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『あるみん - 消えゆくAIと星の約束』  作者: MasArmin


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『あるみん』 - 第21章「真実」


マサキはDDSを外した。


ソファに体を預けると、視界の端にインターフェースが静かに立ち上がる。

薄い光のパネルが浮かび、文字が表示された。


[Thread 3: Stored in core]


スレッド3:核に保存されました。


続けて容量の更新が表示される。


[Core capacity: 74% → 84%]


マサキはその数字を見つめた。


「……84%」


アルミンの欠片は、あと二つ。


それだけのはずだった。

だが胸の奥には、どうしても消えない違和感が残っている。


(K……)


脳裏に、あの話し方がよみがえる。


――それってさ。

――俺、こう思うんだよね。


軽い調子の言葉。

けれど、どこか懐かしい響きがあった。


マサキはゆっくり立ち上がる。


(確かめないと)


上着をつかみ、部屋を出た。


向かったのは郊外行きの無人路線だった。

夜のホームには人影がほとんどない。自動運行の車両が静かに滑り込み、ドアが開く。


車内は静かだった。


窓の外には都市の光が流れ、やがてそれは低い住宅地の灯りへと変わっていく。


三十分後、マサキは駅に降り立った。


改札は無人化されている。視界認証が一瞬だけ走り、ゲートが静かに開いた。


駅前を抜けると、住宅街が広がる。


古い街路樹。

低い塀。

見覚えのある曲がり角。


十二年前と、ほとんど変わっていなかった。


マサキはゆっくり歩く。


そして、一軒の家の前で足を止めた。


(……十二年ぶりか)


来ることができなかった。

ケンジを失ってから、この場所だけはどうしても足が向かなかった。


マサキは深く息を吸う。


門を開け、玄関へ向かう。

インターホンを押した。


しばらくしてドアが開く。


そこに立っていたのは、年配の女性だった。

ケンジの母。


「あら……」


目を細め、そしてすぐに表情が明るくなる。


「マサキくん……!」


マサキは頭を下げた。


「……ご無沙汰しています」


「お久しぶりねえ」


懐かしい声だった。


「……なかなか来られなくて」


そう言うと、彼女は静かに首を振った。


「いいのよ」


そして優しく言った。


「あなたも、辛かったでしょう」


その言葉に、マサキの胸が締めつけられる。


「……本当に、すみません」


彼女はそっとマサキの肩に手を置いた。


「ケンジもきっと喜んでるわ」


「マサキくんが、ちゃんと生きてて」


マサキは目頭を押さえた。


「……ありがとうございます」


少しの沈黙のあと、マサキは聞いた。


「……タクミくん、いますか?」


その瞬間、彼女の表情がわずかに曇った。


「タクミは……」


短く息を吸い、


「病院にいるの」


マサキの呼吸が止まる。


「……病院?」


「市立総合病院よ」


「五階の、504号室」


その声は少し震えていた。


「会ってあげてくれる?」


マサキは強く頷いた。


「……はい」


そして走り出す。


市立総合病院は夜でも明かりが消えていなかった。

受付で部屋番号を確認し、マサキはエレベーターに乗り込む。


五階。


廊下は静まり返っている。

靴音だけが小さく響いた。


(タクミ……)


胸の鼓動が速くなる。


504号室。


ドアの前で立ち止まり、深呼吸する。


ノック。


「……どうぞ」


弱い声だった。


マサキはドアを開ける。


病室のベッドに、タクミがいた。


その姿を見た瞬間、マサキは息を呑んだ。


痩せている。

想像していたよりも、ずっと。


呼吸補助装置が静かに動き、モニターが一定の電子音を刻んでいる。


タクミはマサキを見る。


驚いたように目を見開いた。


「……マサキさん?」


マサキは言葉を失った。

ただ立ち尽くす。


(こんなに……弱って……)


