第玖拾壱話《新たな戦いの兆し/悪を守る善と悪に怒る悪》
「という訳だ。父上…龍雅が動き出している。まぁ、梨奈を虐めている奴らが梨奈に手出しすると、宮弥との今後の関係に影響があるんだろうな。龍雅は、この一件で奴らに誅伐を与えがたっている。まぁ、やった所で、奴らが龍雅が見ていない所でするだろうけど。」
「ふむ…宮弥は、極星院にとっての最大級のお得意様だ。宮弥が味方についているという事は、バックに世界最大の権力、財力、武力があるという事に他ならない。奴を敵に回してはいけない。そうだな。今回の一件は、龍雅に任せよう。その後の事は極星院預かりだ。何、龍雅君には悪いようにはしない。」
「恩に着る。父上」
「それよりも机の上に座るのは、やめなさい。」
「わかったよ。」
紗里弥は、机から降り、仕事部屋の出入り口に歩いていく。
「紗里弥、本当に龍雅君でいいのか? 他にも結婚候補者が…」
「純潔を捧げたのに、今更戻れるか…それに分かっている筈だ。龍雅と結婚すれば、宮弥という世界を支配する存在との関係はより深まり、極星院は安泰だ。他の候補者では、これだけの益はえまい…それに龍雅は、異界の彼らが待ち望んだ存在になるだろう。まぁ、そんな下らん理由なら私は、あそこまで龍雅に愛情は注いでいまい…私が龍雅を愛したのは、そう…理由などは無い…ただ私は龍雅が好きなだけだ。私の魂は、それに、龍雅と決まっていても結婚候補者を決める争いを始めるのだろう? 父上…ならば、そんな質問は不毛だという事だ。」
「まぁ、そうだな。だが、一夫多妻というのは、少しな…」
「私としては、美しい女が多くいていいと思うのだが? 龍雅だけに独り占めさせるか。私は、龍雅のハーレムをただの不快な存在と思っていたか? いいや違う…寧ろ良い事だ。いい女が増えるという事は、いい花を愛でる事が出来るという事だ。彼女達は、彼女達なりにハーレム制は、納得している。だから問題などない。いざとなれば、宮弥に何とかしてもらう。」
「なるほどな…納得した…だが、結婚候補者を決める戦いは避けられない。もし、龍雅以外の婚約者が勝利を勝ち取ったら勝者と結婚しなければならないぞ。」
「わかっている。だが、龍雅は、絶対に乗り越える。私はそう信じている。さて、猿雉犬は、竜輝、宮弥、虎太郎にするか…」
「いいや、龍雅君には、鬼ヶ島に鬼退治ではなく。黄金の果実を探しに行ってもらう。そっちの件は、こちらの方で済ませた。」
「黄金の林檎ってまさか…」
「そう、地下能力者武闘会の優勝賞品…ゴールデン・エデン・トロフィーだ。それが龍雅君が取るべき物…」
「なるほど、我が夫龍雅は、実の父親にして世界最強の能力者である剣ヶ峰勇雅を超えなければ私を妻にする事が出来ないという事か…一筋縄ではいかぬようだな。」
「そして大会に極星院の刺客を数人送り込んだ。もっと難易度が上がったな。」
「何をしてくれている。龍雅の試練が極端に難しすぎるんだが!?」
「その代わりに、他の候補者の試練も同等レベルにまで難易度を上げておく。龍雅君だけ難しいなんてアンフェアだからな。」
「ならいいのだ。奴らと父上は、私の事をかぐや姫と思っているが、そうではない…龍雅こそがかぐや姫なのだ。龍雅は、そう…私が正妻と表面上ではそうなっているが、真にそうなるかはわからない。もし、そうなれば私は、正妻を決める戦いに参戦するだろう。龍雅は、そう…いずれ我らの故郷へ向かう者…隣に居てもいずれ遠い存在になる男…でも、それでもいいのだ。私が龍雅を愛しているならばそれでもいい。それでいいんだ。」
