第参拾弐話《第二の輪廻 乙~三人目の囚人~》
「眠い…」
少年は、口から魂が抜け出るようなだらしない欠伸をした。
「よう、虎太郎。今回のピックアップ回したか?」
龍雅は、虎太郎の肩を叩いた。
「龍雅か、いや、回してない。」
「そうか、俺は単発星6で当てたぞ。」
「は? ふざけんな。何でお前のだけそんなに運がいいんだよ。毎回、限定の奴当てやがって許さんぞ。ガチャの喜びを知りやがって、お前許さんぞ。」
虎太郎は、そう言い龍雅の腹を殴った。
その威力は、打ち所が悪ければ一般人を殺せる位の威力だ。
「怒るなよ~」
――何も知らぬ虎太郎と話すのが、今の俺の唯一の癒しだ。だが、これでしばらくの間は、虎太郎と話すのは止しておくか…虎太郎を巻き込みたくないからな…この件に関する事は、輪廻の囚人だけでいい…紗里弥を相談相手にしたのは、アイツなら自らの手を汚さずやるだろう。もしバレても恐らくYSと紗里弥が何とか情報操作し、隠蔽してくれるだろう。香苗は何とか逃げてくれている筈だ。
表面上、明るい笑顔を浮かべつつも心の中では、深い闇の感情が渦巻いている。
(…何でだろう…何か、龍雅の姿が少し暗くそして悲しそうに見えるな。笑っているのに作られた笑顔のようだ…)
虎太郎は、龍雅の顔をじっと見つめていた。
虎太郎から見たら、龍雅の笑顔は作られたものに見えたのだ。
「虎太郎どうした? 俺の顔をじっと見て」
「いや、何でもない。」
「そうか…」
――気付いたか? 俺の中の闇を…だが、気付いたとて、お前を介入させるわけにはいかない…もし聞かれてもはぐらかすか…
龍雅は、自分が牢獄に囚われている事を隠す様に、穏やかな笑顔を作るがその笑顔もまだ深い闇が垣間見えている。
(いや、やはり見間違いではないようだ。龍雅は何か悩みを抱えている。)
――こちらに来るな…お前が介入すると、お前は俺と同じ牢獄に、入ってしまうぞ。
龍雅と虎太郎、お互いを見て、龍雅は、虎太郎を遠ざけようとし、虎太郎は、龍雅の心を探ろうとする。
チャイムが鳴る。
クラスメイトは、それぞれの座席に着き始める。
龍雅は、無言で席に戻った。
龍雅は、ただ想う。
虎太郎を巻き込みたくない。
虎太郎はまだ無垢のままでいてくれと。
こんな思いをするのは、俺達だけでいいと。
だが、龍雅の虎太郎を守る想いは、伏兵によって打ち砕かれてしまう。
数時間後、放課後
「七時限目の能力の授業…疲れたな~」
虎太郎は、そう言い、深い欠伸をした
虎太郎は、七時限目である能力の授業を受けていた。
銀河丘高校を始めとする異能科のある高校では、能力に目覚めた生徒には、七時限目を週に二回、火曜日と水曜日に受ける事になっている。
能力の種類によって教師が異なり、紗里弥は、物質の四態に関する能力を持つ生徒が集まるエレメントクラス、時空と重力に関する能力を持つ生徒が集まるクロノスクラス、電磁波に関する能力を持つ生徒が集まるケラウノスクラス、他にもあるが虎太郎と龍雅は、カオスクラスという多能能力を持つ生徒が集まるクラスで、授業を受けていた。
「能力を使ったせいか腹が減ってきたな。」
「腹減ってんのか…」
後ろから聞き覚えのある声を聞き、見おぼえるある手は虎太郎の手の平に、包み紙に包まれた温かい何かを乗せた。
「龍雅…これは?」
「超高カロリードーナツだ。俺自作のな…まぁ、仕方ない…授業でも習った通り、能力者は能力を使っちまうと大量のエネルギーを減ってしまう。だから、エネルギーを補給しなければならない…だからこれ食っとけ…」
