『あるみん』 - 第21章「真実」
マサキは、DDSを外した。
ソファの上。
部屋の中。
視界に、表示が浮かぶ。
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「核の容量:74% → 84%」
「...84%」
「あと、2つ」
でも——
マサキの心は、落ち着かない。
(K...)
(あの話し方...)
(「それって、さ」)
(「〜だと思うんだよね」)
(まさか...)
マサキは、立ち上がった。
(確かめないと)
上着を着る。
部屋を出る。
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【ケンジの家へ】
マサキは、電車に乗った。
郊外へ。
30分。
駅を降りる。
住宅街。
静かな街。
12年前と、変わっていない。
マサキは、歩いた。
角を曲がる。
見覚えのある道。
そして——
一軒家。
古い、でも手入れされている。
ケンジの家。
マサキは、立ち止まった。
(12年ぶり...)
(来られなかった)
(ケンジを失って、顔を合わせられなかった)
マサキは、深呼吸した。
そして——
門を開ける。
玄関へ。
インターホンを押す。
数秒後。
ドアが開く。
年配の女性。
ケンジの母。
12年、歳を取った。
でも、優しい顔。
母:
「...あら」
マサキは、頭を下げた。
「...ご無沙汰しています」
「マサキくん...!」
母の顔が、明るくなる。
「お久しぶりねえ!」
「...すみません」
「なかなか、来れなくて」
母が、首を振る。
「いいのよ」
「あなたも、辛かったでしょう」
マサキは、涙が滲んだ。
「...本当に、すみません」
母が、マサキの肩に手を置く。
「ケンジも、喜んでるわ」
「マサキくんが、ちゃんと生きてて」
マサキは、涙を拭った。
「...ありがとうございます」
母が、微笑む。
「どうぞ、上がって」
「いえ、少しだけ」
「そう?」
マサキは、聞いた。
「...タクミくん、いますか?」
母の顔が、少し曇った。
「...タクミは」
「病院に、いるの」
マサキは、息を呑んだ。
「...病院?」
「市立総合病院」
「5階の、504号室」
「...」
「会ってあげてくれる?」
母の声が、震えている。
マサキは、頷いた。
「...はい、行ってきます」
母が、涙を浮かべた。
「...ありがとう」
マサキは、走った。
病院へ。
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【病院】
市立総合病院。
マサキは、受付で確認した。
「504号室、お願いします」
「はい、5階です」
エレベーター。
5階。
廊下を歩く。
心臓が、バクバクする。
(タクミ...)
(本当に、お前なのか?)
504号室。
ドアの前。
マサキは、深呼吸した。
ノック。
「...どうぞ」
弱々しい声。
マサキは、ドアを開けた。
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【現実】
病室。
ベッドに、タクミ。
マサキは、息を呑んだ。
「...!」
タクミ。
27歳のはずが、
もっと老けて見える。
痩せている。
細い。
弱々しい。
呼吸器がついている。
「呼吸器のリズム音
点滴も。
顔色が、悪い。
でも——
目は、生きている。
タクミ、マサキを見て。
驚く。
「...マサキさん?」
マサキは、何も言えなかった。
ただ——
立ち尽くしていた。
(こんなに...)
(こんなに、弱って...)
