30.容疑が晴れても、その先は(1)
(っ、どうして私が死ぬはずの女に頭を下げなければならないんだよッ!!こんのクソ王子……王族らしく偉そうにしてればいいのに)
心の中で暴言を吐き散らしていた。
アマリリスに頭を下げるなんて、プライドが許さない。
アマリリスに謝罪なんて絶対にしたくないと、頭に沢山の言い訳を並べてながら、何とか回避する方法を考えていた。
そして腕に擦り寄って上目遣いでハーベイを見つめた。
「……でも私、不安なんです!!私の証言のせいでアマリリス様は牢に…!私のことを恨んでいるに違いありません」
「確かに……シャロンの言う通りだね。アマリリスは僕達を恨んでいるに違いない。それだけの事をしたんだ」
「そうです…!だからアマリリス様に会いに行くのは、やめましょう?」
「……アマリリスの気持ちも考えずに、些か横暴だったかもしれない」
ハーベイの顔が曇る。
それを見て口角が上がった。
追い討ちをかける為に口を開いた。
「きっと、私に会いたいなんて思うはずありません……アマリリス様に申し訳なくてッ」
「シャロン……君は本当に優しいね」
肩を揺らして顔を覆った。
勿論、涙など出ていない。
ハーベイは励ますように頭を撫でた。
こうすればアマリリスに会わなくて済むかもしれない。
あのアマリリスならば仕返しをしてくるに違いない。
それに突き落としたのはルーシベルタでシャロンは被害者でしかないのだ。
「けれど、僕はそんな軽率な行動をとってしまった自分を悔いているんだ……」
「……ハーベイ、殿下?」
「今後、今回のことがないように努めねば。それよりもアマリリスへの謝罪の件だが……」
「でも、アマリリス様に仕返しされるかと思うと…ッ!」
「今のアマリリスはそんな事はしないよ」
「何故そう言い切れるのですか!?ハーベイ様に何かあったらどうするんですか……!?今は大人しくても、分からないじゃないですか!」
「シャロン……だが、このままではいけない」
(チッ…頭固すぎだろーが!!)
思い通りにならずに手のひらに力を込めた。
苛立ちでギリギリと歯を食いしばっていた。
こうして優しい女を演じている所為で、こういう時に遠回しな言い方しか出来ないのは、もどかしい限りだ。
けれどハーベイはまだまだ利用価値がある。
ユリシーズと結ばれるまでは味方でいてもらわねば困るのだ。
アマリリスに謝罪するかしないかで言い争っていたが、結局、此方が折れるような形で話が纏まった。
そしてユリシーズがアマリリスに謝罪の意があると伝えに向かった。
その間にハーベイは各所にアマリリスが冤罪だった事を伝えて回った。
アマリリスへの賠償や謝罪について話し合われた。
次の日、ユリシーズはアマリリスの答えを伝えに現れた。
「今、宜しいでしょうか?」
「ユリシーズ……待っていたよ!アマリリスの返事はどうだった?」
ハーベイの視線はユリシーズにまっすぐ向けられている。
ユリシーズは無表情のまま口を開いた。
「……アマリリス・リノヴェルタは、謝罪はどちらでもいいと言っています。それよりも暫く暮らしていけるほどのお金が欲しいと」
「金……?金は勿論、用意するが…」
「はい」
「……」
「……」
「………以上です」
二人は言葉を失った。
返ってきた返事は予想外のものだったからだ。
「ど、どういうことだ……ユリシーズ」
「……分かりません」
「「……」」
ユリシーズはアマリリスの様子を語った。
ユリシーズが冤罪の件を伝えると、まるでこの世の終わりのような顔をしてアマリリスが落ち込んでいたのだそうだ。
特にシャロンやハーベイの事については口にしなかった。