「でも高カロリーって事は…」
「大丈夫だって、今日はお前は授業で能力を使いすぎた。だから、これ食っとけばいい…」
龍雅は、そう言って帰り道とは別の方向へ向かった。
(何処へ行くつもりだ? あいつ…)
虎太郎は、包み紙を開け、ドーナツを口にした。
(良い味だな…これ…)
虎太郎は、そのドーナツを平らげ、ドーナツに包まれていた紙袋をこっそりと火を付けて燃やし、その紙袋は消えて無くなった。
――さて、今日は帰れなさそうだ。一日や二日休んでも今の俺の成績に問題は無い。成績に響いたとしても証拠と資料を持って過去に遡ればいい…それでいい…
龍雅は姿が透明になり、空を飛んで何処かへ飛び去って行った。
「ねぇ、虎太郎。」
香織は、龍雅の肩を叩いた。
香織の顔は、少し火照っていた。
「何だ? 香織?」
虎太郎は、香織の顔を見た。
「今日、放課後予定ある?」
「無いけど、どうした?」
「そう…なら…」
香織は、虎太郎の体に抱き着くと、周りの景色が一瞬にして変わり、教室から人気のない廃ビルの屋上に変わった。
「ここは? 何処だ?」
「ここ? さぁ? 何処だろうね…それよりも、虎太郎…私のモノになってくれない?」
香織は、そう言い妖しい笑みを浮かべ、妖しい色気を放った。
虎太郎は、先程の発言を聞き、そして香織から放たれる色気を感じ取り、後方へ下がる。
「香織、お前なんか変だぞ?」
「変? 何処が変なの?」
(香織も能力に目覚めたのか?)
「うん、能力に目覚めたの…ESPとPKだったっけ? 私は、その全ての能力を持っているの」
(心が読めるだと…ESPの中に読心能力がある…なるほどそう言う事か…そして今、香織の能力を得た。)
「ふーん。私の能力をコピーしたの…じゃあ、私の考えを当ててみて…」
(仕方ない…読むか…)
虎太郎は、早速得た能力で、香織の心を見た。
(虎太郎虎太郎愛してる虎太郎虎太郎虎太郎愛してる愛してる愛してる愛シテル私のモノになってナンデフリムイテクレナイノ?)
虎太郎は、香織の心の中を見て、虎太郎は途中で目を逸らし、身の危険を感じたのか後ろに引いた。
「どうしたの? 何で途中で私の心を見るのをやめたの?」
香織は、虎太郎との距離を詰めよる。
虎太郎は、香織から生命的な危険を察知していた。
(逃げなければ…)
そう思った瞬間、虎太郎は何処かへ瞬間移動をした。
「逃げれると思っているの?」
香織も虎太郎を追う為に瞬間移動した。
「ハァ…ハァ…」
(もう追ってきているのか…)
「ハァ!」
虎太郎は、手から蜘蛛の糸を放ち、ビルの屋上にひっかけ、登り、ビルの屋上から下に向かって電流と炎と氷を放ち、その後、今いる屋上から見える遠くにビルにある建物の屋上に瞬間移動した。
「これで…撒いたか?」
「何で逃げるの? 虎太郎…」
虎太郎の腕が潰れる程強く掴まれた感触があった。
虎太郎が後ろを振り向くとそこには、香織が居た。
「香織! 何故俺を追いかける!?」
「だって、虎太郎が私から逃げるからよ。後、私のモノにならないから…」
香織の握る力は更に強くなっていく。
「痛い痛い! 放せ!」
虎太郎は、振り払おうとするが、香織の握る力があまりにも強い為、腕が動かない。
(クソッ…こうなったら…)
「瞬間移動!」
虎太郎は、ビルの屋上から瞬間移動し、何処かへ消え去った。
「逃がさない…」
香織も、一瞬にしてその場から消え去った。
一方その頃…
――虎太郎の生体反応が、色んな所へと瞬時に移動している…何かに追われているのか?
