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仮想期末テストが終わったところで、ざっと計画を立てることにした。
「まず暗記ものは自力でやるんだぞ、麻倉」
麻倉は小首を傾げて、
「暗器ですか?」
ハリセン一発。
「ボケている場合じゃないだろ。数学Aを乗り越えないことには、赤点地獄は回避できない」
「けど私、目指すは弁護士じゃないですか。2年の文理選択で文系を選ぶので、数学とはおさらばです」
「赤点取った事実は、一生残る。だいたいな、いつかは司法試験というボスに挑むんだから、こんなところで苦戦してどうする。苦手を克服した経験は、先々に生きてくるものだ」
「戸山さんは何を克服したんです?」
「なに?」
「戸山さんの苦手克服の体験が聞きたいです。拝聴します」
拝聴の姿勢を取る麻倉。
「中間テストで学年1位だぞ、俺は。言うまでもないだろ」
「けど戸山さんは、勉強が大好きですよね? それって苦手克服とは違うんじゃ」
「別に、俺は勉強好きってわけじゃない」
「でしたら、どうしてそこまで勉強したんですか? 何か将来の目標のためですか?」
俺が勉強しまくったのは、山白たちに切られたショックから逃避するためだ。
そして、俺はとくに将来になりたいものはない。
とりあえず、いい大学に入っておけば将来の選択肢は広がる。
その程度のことしか考えていない。
別にそれが悪いことだとは思わないが。
だからといって、胸を張って言うことでもないか。
「今はまだ、俺の将来の目標を語るときではない」
「え、そうなんですか」
「お前が俺と同じ高みに到達したとき、初めて俺は将来について語るだろう」
と、カッコ付けて誤魔化しておいた。
麻倉のいいところは、これで信用してくれるところだ。
「分かりました戸山さん。その時が来たら、是非とも語ってくださいっ!」
「ああ、よし……」
それまでに、俺も将来について考えておかねばならないようだ。
こうして期末テストに向けての勉強の日々が始まった。
麻倉に勉強を教えつつ、俺も勉学に励んだ。
俺も天才ではないので、勉強しないことにはいい点数は取れない。
ある昼休み。
麻倉は放送部の活動中。
俺は学食で独り、昼飯を食べていた。
ふと気づくと、テーブルを挟んで向かいの席に、水元が座っていた。
「お嬢様がお世話になっているようで、戸山さま」
「ま、俺はあいつの家庭教師だからな。ところで胡椒とって」
「はい」
ラーメンに胡椒を振りかける。
顔を上げると、水元が険しい表情で一点を見つめていた。
その視線を追うと、一人の男子生徒に行きついた。
誰だったかな?
「あの男が、何か?」
「いえ、何でもありません」
水元は明らかに嘘をついたが、追及するつもりはない。
期末テストまで、残り5日。
地獄の週末勉強会、再びだ。




