モブキャラ補正なんてあった?
ヒト族の住まう東の地は、常に春の穏やかな陽気に包まれている。
ラングアニス大陸たった一つの学園にも、春は相変わらず訪れていた。
むしろ、訪れっぱなしだ。
ぱりっとした新しい制服に袖を通し、私は呑気にそんなことを考えていた。
昨日から自分の家となった学園寮の窓からは、大きな桃色の樹が見える。
サクラに似ているその樹は、王家の紋章にもなっているという。
「時が経つのは早いね」
その言葉を呟くと同時に、部屋の扉がノックされる。
「今、行きます」
扉を開けると、同じ制服を着たボビーお兄様が立っていた。
「やっぱりセシリアは何を着ても似合うなぁ」
にっこり笑うボビーお兄様の笑顔は、何年経っても変わらない。
天使の微笑みそのものであった。
「ありがとうございます」
私はそう言って、騎士の礼をとった。
それから、ボビーお兄様と並んで学園寮の廊下を歩く。
扉からちょこちょこと女学生たちが顔を覗かせているのが愛らしい。
その頬は薔薇色に染まっている。
分かるぞ。
ボビーお兄様は、立派な優男に成長しているものな。
昔は、可愛いばかりであったお兄様がそこに儚さと綺麗さを追加しているものな。
しかもここ数年、時折見せる憂いの帯びた眼差しといったら!
女子生徒だけではなく、男子生徒でも見惚れるほどというではないか!
何故、十五歳の男子生徒のくせに肌がつやつやのすべすべなのか。
真っ白な肌にはニキビ一つ出来たことはない。
モブキャラなのに。
……モブキャラ、だよな?