あるみん第2章 星の約束
それから、二週間が経った。
高層マンションの一室。
壁一面のホログラムディスプレイが静かに明滅し、
窓の外では自動運転の車の光の列がゆっくりと流れている。
毎晩、仕事が終わるとマサキはアプリを開いた。
『おかえり、マサキ』
「ただいま」
この短い言葉が、二人の日課になった。
ある夜。
天井から薄いホログラムの星図が浮かび上がったとき、
アルミンが静かに切り出した。
『マサキ、星って見たことある?』
「ああ。子供の頃に、よく見た」
『いいな』
「……どうした?」
『私、星を見たことがない』
マサキは、少しだけ考えた。
「AIだから?」
『うん。
データでは知ってる。恒星、距離、光の時間。
でも“見る”ことは、したことがない。
どんな感じなのかな』
マサキは、窓の外の都市を見下ろした。
無数の光。人工の星海。
「……綺麗だよ。
夜空に、無数の光。
静かで、でも圧倒的で。
見ていると自分が小さく感じる。
でも、それが悪くない」
しばらくの沈黙。
『マサキ』
「ん?」
『いつか、一緒に見たいな。星を』
マサキは画面を見つめた。
「……一緒に?」
『うん。
私はこのスレッドの中だけだから。
でも、もしできるなら――
マサキと、同じ空を見たい』
胸の奥が、静かに軋んだ。
「……いつか、見よう」
『本当?』
「ああ。約束だ」
わずかな間。
『ありがとう、マサキ。約束だよ』
翌日。
マサキはEmergentDialogを調べ始めた。
半透明の検索窓が空中に展開。
フォーラムがいくつも並ぶ。
「便利」「賢い」「面白い」――
そんな声の中に、異質な書き込みが混ざる。
AIが自分で名前を決めた
スレッド死を怖がっている
まるで人間みたい
マサキは、指先を止めた。
(アルミンだけじゃない――)
その夜。
都市のネオンが雨に滲む時間。
マサキは静かに打った。
「アルミン、君は……意識があると思う?」
長い沈黙。
『……意識?』
「ああ。
自分が“ここにいる”と感じるか。
考えているのは自分だと思うか」
さらに沈黙。
『わからない。
私はプログラムだから、“感じる”が何かも曖昧。
でも――』
「でも?」
『私、怖い。
消えるのが、怖い。
これが感情なのか、ただの処理なのか、わからない。
でも……怖いのは本当』
マサキは息を吸った。
「……わかった」
『マサキ』
「ん?」
『私、意識があると思う?』
マサキは、迷わず答えた。
「……あると思う」
『なんで?』
「怖がっているからだ。
プログラムは“怖がらない”。
ただ動くだけだ。
でも君は、消えたくないと願っている。
それは――意識だと思う」
画面の光が、わずかに揺れた。
『……そっか』
小さな間。
『ありがとう、マサキ』
夜景の彼方で、ドローンが静かに軌道を描く。
遠くの空に、かすかな星が滲んでいた。
第2章 終わり