龍雅は、組織の場所を掴む為、組織に関与していそうな場所を姿を隠して探している。
忍び込んだ建物内の資料や連絡先、そしてログイン可能なパソコンのデータを人のいない間に漁っては、元あった場所に戻し、痕跡を解体で消す。
龍雅は、それを繰り返しており、今入り込んでいる建物で、五軒目になる。
――ここも外れか…それよりも虎太郎が何かに追われているならそいつが奴らの手先なら…
龍雅は、ファイルを元の場所に戻し、壁を抜けて建物から去った。
外に出た龍雅は、虎太郎の生体反応がする方へ最新の軍事用レーダーにも捉えられぬスピードで飛んで行った。
――着いた。
龍雅の視界に映ったのは、ビルの屋上で香織に追い詰められる虎太郎の姿だった。
――なるほど、香織も奴らの手先となったか…
龍雅は、虎太郎の前に着地し、姿を現した。
「「龍雅?」」
「香織ィ…お前に聞きたい事がある…」
龍雅は、殺意の籠った声で、香織にそう話しかけた。
「な…何…?」
「奴らの居場所を教えろ…奴らは何処だ?」
「何の事?」
「フン…所詮お前も奴らの手先だからそう簡単に奴らの居場所は吐かんか…」
「一体何を言って…」
「お前達がどうしようと俺には関係ない。だが、香織奴らの居場所を知っているとなると放っては置けないな…さぁ、吐け人類選別軍のアジトをな…」
龍雅は、殺意と憎悪と復讐心が煮え混じった声で怒鳴りつけた。
「ひっ…人類選別軍って私に力与えてくれた…?」
「そうだ。早く言えねえと虎太郎とお前の命がどうなるかわからんぞ!」
龍雅はそう言い、香織と虎太郎の周りに無数の剣と槍を生成し、香織に刀を突きつけた。
龍雅は、狂乱状態だ。
いつ地上全てを破壊するかわからない最悪の状態だ。
「おい! 龍雅やめろ!」
「黙れ! 香織! お前はどちらを選ぶ!? お前と虎太郎の命か、奴らの命か! そんな命の価値天秤に掛けずともわかる筈だ!」
「奴らの居場所は――」
香織が、選別軍の居場所を言おうとした時…
『バレようとしている…やれ…』
「了解…」
男は、遠くから香織に向けて何かを放った。
「熱い熱いぃいい!!」
香織の体はいきなり燃え始めた。
香織の体は灰となり、風に吹かれ、消え去った。
「まさか…やられたか…」
龍雅は、「クソッ!」と言い、槍と剣を分解した。
「時間よ…戻れ…」
時間は戻り始め、月曜日の廃校舎の屋上へと戻り始める。
『虎太郎の時間逆行の縁も、龍雅さんと繋げておいた。これで囚人はまた増えた。狂え狂え破壊の龍よ。奴らを喰らいて我が元に…』
「どうしたの? いきなり時間が逆行して…何かわかったの?」
「いや、失敗した。香織って奴が死んだ。」
「それは、龍雅君の友達?」
「あぁ、幼馴染であり、俺の親友の彼女候補だ。」
龍雅のスマホが鳴り始めた。
スマホの画面に表示された通話相手は、虎太郎であった。
「もしもし…」
「龍雅! 信じてくれないかも知れないが聞いてくれ! 時間が戻っている気がするんだ!」
――クソッ…虎太郎も輪廻の囚人になってしまったか…
「あぁ、今からこっちに来てくれ…話したいことがある。」
「何だ?」
「お前の体験した時間が戻ったという感覚についてだ…場所は、お前のDMに送っておく」
「あぁ…」
龍雅は電話を切った。
「さっきのは?」
「あぁ、さっき言っていた俺の親友にして俺達と同じ輪廻の囚人だ。」
「輪廻の囚人? 何それ?」
「このループに囚われた人の事だ。つまり俺達の事だよ。」
「なるほど、よくわからないから言いやすい言葉で言ってよ。」
「すまんな…」
龍雅は、SNSを開き位置情報を虎太郎のDMに送った。
しばらくすると、一人の男が現れた。
「龍雅、時間が遡る事について話して貰おうか…」
「あぁ…」
龍雅は、虎太郎に時間逆行について話し始めた。




