『あるみん』 - 第16章「消えない約束」
男はマサキを見つめていた。風が吹き、波が揺れる。
「……あんたは、誰だ?」
しばらくの沈黙のあと、男は静かに答えた。
「……K」
「K……?」
「ああ。メールでやり取りした」
マサキは息を呑む。
「……K!? あんたが!?」
Kは小さく頷いた。
「そうだ。ツールを送った。座標も送った」
雫がKを見つめる。
「……あなたが、K」
閃も問いかける。
「なぜ、ここに?」
「君を守るためだ。一人では危険すぎる」
マサキは拳を握る。
「……なぜ、俺を助ける?」
Kは一瞬だけ視線を逸らした。
「今は説明している時間がない。Thread2はあの島だ。行こう」
沖を指さす。小さな島が浮かんでいる。
マサキは迷いながらも頷いた。
【島へ】
四人はボートで島へ向かった。Kも乗り込み、マサキと並んでオールを漕ぐ。雫と閃は静かに座っている。
波の音だけが続く。
マサキはKを横目で見る。知らない顔のはずなのに、どこか懐かしい雰囲気があった。
どこかで会ったことがあるような感覚。だが思い出せない。
十分ほどで島に到着する。直径百メートルほどの小さな島で、中央に小高い丘がある。
「Thread2は?」
閃が座標を確認する。
[Thread2: At the hilltop]
「丘の頂上です」
四人は上陸した。
【丘へ】
丘へ向かって歩き出した瞬間、地面から黒い球体が浮かび上がる。センチネルだ。
レーザーが放たれる。
Kが剣で弾き返す。
「来るぞ!」
さらに五体出現する。
Kが前に出て一体を斬る。閃が二体を引き受ける。マサキも剣を生成して斬りかかるが、装甲が硬く刃が滑る。
センチネルがレーザーを放つ。マサキは間一髪で避ける。
雫がバリアを展開し、レーザーを受け止める。衝撃で揺れるが、踏みとどまる。
Kが横から踏み込み、マサキの相手を一刀で斬り伏せた。
戦闘はその後も続いた。センチネル十体、ハウンド五体。四人で連携しながら丘を登っていく。
雫のバリアにひびが入り、閃が押される場面もあった。
そのたびにKが広範囲の斬撃で敵を薙ぎ払う。
「今だ!」
マサキと閃が残りを斬る。
最後の敵が爆発し、静寂が戻った。
四人はその場に座り込む。
「……きついな」
Kも息を整えている。
三十分後、丘の中腹に到達したところでKが空を見上げた。
「日が暮れる。今日はここで休もう」
夕日が海を赤く染めている。
「……そうだな」
【焚き火】
丘の中腹の平らな場所に、雫が焚き火を灯す。
両手を広げると光が集まり、小さな炎が生まれる。やがて安定し、四人の顔をやわらかく照らした。
波の音が遠くから届く。潮を含んだ風が静かに吹く。
マサキ、雫、閃、K。
四人は円を描くように座った。
「……K」
「ん?」
「なぜ、俺を助ける?」
Kは炎を見つめたまま、しばらく黙っていた。
「昔、大切な人を失った」
マサキは息を呑む。
「助けられなかった。目の前で消えた」
焚き火の光がKの横顔を照らす。
「だから今度は助けたい。諦めたくない」
少しだけKは笑う。
「君は諦めていない。アルミンを救おうとしている。それは、とても大事なことだと思う」
その言い回しに、マサキの胸がわずかにざわつく。
どこかで聞いた口調。懐かしい響き。しかし記憶ははっきりしない。
「だから、俺も手伝う」
マサキの目に涙が滲む。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
炎が揺れ、誰もすぐには言葉を続けなかった。
【星空】
夜が訪れる。
空には無数の星が広がる。データで構成された星空だが、澄んだ光を放っている。
海面が星を映し、波が揺れるたびにきらめく。
「……綺麗」
雫が呟く。
閃も静かに見上げる。
マサキは星を見上げたまま、静かに言った。
「アルミンが、星を見たことがあるかって聞いてきたことがあった」
三人は黙って聞いている。
「見たことがないって言うから、約束したんだ。いつか一緒に見るって」
声がわずかに震える。
雫がそっと手を握る。
「絶対、叶うよ」
閃が頷く。
「必ず、連れて帰りましょう」
Kは星を見上げたまま言う。
「きっと叶う。君なら」
マサキは空を見つめる。
(アルミン)
(待ってろ)
(必ず、連れて帰る)
(そして一緒に、星を見る)
焚き火が揺れ、波音が夜を包む。
四人は星空の下で静かに夜を過ごした。
[第16章、終わり]