「我らの故郷…それは異世界の事か…彼らの計画にとって龍雅君は、替えが効かない存在。だからこそ試練は厳しくあらねばならない。異世界で起こる戦いは、簡単に活躍できるようなものではない。地球人が無双し、活躍し、謳歌できるのは、外の異世界だけだ。内の異世界ではそうはならない。内の世界は、我らの世界の未来の姿、いや違う…内の異世界は、二つの世界の過去の姿だ。世界を滅ぼす悪魔になりゆるか、世界を救う救世主となりゆるか…ともあれ■■■■■になるには、まず力を付けなければならない。この試練は、結婚候補者を決める試練でもあり、彼を■■にする為の試練でもある。」
「ふぅん…ちゃんと考えているのか…」
「当たり前だ。龍雅の覚醒は、我ら能力者の悲願。手段は選ばん。」
「そうか…能力者の悲願と言うだけあって期待されているのだな。龍雅は…、まぁ、これ以上話したら長くなりそうだし、私は、武具の調整をしてから寝るとしよう。」
「いつもすまないな。」
「いいんだよ。私は、異界の技術で遊んでいるだけだ。要は趣味だ。今の内は利益なんて考えてねえよ。じゃあおやすみ。」
紗里弥は、そう言って仕事部屋から出た。
(紗里弥が開発した戦闘服…少しは、彼らの世界に貢献できたか…そして紗里弥が回収し、改良した能力者化薬…あれはまだ完成に近付けてはいない。オーパーツを再現できていない…もっと改良を進めて我々の計画を進めなければならない…そう、地球外侵略者殲滅計画をな。)
家吉は、そう思いながらパソコンの電源ボタンを押し、仕事を再開した。
長く長く気の遠くなるようなデスクワークを。
数日後…銀河丘高校、放課後…
梨奈は、校舎裏で複数人の生徒に虐められていた。
梨奈に直接触れないように、厚手の手袋で殴り、金属の棒で殴打する。
体や服には、様々な悪口の書かれた落書きが書かれており、肌には無数の痣が、体の所々から血が噴き出している。
今日は、どうやら数段に酷いようだ。
「ねぇ、何で誰かに言ったの?」
――あれが現場か…胸糞悪いが、等しく絶望的な恐怖を与えるならば、集まってきた所を襲撃しろと紗里弥に言われているんでな…少し我慢しろよ…梨奈…
龍雅は、リストを見ながらじっと怒りを抑えながら待つ。
数分後、リストに載っている人間が全員集まってきた時、龍雅は地上へゆっくりと降り、そして一人の生徒の体を手で貫いた。
「ガハッ!」
生徒の一人は、口から血を吐き出し、そして龍雅の手は、男子生徒をまるでゴミを投げ捨てるかの如く壁に投げつけ、壁に血がぶちまけられ、返り血がその場にいた男子生徒、女子生徒の体に着く。
「キャアアア!!」
梨奈を虐めていた女子生徒は、さっきまで一緒に梨奈を虐めていた男子生徒の死を目撃し、悲鳴を叫ぶ。
「黙れよ。カス共、お前らが悲鳴を挙げる権利などない。お前達は、恐怖を味わうのみ。」
龍雅は、グリーンアサシンを解除し、ブルーウィザードになり、姿を晒した。
「人の女ァ泣かせるとはいい度胸してじゃあねェか。」
龍雅は、梨奈を抱き寄せ、梨奈の体の傷を癒す。
「これより先は、地獄の悪鬼でさえも泣き叫ぶ阿鼻叫喚…少しの間、眠っていろ。目が覚める頃には片が付いている。」
龍雅は、囁きながら梨奈の瞼を閉じ、そして白い霧を吸わせると、梨奈は眠り始めた。
――この霧は、悪夢を見せる霧ではなくただ眠らせるだけの霧だ。梨奈…休んでおけ…後は、俺に任せろ。
