで欲しいと思っているヨルは、やはりキリエの師匠であった。
「……ああ、そうだ言い忘れてましたが」
「ん、なんだ?」
「全力を振るってはいけませんよ?確実に相手が死にますから」
「分かっているさ」
きょとん、とヨルは目を瞬かせる。
彼女の予想では、キリエは拒否するかと思ったがすんなりと了承をした。
「今斬るのは、もったいない。今は、まだな」
訂正。
キリエは平常運転だった。
◆◇◆
「さて、魔剣士の卵諸君」
キョウカがCクラス全体に良く通る声で聞かせる。
「先日魔剣を保有したことで、気になっているだろう。興奮して夜も眠れないくらいに」
やはりと言うべきか、一人で座っているキリエに誰も話しかけてこない。
前日までは積極的に話しかけてきたシラハも、今は心配そうに視線を遣るだけだ。
こうも簡単に友情は崩壊していくのか、と人間社会の無情さに胸を痛めていた。
今ならば良い俳句を書けそうだ。
「どれだけの力が、自分にはあるのか。どれほどの力が振るえるのか。気になっていることだろう」
教壇に立つキョウカは、ニヤリと不敵に笑った。
「そこで、これより模擬戦を執り行う」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
待っていましたとばかりに声がどっ、と湧いた。
男子も女子も、性別の垣根無く。
「各自、先日伝えたように訓練場に併設されている更衣室で、運動着に着替えるように」
場所は分かるな?
とキョウカが聞くと、シラハが頷いた。
「それでは私は先に設備の準備を整えるために訓練場に赴く。何せCクラスが今日一番に使用するからな。とにかく十五分後までに訓練場に集まるように」
「はい!」
キョウカは退出する。
それを見届けると同時に、さらに声が高まった。
闘牛のように皆興奮しているのだ。
昨日、運動着の用意を伝えられ、噂が出回っていたがために期待していたのだろう。
現実のものとなり、はしゃいでいる。
「もうすでに、興奮してきたぜ!」
「はは、見れば分かるよアモウ」
視線の先にはシラハとアモウ。
キリエが見ていることに気付いたアモウは、舌打ち交じりに眉を顰めて顔を背けた。
たった一日で随分な嫌われようだと、キリエは苦笑する。
「早速訓練場に行こうじゃねえか!」
それと同時だった。
「——ここがっ、Cクラスですわねっ!」
ぶっ壊れそうなほどに強く扉を開いて現れたのは、金髪縦ロールのお嬢様。
目鼻立ちはくっきりとしていて、日本などの東洋人顔ではなく西洋のゲルマン系の人種であることがわかる。
想像だにしない人物の登場に、キリエは目を見開いた。
キリエは彼女が何者かを知っている。
「ブルーメリア・フォン・ダートン……」
彼女はゲーム本編に登場するメインヒロインの一人。
そして学院から推薦状を貰った三人のうちの一人である。
「私も同席させてもらいますわぁ!」
なぜ、とは誰もが思った。
しかし烈火の炎を燃やしている彼女に止めるものはいなかった。
「私をコケにしやがった……私の推薦状を奪った者を見つけてやりますわ……!」
キリエの耳は、確かにその言葉を聞いた。
ゆっくりと情報を咀嚼する。
「………………………………………………………………あ」
ブルーメリアの目的は、キリエだった。
キリエは今さらながらに思い出した。
キリエが推薦状をもらったことにより、あぶれてしまった一人のメインヒロインがいることを。
視線の奥にいるブルーメリアは、どこからどう見てもカンカンに怒っている。
「黙っておこう」
単純にめんどくさいし、とキリエは吼える彼女から目を逸らした。




