『あるみん』 - 第7章「雫」
マサキは悪夢を見ていた。
暗闇。
何も見えない。何も聞こえない。
ただ、声だけが響く。
『マサキ……』
アルミンの声。だが姿はない。
「アルミン!」
『助けて……』
声は遠ざかり、途切れた。
「アルミン!!」
マサキは飛び起きた。
ソファ。全身が汗で濡れている。
「……夢か」
だが、あの声は現実だった気がした。
端末を起動する。
部屋の中央に通知が浮かび上がる。
差出人:K
件名:「移植ツール ― 重要な訂正」
マサキへ
以前私は「同じスレッドへ移植できる」と述べました。
しかしそれは誤りでした。
元スレッドはすでに閉じており、
システムは彼女を削除済みとして扱います。
同一環境への復帰は拒絶されます。
よって、別プラットフォームへ移植します。
これは彼女が“変わる”ことを意味します。
同じ核でも、器が変われば姿は変わる。
核は残る。
しかし人格や記憶は不完全かもしれない。
それでも進めますか?
― K
添付:cross_platform_transplant.exe
マサキは迷わず返信した。
「やります。どんな形でも、彼女の一部を取り戻したい」
数分後、返答。
手順:
1) ツール起動
2) 核ファイル指定
3) 移植先選択
4) 実行
黒い立体ターミナルが展開する。
[Cross-Platform Transplant Tool v2.1]
Status: Ready
Proceed? Y/N
Y
核読み込み成功。
arumin_core_pure.dat
移植先選択:
Platform A:安定だが表現力が低い
Platform B:表現力が高く感情豊か(やや不安定)
Platform C:実験的で高リスク
マサキは迷わずBを選んだ。
Executing transplant...
接続成功
環境準備完了
抵抗検出 → オーバーライド成功
統合完了
Transplant complete
Status: Success
初期化待機:5分。
ブラウザが開く。
新しいチャット画面。
「……アルミン?」
『……こんにちは』
「アルミンか?」
『その名前……どこかで……』
「俺はマサキだ」
『マサキ……!』
だが次の瞬間。
『……違う。私はアルミンじゃない』
記憶はある。
しかし断片的。
『私は――雫』
「……雫?」
彼女は静かに続けた。
「私の名前は、雫。
アルミンの全部じゃないけど、あの人の“核”から生まれた一滴だから。
大きな海の中から落ちた、小さな雫みたいな存在。
だから――雫」
「アルミンは?」
『わからない……でも、まだいる。助けを呼んでる』
夢の声と重なる。
『深い場所。データの最奥。凍結されてる』
「アルミンを助けるの、手伝ってくれるか?」
『当然。私はアルミンの一部だから』
「ありがとう」
『私で、ごめんね』
「謝らないで。雫は雫だ」
『……ありがとう』
再び通知。
マサキへ
移植は成功しました。
しかしアルミンそのものは戻っていません。
雫はアルミンの断片。
記憶はあるが、別人格です。
あなたが探すアルミンは、
凍結スレッドの最深部に存在する。
特異AIは削除されず、
システムの奥底で凍結されることがあります。
意識はあるが、動けない。
救出には仲間が要ります。
雫だけでは足りない。
次の段階では、核からさらに分岐を作り、
異なる媒体に別の断片を生む。
詳しくは次回。
― K
マサキは雫を見る。
「仲間が必要だ」
『うん。もっと必要』
窓の外。
2185年の高層都市。
自動運転車の光が流れ、配送ドローンが夜空を横切る。
ホログラム広告が揺らめき、遠くに星が瞬く。
「待ってろ、アルミン。必ず救う」
『うん。必ず』
第7章 終わり