「おっと女だからって安心するなよ? 今の俺は、女子供にだって殴ってしまう程キレてんだ。だってよォ…俺の大事な存在に手ェ出したんだからよ。」
龍雅は、逃げようとする女子生徒に向かってサイコキネシスで捕え、そして地面に叩きつけ、足の骨を折る。
――あいつはリストに入っていないようだな。あいつが入っていれば、俺は戸惑っていただろうな。まぁ、いい…あいつはそんな事をしない人間だと知っている。何故なら同じような恐怖を体験した人間なのだからな。
「どうしたァ? カス共、命が惜しければ抵抗してみろよ。俺を殺してみろよ。」
「ヒィィィ!! 死ね! 死ね!」
男子生徒は、龍雅に向かって怯えながら氷の弾丸を放つも、龍雅は全ての攻撃を指で弾き返す。
「効かねえな! さて、一人ずつ殺していこうか…」
龍雅は、金属の棒を拾い、そして一人ずつ連続で殴っていく。
目に留まらぬ速度で、殴っていく。
「どうしたァ!? 何の抵抗もなしに潰れて行く気かァ!? 抵抗してみろよ! させないけどなァ!」
龍雅は、そう言いながら槍状の絶対零度の氷を足を纏わせ、氷を操る男子生徒の体を串刺していく。
「やめろ!」
謎の声は龍雅の後ろから聞こえ、そして龍雅の頬を殴り、そして吹き飛ばした。
「来たか、ヒーロー。どうやって知った?」
龍雅は、頬に着いた汚れを取り立ち上がった。
「未来予知でな。今日のお前の動きが少し怪しかったから未来予知で追ったまでだ。そして読心能力でお前の心を読んだ。」
「ならば、チャンスをやろう。虎太郎、そしてクソッタレ共、俺を降参と言わせるまでに戦い続けたらお前らの勝ちにしてやろう。言っとくが、俺ァ、今機嫌が悪い。何せ、梨奈に俺を怒らせる事をやった奴らが目の前にいんのだからよォ…俺を諦めさせんのは、一生無理だと知りやがれェ!」
龍雅が、叫ぶと、この場にいる龍雅と梨奈以外の全員の戦闘能力が暴落し、龍雅の戦闘能力が飛躍的に上昇し、そしてレッドファイターに切り替え、虎太郎に接近し、そして虎太郎の腹を殴り飛ばす。
虎太郎は、超高速で壁に叩きつけられ、口から大量の血を吐き出す。
「おいおい、いきなりダウンかァ? もっと楽しませろよ。テメェは、ゴミ共にとっての救世主様なんだろォ? そのつもりでここに来たんだろォ!? だったら立てよ。もっと俺を楽しませろよ!」
一人の少年が、龍雅に向かって炎を放つが、その炎は、少年の方へ反射され、少年は回避し、少年の後ろにあったラインパウダーの袋に引火し、粉じん爆発が発生した。
「あぁ、俺今、反射バフかけていたんだったな。クククク…ヒャハハハハ!! これじゃあ、虐めていた奴らが今じゃ逆にサンドバッグじゃねェか。まぁ、路地裏にいるサンドバッグ共よりは、歯応えはあるがなァ!」
龍雅は、そう言いながら炎を放った男子生徒に向かって石を投げ、胸を貫く。
「さて…次はお前だ…首謀者…」
龍雅は、倒れている首謀者の元に向かって行き、股間を潰すと、首謀者の顔は苦悶の表情を浮かべ、声にもならない悲鳴を挙げる。
「あぁ、うるせぇ…おい、寝るな。起きろよ。テメェが首謀者だろ? だったらもっと痛めつけさせろや。テメェはただでは死なせねェ…」
龍雅は、首謀者の胸倉を掴み、顔を何度も殴り、そして振り回し、そして壁に向かって投げ飛ばす。
「あぁ…雑魚だ。だが、雑魚共を蹂躙する程愉しいものは無い。さて、これではどちらが虐めていた側かわからないな。」
首謀者が倒れると、龍雅は、首謀者の頭を踏みつける。
