ボビーお兄様!
幾ばくかの不安を覚えた私の様子に、何を思ったのか、ボビーお兄様がこんなことを聞いてきた。
「セシリア、緊張しているのかい? やっぱり男子生徒用の制服で入学するのは、やめた方が……」
「あ、いえ。大丈夫ですよ、兄上」
慌てて私がそう答えると、今度は寂しそうな顔をするボビーお兄様。
「そっか」
「どうかしましたか?」
「……もう『ボビーお兄様』とは、呼んでくれないんだと思うと」
ボビーお兄様は、今にも消えそうな笑顔でぽつりとそんなことを言うではないか。
鼻血、出しても良いですか?
それに、私とて呼びたい。
ボビーなんて素敵な名前、呼びたいに決まっている。
現に心の中では、「ボビーお兄様」以外の名前で呼んだことはない。
しかし、しかしだ。
「兄上、制服を着ている間は男として扱って欲しい、と学園長にも話してあります。そしてその責任をすべて自分で取ることで、この制服を受け取ることが出来ました。なので……」
「ボビーお兄様」とは呼べません。
などと馬鹿なことは言えなかった。
「なので?」
「つまり、制服を着ているときは『兄上』と呼ばせていただきますが、私服のとき、私がスカートを履いている時は『ボビーお兄様』と呼ばせてもらいたいと思います。私は兄上の妹ですから」
そして、心の中ではいつまでも「ボビーお兄様」と呼ばせていただきます。
本当は、「兄上」と統一したかったのだが。
致し方ない、私は誘惑に弱いのだ。
ここは潔く諦める道を選ぼう。
私の言葉にボビーお兄様の顔がぱぁっと華やぐと、近くにいた女子生徒が鼻血を出して倒れていく。
私は鍛えた脚力を活かし、その身体を支えた。
「大丈夫か?」
はっと意識を戻したその子は、私の顔を見るやいなや、再び鼻血を出して腕の中に倒れ込んできた。
「「「嫌ぁぁぁ」」」
可愛いらしい女子生徒たちの黄色い声が廊下に響き渡った。
今から入学式なのに、そんなに興奮して大丈夫なのだろうか。