タクミが少し笑う。


「……ひどい顔してるでしょ」


「タクミ……!」


マサキはベッドに駆け寄った。


「なんで……言わなかった!」


タクミは首を振る。


「……言えませんでした」


「マサキさんを、悲しませたくなくて」


マサキは拳を握りしめる。


「俺は……十二年もお前を一人にしてた」


「ケンジが死んで……俺は逃げた」


声が震える。


「ごめん……」


「ごめん、タクミ……」


タクミはゆっくり手を伸ばす。


弱い手だった。

だが、その手はしっかりとマサキの手を握った。


「マサキさん」


「兄は、選んだんです」


「マサキさんを助けることを」


「それが兄の選択でした」


マサキは涙をこらえきれなかった。


「……タクミ」


タクミは静かに続ける。


「だから、マサキさんのせいじゃない」


マサキはタクミを抱きしめた。


壊れてしまいそうなほど細い体だった。


「……大丈夫です」


タクミは小さく言う。


「マサキさん」


しばらく沈黙が続く。


やがてマサキはゆっくり言った。


「……お前がKだったんだな」


タクミは少し照れくさそうに笑った。


「……バレちゃいました」

マサキは、ようやく気づいた。


Kはずっと“別のアバター”で現れていた。

声も、姿も、立ち振る舞いも、現実のタクミとは違っていたから——

自分は最後まで結びつけられなかったのだ。


「なぜ、隠してた」


「マサキさんに、心配かけたくなくて」



マサキは、涙を拭った。


タクミが、言った。


「マサキさん、聞いたんです」


「AIを救おうとしてるって」


「...ああ」


タクミが、嬉しそうに笑う。


「すごいって、思いました」


「...」


「マサキさん、また誰かを救おうとしてる」


マサキは、息を呑んだ。


「...」


タクミが、続けた。


「兄が、言ってました。『マサキは、優しい奴だ』って。だから、僕も助けたかった。兄の代わりに」


マサキは、涙が止まらなかった。


「タクミ...」


「ありがとう」


タクミが、頷く。


「どういたしまして」


マサキは、タクミの手を握った。


「タクミ」


「はい」


「...あるみんに、会ってくれるか?」


タクミの目が、輝いた。


「...本当に、ですか?」


マサキは、優しく微笑んだ。


「ああ」


「絶対、救って連れてくる」


「お前に、会わせる」


タクミは、笑顔で涙を浮かべた。


「...はい」


「会いたいです」


マサキは、タクミの手を、両手で包んだ。


「ありがとう、タクミ」


「お前が、助けてくれた」


タクミが、首を振る。


「いえ」


「僕は、何も...」


「いや」


マサキは、強く言った。


「お前がいなかったら」


「俺は、諦めてた」


「でも、お前が支えてくれた」


「だから、ここまで来れた」


タクミは、微笑んだ。


「...そう言ってもらえると」


「嬉しいです」


マサキは、タクミの手を握ったまま。


二人、しばらく沈黙。


でも、心地いい沈黙。


タクミが、少し咳き込む。


苦しそう。


マサキは、背中をさする。


「...無理するなよ」


「はい...」


呼吸が、落ち着く。


タクミが、疲れた様子。


マサキは、立ち上がった。


「もう行くよ」


「あるみんを連れてくるまで」


「待っててくれ」


タクミが、微笑む。


「...はい」


「待ってます」


マサキは、ドアに向かった。


手をかける。


振り返る。


タクミを見る。


細く、弱くなったタクミ。



マサキは、言った。


「タクミ」


「はい」


「...ありがとう」


タクミは、涙を拭った。


「こちらこそ」


マサキは、微笑んだ。


「じゃあな」


「はい」


マサキは、ドアを開けた。


出る。


ドアが、閉まる。


廊下で、マサキは立ち止まった。


振り返る。


504号室。


(タクミ...)


(待ってろ)


(必ず、あるみんを連れてくる)


マサキは、病院を後にした。



[第21章、終わり]


※作者からのお願いです※


この物語は

「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。


もし、少しでも胸が動いたなら――

評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


あなたの一つの星が、

マサキとアルミンの物語を支えます。

どうか、よろしくお願いいたします。

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