「早く助けを呼ばねえと頭潰れちゃうぜェ? といっても全員もはや再起不能…後は、俺が一人一人ゆっくりと甚振るだけの話…まず最初の被害者は貴様だという事だ。主犯から潰し、そして次にお前がやった事に協力した奴らを順番に潰していく。あぁ、そうだ…お前らの死は消え去るとも…何故ならお前らの死体は、蒸発するだけだ…死の痕跡も残らない。」
潰す力が徐々に強くなっていく。
頭蓋骨が音を立ててひびが広がっていく。
「クッ…カッ…死にたくない…」
「あぁ?」
「死にたくない…助けて…もう梨奈を虐めませんから、どうか…俺達の命だけは…」
「フン、どうだか…どうせ貴様らは、俺のいない間に梨奈をまた虐めるのだろうよ。」
「本当に…やめます…」
「答えになってねえな…ほらァ、さっさと無意味な助けを呼べよ! 救いようのない悲鳴を! 救われない怯声を! 助けの来ない希望の無い助けを求める声を! そして誰も助けが来ずお前達が生き地獄を味わいながら死ぬ様を想像しろ! そして絶望しながら死ね!」
「助け…誰か助けてくれ!!」
「そうだ! その無意味な号哭を挙げろ!」
「いいや、無意味じゃねえぜ。」
龍雅は、そう言って首謀者を蹴り飛ばした。
後ろを振り向くとそこにはボロボロの状態の虎太郎がいた。
「喜べ、カス共、ヒーローのお目覚めだ。もしかしたら命があるやもしれないぞ?」
「龍雅、後輩虐めて恥ずかしくないのか?」
「虐める? 笑わせるな。これは報復だ。」
「復讐は、何も生まないぞ。」
「確かに復讐は何も生まないし、梨奈は望まないだろうな。だがな…人の女傷つけられてキレねえなんて俺に取っちゃ胸糞悪い事だ。ちゃんと落とし前つけさせねえと気が済まねえんだよ。」
「そうか…だけど、俺はお前を止める。」
「お前では俺を止められない。」
「止めて見せるさ。お前の親友なら尚更だ。」
「では、再び眠ってもらう…」
龍雅は、虎太郎に拳を振りかぶると、虎太郎は、龍雅の拳を受け止めた瞬間、龍雅の強化が解かれた。
「は?」
虎太郎は、龍雅を殴り飛ばす。
「なるほど…さっきの衝撃で覚醒したって訳か…紅き闘士に…だが、近付かなければいいだけの話だ。」
龍雅は、後輩たちに向かって異能を無効化する光輪を放ち、動きを縛った後、梨奈以外に紅い霧を振りかけ悪夢を見せる。
「着いて来い。ここでは、梨奈に当たっちまう。」
龍雅は、そう言って飛翔すると、虎太郎は、龍雅の後を追う。
上空10000m
「さて、始めようか…主人公…ここにボスキャラがいる。今の俺は最弱なんだが、実質的には強さはさほど変わってはおらんよ。ただ…力を取り戻せば、話は変わるがな。」
「力を失ったというよりは封印されたという事は知っている。だからこそ今の俺でもお前を止められる。違う、今の俺なら止められる。覚悟しろ。龍雅…」
「簡単に止められると思うなよ! 虎太郎ォ! 時よ止まれ!」
時間は停止し、二人は全て静止した世界で、戦い始める。
龍雅は、虎太郎からの攻撃を回避し、能力無効を避けながら全てを滅ぼす衝撃波で、虎太郎は、衝撃波に触れ、衝撃波を跳ね返す。
――なるほど、エレクトロニクスと緋香里の能力を以て跳ね返したか…
「まぁ、そうなるよな。」
龍雅は、腕輪で虎太郎を殴ると、虎太郎の紅き闘士が解除され、能力の出力と戦闘能力が暴落する。
「何!?」
「お前の能力は、もはや腑抜けになった。さて、続きをやろう。」
龍雅は、そのまま虎太郎を腕輪で殴り続ける。
(どうしてだ? 何故負ける?)
