28.全て私の思いのまま(3)
(アマリリスはとっくに死んでいる筈なのに!!あんなに痛い思いをしたんだから…ッ)
突き落とされて大怪我をすると分かっていても、その場所に行かなければならなかった。
体を打ちつける痛みは想像以上のものだった。
ぼやけた視界に映るのはダークチェリーの髪とマゼンタ色のドレス。
そして楽しそうに微笑むルーシベルタの姿があった。
目を覚ますと、アマリリスはパーティー会場から、そのまま牢に入ったと聞いた。
勿論、ハーベイとの婚約もすぐに破棄された。
アマリリスの両親であるリノヴェルタ侯爵も夫人も全くアマリリスの味方をすることなく婚約破棄を承諾。
アマリリスは本物の"悪女"となったのだ。
(全部、上手くいっていたのにッ……!)
「目撃者には、アマリリスがどうやってシャロンを突き落としたのかを細かく聞いてくれ……そこに少しでも矛盾があればアマリリスが誰かに嵌められた可能性は高い」
「……!?!?」
「はい」
「シャロン、詳しい状況をユリシーズに教えてくれないか?」
「えっと、私は……その時のことを思い出すと怖くなって」
「すまない、シャロン。でも罪なき者を裁くことは、したくない……してはいけないんだ」
「……っ」
(ルーシベルタが頼んだ目撃者は何て答えたのよ!?私がそのまま話して大丈夫なの?もし、目撃者が適当な事を言ったら、アマリリスは牢から出てきてしまうの……?)
けれどここで嘘を言って、答えが噛み合わなければ困る。
仕方なく、自分の突き落とされた時の状況をユリシーズに話した。
ユリシーズは真剣に話を聞いていた。
此方の視線に気付いたのか、ユリシーズの金色の瞳と目が合う。
その美しく中性的な顔にうっとりとしてしまう。
(ああ、なんて綺麗なの。私は……やっぱりユリシーズ様が欲しい)
ハーベイの近衛騎士であるユリシーズの美しさと洗練された雰囲気に次第に心を奪われていった。
やっぱりユリシーズと関係を持ちたいと、途中で軌道修正しようとしたが、ハーベイの気持ちは完全に此方に向いてしまった。
自分の主人を差し置いて、ユリシーズはシャロンに好きだと伝えることは出来ないだろう。
どうすればユリシーズを手に入れる事が出来るのか…。
眠る前に祈った。
"ユリシーズと結ばれたい"
すると願い通り、夢にはユリシーズと結ばれるシャロンの姿があった。
それと同時に、誰も知ることがないユリシーズの秘密を知ってしまったのだ。
それは、ユリシーズはミッドナイト王国の王太子だという事。
生まれてすぐに人攫いにあったユリシーズは、隣国であるバルバト王国の教会の前に捨てられた。
ユリシーズの持つ藍色の髪は、ある一定の年齢になると瞳と同じ美しい金色の髪へと変化する。
それはミッドナイト王国の王族の証だった。
朝起きて歓喜した。
そしてやはり神様は味方なのだと、改めて実感したのだ。
いつかこの事を伝えたらユリシーズに感謝されること間違いなしである。
本来ならアマリリスが死んだ後、ルーシベルタが犯人だと発覚する。
自分がアマリリスが犯人だと言ってしまったが故に、自責の念にかられて悲しむ。
ハーベイとの関係を断ち切って、ミッドナイト王国へと向かう。
ミッドナイト王国の女王がユリシーズにそっくりだと気付いた為、ユリシーズに手紙を出す。
そして女王にもユリシーズの事を知らせるのだ。
そこからユリシーズとの仲が深まるという流れだ。
ミッドナイト王国に感謝されて、ユリシーズと結婚する。
この計画は完璧だった。