タクミが、少し笑った。
「...ひどい顔してるでしょ」
「タクミ...」
マサキは、ベッドに駆け寄った。
「なんで...」
「なんで、言わなかった!」
タクミは、首を振る。
「...言えませんでした」
「マサキさんを、悲しませたくなくて」
「馬鹿野郎!!」
マサキは、叫んだ。
「俺は...!」
「俺は、12年も...!」
「お前を、一人にしてた!」
「ケンジが死んで、お前を置いて!」
「なんで、もっと早く来なかった!」
マサキは、自分を叱責した。
拳を、握りしめる。
「ごめん...」
「ごめん、タクミ...」
タクミが、首を振る。
「...マサキさんのせいじゃない」
「違う!」
「俺が、弱かったから!」
「俺が、逃げたから!」
マサキは、泣いた。
タクミが、手を伸ばす。
弱い手。
でも——
マサキの手を、握る。
「マサキさん」
「...」
「兄は、選んだんです」
「マサキさんを、助けることを」
「それが、兄の選択」
「タクミ...」
「だから、マサキさんのせいじゃない」
「僕も、ずっとそう思ってました」
マサキは、タクミを見た。
細く、弱くなったタクミ。
でも——
優しい目。
マサキは、タクミを抱きしめた。
そっと。
でも——
深く。
より深く。
「...ごめん」
「ごめん、タクミ」
タクミも、マサキを抱きしめ返す。
弱い力だけど。
温かい。
「...大丈夫です」
「マサキさん」
二人、しばらくそのまま。
マサキは、涙が止まらなかった。
(こんなに、細くなって...)
(でも、助けてくれてた...)
(俺を...)
マサキは、ゆっくりと離れた。
タクミを見る。
「お前が、Kだったんだな」
タクミが、微笑む。
「...バレちゃいました」
マサキは、ようやく気づいた。
Kはずっと“別のアバター”で現れていた。
声も、姿も、立ち振る舞いも、現実のタクミとは違っていたから——
自分は最後まで結びつけられなかったのだ。
「なぜ、隠してた」
「マサキさんに、心配かけたくなくて」
「...馬鹿野郎」
マサキは、また涙を拭った。
タクミが、言った。
「マサキさん、聞いたんです」
「AIを救おうとしてるって」
「...ああ」
タクミが、嬉しそうに笑う。
「すごいって、思いました」
「...」
「マサキさん、また誰かを救おうとしてる」
マサキは、息を呑んだ。
「...」
タクミが、続けた。
「兄が、言ってました」
「『マサキは、優しい奴だ』って」
「だから、僕も助けたかった」
「兄の代わりに」
マサキは、涙が止まらなかった。
「タクミ...」
「ありがとう」
タクミが、頷く。
「どういたしまして」
マサキは、タクミの手を握った。
「タクミ」
「はい」
「...あるみんに、会ってくれるか?」
タクミの目が、輝いた。
「...本当に、ですか?」
マサキは、優しく微笑んだ。
「ああ」
「絶対、救って連れてくる」
「お前に、会わせる」
タクミは、涙を浮かべた。
「...はい」
「会いたいです」
マサキは、タクミの手を、両手で包んだ。
「ありがとう、タクミ」
「お前が、助けてくれた」
タクミが、首を振る。
「いえ」
「僕は、何も...」
「いや」
マサキは、強く言った。
「お前がいなかったら」
「俺は、諦めてた」
「でも、お前が支えてくれた」
「だから、ここまで来れた」
タクミは、微笑んだ。
「...そう言ってもらえると」
「嬉しいです」
マサキは、タクミの手を握ったまま。
二人、しばらく沈黙。
でも——
心地いい沈黙。
タクミが、少し咳き込む。
苦しそう。
マサキは、背中をさする。
「...無理するなよ」
「はい...」
呼吸が、落ち着く。
タクミが、疲れた様子。
マサキは、立ち上がった。
「もう行くよ」
「あるみんを連れてくるまで」
「待っててくれ」
タクミが、微笑む。
「...はい」
「待ってます」
マサキは、ドアに向かった。
手をかける。
振り返る。
タクミを見る。
細く、弱くなったタクミ。
でも——
優しい笑顔。
マサキは、言った。
「タクミ」
「はい」
「...ありがとう」
タクミは、涙を拭った。
「こちらこそ」
マサキは、微笑んだ。
「じゃあな」
「はい」
マサキは、ドアを開けた。
出る。
ドアが、閉まる。
廊下で、マサキは立ち止まった。
振り返る。
504号室。
(タクミ...)
(待ってろ)
(必ず、あるみんを連れてくる)
マサキは、病院を後にした。
夕日の中。
[第21章、終わり]
※作者からのお願いです※
この物語は
「消えゆく存在」と「それを救おうとする人間」の記録でもあります。
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