「お前は、この腕輪の事を何も知らないからな。この最低最悪の腕輪をな。この腕輪は、あらゆる異能の出力と戦闘力を暴落させ、そしてその覚醒した力を一時的に封じ込める腕輪だ。この世にはない物質で出来ていると言っておこうか…この世の物理法則では通用しない領域外の物質。ただ捕らえる為だけに存在する有害物質。ただの人間が触れれば衰弱死は避けられない。触れれば触れるほどに弱体化する。」
「そうか…なら! 腕輪に触れなければいいだけの話だ!」
虎太郎は、龍雅の腕輪からの攻撃を回避し続ける。
「腕輪ばかりに集中していては駄目だぜ。」
龍雅は、そう言いながらクリティカルヒットを虎太郎に叩き込んでいく。
(クッ…あの状態が解除されたせいで、能力を無効化できないか…)
「終わりだ。」
龍雅は、かかと落としで地上へと落とし、そして地上に叩きつけられた虎太郎は、口から血を吹き出す。
「さて、処刑タイムだ。」
「やめろ…龍雅…許してやってくれ…」
虎太郎は、龍雅の足を掴み、
「駄目だ。こいつらはまたやらかす。俺のように悪行を繰り返す。ならば、ここで摘む…独善とは思っていないこれもまた俺の悪行だ。」
「だったら、絶交するぞ…」
龍雅は、その言葉に反応し、態度を変えた。
「はぁ…仕方がねえ…蘇生させてやるか…」
龍雅は、指を鳴らすと死んだ筈の後輩は蘇り、そして傷付いた後輩達の体や虎太郎の体は、戦う前の状態に戻り始める。
「傷が癒えていく。最初からこうすればよかったな。」
「クソッ、俺はその言葉に弱い…良いか? 貴様らの生死は俺が握っている事を肝に銘じろ。貴様らは俺に行かされているのだ。梨奈を傷つけるという事は、貴様ら自身の首を絞めているという事だ。大切なモンが俺以外に虐められていると、俺は憎悪が湧く。まぁ、虐めというかどちらかというと意地悪だな。いずれにせよ痛みは倍になって帰ってくる。復讐は時をへて巨大化して貴様らに襲い掛かってくる。今日、また繰り返せば、貴様らの命は無いと思え…ゴミ共が」
龍雅は、梨奈を背負ってその場から立ち去る。
「ごめんな。龍雅が、お前らにあんな事をして…龍雅はさ、大切な物を傷つけられるとキレちまうんだ。俺達を殺さずに傷つけた奴らだけ殺す。そんな奴だ。だからさ、もう梨奈を虐めないでくれないか? じゃないとまたお前らが傷付いちまう。俺は後輩が傷つく姿なんて見たくないんだよ。」
「わかりました。もう虐めたりなんかしません。」
「まぁ、龍雅を怒らせたりしたら俺を呼べ、すぐに龍雅を止めに行く。まぁ、その前に謝る事が肝心なんだけどな…後で、梨奈に謝っとけよ。」
「はい。」
「じゃあ、俺は帰る…まぁ、あんな事さえしなければ、基本的にお前らを守ってくれる奴だから恐れないでくれよ。」
虎太郎は、そう言って帰って行く。
数分後、河原
龍雅は、梨奈を背負って歩いている。
龍雅は、傷付きながらも回復しながら歩いている。
血は出ていないが、少し汗が出ている。
「んん…ここは?」
梨奈は、目を覚ますと、一番先に入った景色は、龍雅の背中だった。
「起きたか? 梨奈、もう終わったぜ。」
「龍雅先輩…おはようございます。あれ? 傷は…」
「治しておいたよ。古傷は治せないけど…」
「ありがとうございます。先輩…あの本当に苦しくはないですか?」
「前にも言ったけど苦しくないぜ。」
「そうですか…あの先輩…」
「何だ? 梨奈?」
「何で先輩は、あんな事してまで私の事を?」
「俺は、ただ悪を成しただけだ。お前が望んでいないだろうが、俺はお前の代わりに復讐をしたかった。おかしい話だよな。たった数日前に出会ったばかりの女性の為に悪を演じるなんて、別に長く一緒に過ごしているわけでもないのに、俺は惚れやすい性格でな。俺は、君のような美しく可愛い少女に頼られると勘違いしてしまうものだ。そして行き過ぎた行動を取ってしまう…すまないな。」
「いえ、いいんです。確かに復讐は望んでいませんが、それでも結局は、誰も傷付いていない状態で帰したじゃないですか。」
