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友人ではない相手と勉強会するのは、場所設定から骨だ。
結局、箔日学園近くのファミレスで落ち着いた。
小内礼の私服、久しぶりに見るな。
「遅かったね戸山。私への嫌がらせ?」
第一声がこれ。
そして性格の悪さは相変わらずか。
そういやコイツ、手ごまを使って俺をボコらせようとしたよな。麻倉との賭けに負けたときに。水元が助けてくれたので、事なきを得たが。
なんで俺はこんな奴のために、わざわざ来てしまったのか。
孤独死しかけていたからかなぁ。
席に案内されたところで、俺は言った。
「風の噂じゃ、山白どころか有本と西成も赤点を取らなかったらしいな」
小内は鼻で笑った。
「ふん。悪魔と取引したからね、アイツらは」
悪魔と取引……小山って、こんな中二病発言する性格だったかな。
山白たちからハブられて、心が病んだのかもしれん。
「アイツら、誰かに勉強を教わったのか?」
「……戸山には関係ないでしょ」
何かあるらしいが、小内は明かす気がないらしい。
俺もそこまで興味はないし、別にいいか。
「で、現代文が赤点と」
「あと英語も」
「補習は明日からだったか」
「そう。週明けに追試験がある」
「なぁ。別に焦ることはないだろ。まず補習をちゃんと受けて、週末に復習する。そうすれば追試験は問題なくクリアできる。俺の手を借りずとも」
テーブル越しに、小内が身を乗り出してきた。
必死の様子で言う。
「確実じゃなきゃ困るんだよ、戸山。私にはもう後がないんだから」
「留年の危機か? そこまで深刻じゃないだろ」
中間テストで全教科赤点の『偉業』(皮肉だよ)を成した麻倉だって、まだ留年の危機ではなかったわけだし。
その後、麻倉は期末テストで取り返したが。
「留年もそうだけど、部活」
「あー」
赤点取ると、部活を禁じられるからな。
そこらへん、箔日学園は厳しめ。
「追試験にも落ちると、3学期も部活に出れなくなるんだったか」
「そんなことになったら、もうレギュラーに戻るなんて無理だから」
まだ1年生なんだから、そこまで悲観することもないと思うが。
ただ箔日のテニス部って、強豪だっけ。
なら、あり得るのかも。
「それなら週末も勉強会を開くしかないな。そこまですれば、追試は2科目だけだし余裕だろ」
「やってくれるんだよね、戸山? 私の家庭教師をさ?」
麻倉の家庭教師なのに小内にも教えたら、浮気とかになるのか?
などとバカげたことを考えてから、俺は溜息をついた。
「まぁ、いいだろ。やってやるよ、小内。だが今回の追試だけだぞ」
小内はホッとした様子だ。
「ん。ありがと」
また小内礼の家庭教師をする羽目になるとは。
麻倉がメキシコにさえ行ってなければ、こんなことにはならなかったんだが。