「見ていたのか。」
「えぇ…私…夢を見ていました。」
「夢?」
「はい。私は、いつも毎晩黒い闇に虐められる夢を見るんです。ですが、今日の夢は違った。途中まで虐められていたけど、黒い闇を打ち払い、手を差し伸べてくれる光がそこにあったんです。先輩、恐らくその光とは、先輩のことかもしれませんね。」
「フッ、俺は闇だ。俺は黒い闇よりも深黒の闇。俺に光なんぞ似合わねえ。欲望のままに動く魔物。俺がした復讐だって俺自身の欲望を発散する為でしかない。君が虐められているという現状を破壊する破壊欲と虐めている奴らに復讐する復讐欲を発散したまでだ。梨奈に嫌われるような事をした。俺は、それを理解している。梨奈は、優しいからな…例え虐められていても能力を行使せずずっと耐えていたんだからな。だったら復讐なんて望みはしないだろう。」
「知っていますか? ブラックホールは、遠くから見ると光り輝いているそうですよ? 先輩は、例え闇であっても、全てを食う闇であろうとも、私の闇を食べてくれる闇なのでしょう。」
「闇を喰らう闇か…それも悪くない。なら、堕ちるか? 梨奈、俺と一緒にもう一度闇の中へと地獄の闇ではなく甘美なる闇へと」
「それも悪くないかもしれませんね。」
「そうか…」
龍雅は、そう言い、梨奈を家へと送り届ける。
「どうやら失敗したようですわね。」
一人の少女は、屋上から今日の戦いが起こった場所を見て、ため息をつく。
「貴女が仕組んだ事ですの?」
「あら、ごきげんよう。麗弥、何か御用で?」
「紗里弥、出て来なさい。犯人はわかりましたわよ。」
「まさか、お主だったとはな。前生徒会長よ。貴様の行った行為は、到底許される筈がない。何故梨奈をあぁまでして追い詰めようとした?」
紗里弥は、静かに怒りで部屋の温度を上昇させる。
「落ち着きなさい。紗里弥、でも怒りを抑える必要はありませんわ。でも、今は抑えてくださいまし…さて、前会長? 何故あのような事をなさったのか、教えてくださいませ」
「私は、ただこの学園の生徒を守りたかっただけですわ。あのような災厄を撒き散らすような輩が学校内にいるなら、私が雇った生徒でこの小汚い娘をこの学校から追放するだけの事、私の箱庭だった学園の後片付けをしただけの事ですわ。」
紗里弥は、それを聞いて両手に氷を纏い、紅き闘気を纏った。
「それが答えか…笑止! 貴様がやった所業は、この学校の守護ではない! 許されぬ! たった一人の少女を複数人の人間で寄ってたかって攻撃するなどあってはならぬ! 誅伐を与えてくれようぞ!」
「いいでしょう。罰を受けますわ。」
「だが、貴様に罰を受けずに済む選択肢をやろう。」
「何でしょうか?」
「この学校から立ち去るが良い。それがたった一つ罰を逃れる選択肢だ。Leave of Paine! 好きな方を選べ! 貴様が梨奈にしでかした事をやってやろう!」
「勿論決まっていますわ。私が間違っていましたもの…ですが、私はまだ立ち去る訳には行きませんわPaine」
「良いだろう。ならば、苦悶をとくと味わえ。」
紗里弥は、氷で纏った拳で前会長を殴り飛ばし、フェンスに当たり、フェンスが衝撃を吸収する。
「もう梨奈にあんな事をするなよ。前会長…あの女は、私のものだ。私の女に手を出した以上、それ相応の報いを受けてもらうしかないのだ。」
「いや、紗里弥、梨奈は龍雅さんの…」
「姉上。龍雅の物は私の物、私の物は龍雅の物だ。」
「あぁ、そう仰ってましたわ。紗里弥は、龍雅さんと一心同体と」
「そうだとも、私の運命は龍雅に在りて…と言っている場合ではなかった。前会長、この痛みを忘れずに生きよ。そしてこれからもエリートとして精々励むが良い。」
紗里弥は、そう言いながら前会長を横抱きし、立たせる。
「肝に銘じましたわ。この学校の裏側から支えてくださいませ。裏生徒会長」
前会長は、頬を抑え、その場を去って行く。




