第弐拾捌話《第一の輪廻 破の下~牢獄《拷問》と牢獄《輪廻》~》
「ハァ!」
龍雅は、手から電流を放ち、奈菜の首を絞め、奈菜は、悲痛が伝わる弱々しい表情を龍雅に向け、小さく悲痛の声を挙げているが、龍雅は、一向に電撃を当てるのをやめようとはしない。
「どうだ? 機械、生物を強制的に麻痺させる電流は? 身体に効くだろう?」
「くっ…うう…何でこんなことするの?」
「何でか? それは、お前がやった事をやり返しているだけだ…まぁ、ただ何週か前のループだからお前は知る筈も無いがな…」
「え? 何を言っているの?」
「ふん…答えを知りたくば、お前が先に答えるんだな…裏の奈菜…お前は、死んでいるようなもの…早く眠っている表の奈菜を解放する意思が無ければ、お前は俺の問いに答えるか、俺に殺されるか、それしか道はない。」
表面上では、龍雅は、冷酷な表情で、青い電撃を纏った手で奈菜の首を絞め、痛めつけているが――
――すまん…奈菜…こんな事はしたくはないが、俺はこの輪廻の牢獄から出たい、死の運命を避けたいんだ…俺が脱獄する為に、死の運命を避ける為に、お前の中にある真実が出てくるまで苦しみを味わってもらおう。
本当は、龍雅は奈菜を傷つけたくない。
だが、ただ龍雅は、全員を救いたい、ただ牢獄から出たい、ただそれだけで、奈菜を傷付ける。
――全員を救うだなんて欲張りだ。だが、欲張りで何が悪い? 俺の本質は、強欲にして傲慢…強欲の権化が、欲張りなのは当然な事だ。そう…この時間逆行能力は、我が傲慢と強欲の聖痣だ…
「こんなの可笑しい…」
「可笑しい? そうだな…確かに、俺は狂っている…俺は、ただお前らを存命させるが為だけにこんな事をしているんだからな…しかし、お前も狂っている…俺への愛が暴走し、他者を殺す行動に出た…ハハハハハ!! 俺とお前は、狂人! 俺はメンヘラ! お前はヤンデレでしかない! 故に! 故に! 俺にとっても、お前にとっても苦痛でしかない事をやっているんだからなァ!」
電圧は、増していき、首を絞める力も強くなっていく。
(言っていいの? でもダメ…言ったら、余計に怒らせる…この力は、悪い人に強化された力だなんて…でも、このままだと…殺される…)
「さぁ、言え! お前の真実を炙り出すまで苦しみは続くぞ?」
「言うわ…でも、怒らないでね?」
「あぁ…」
「私は、龍雅君、貴方を手に入れる為に、ある男と契約し、力を強化してもらったの…その契約内容は、龍雅君が進めようとするハーレム計画と止める事、何故それがその男の得になるのかわからなかったけど、利害が一致して」
「…それで、紗里弥を?」
「うん…それに、龍雅君、貴方を監禁し、私のモノにしたかった…けど、待っていたのは、逆に龍雅君に監禁されるという始末…」
「そうか…許してくれよ? 奈菜…俺は、ただ真実を知りたかっただけなんだ…愛には気付いていた…だが、何故いきなり力に目覚めたのか? それが、疑問だったんだ。そこで、一つの結論、誰かが奈菜を利用していると…ごめんな。」
龍雅は、奈菜の体を治した後に、拘束を解き、奈菜を天使の慈悲の如く優しく抱き締めた。
「うん…」
「さっきは、ごめん…詫びに何かやってやる…お前のモノになる以外はな…俺は、俺だからだ。強欲な俺が、全く真逆に過ごせるはずもない…だから、俺はお前のモノには、なれない…けど、俺はお前も愛そう…」
全てを忘れさせるような塗りつぶすような甘い悪魔の声で、奈菜に囁き、愛を告げた。
「…どうやら、私の出番は、なかったみたいね。」
そう言うと、龍雅の目の前に、香苗が現れた。
「聞いていたのか?」
「うん、でも、龍雅君…さっきのはダメだよ? 女の子に暴力を振るっちゃ…」
香苗は、少し怒った上目遣いで、そう訴えた。
「すまん」
「でもこれで、龍雅君と私達の平穏は、今度こそ保障された訳ね。」
「あぁ、奈菜…俺のやる事を許してくれるか?」
「ちゃんと…私の事も愛してくれるならそれでいいよ…」
「ありがとう…」
龍雅が、そう笑うと、奈菜も笑い返した。
(でも、本当は憎い…他の女に龍雅君を取られるなんて…)
そう思い、奈菜は、香苗に一瞬だけ強い殺気の籠った視線を向けて、誰にも聞こえないように小さく舌打ちをして歯ぎしりをし、拳を握りしめた。
(…けれど、いつまでも憎んでいても仕方がない…そう、もう仕方がないの…その方が表の私も幸せになれるんだから…それにこの力で、知らず知らずのうちに殺していけばいい…そうだ。それにしよう…)
――さて、この事件の犯人の名前当てをしなければな…紗里弥に頼むか…そいつを殺せば、俺はやっと休める。
「行くよ。」
「おう」
香苗が、空間に穴を開け、外に繋げ、そう言い、龍雅は返事をした。
一方その頃、あるビルの一室では…
「チッ…バレたか…」
龍雅に復讐心を向けている白いスーツの男が、無線機を耳に当ててそう言い、舌打ちをした。
「だが、名前と場所がまだ特定できていません。まだ、大丈夫かと…」
サングラスをかけた黒いスーツの男は、そう言うと、白スーツの男は、無線機の電源をオフにし、黒スーツの男に渡した。
「いいや、奴のバックには、極星院グループが付いている…それに、龍雅の母親は、地球規模の千里眼を持つと言われている…いつかバレるだろう…だから、奈菜を強制的に操り、あの場にいる奴を全て殺害しろ。今すぐに…」
「承知…」
黒スーツの男が、指を鳴らすと、奈菜は、いきなり倒れた。
「どうした!? 奈菜!?」
龍雅は、奈菜の体に近寄ると、香苗と龍雅と奈菜の体から無数の刃物が飛び出しながら破裂した。
――これは…一体…
(………えっ…?)
三人は、肉塊となり、肉と血が部屋に飛び散り、強烈な錆びた鉄の匂いが、部屋に充満し、まだ意識のある龍雅は、二人を回復させようと、這い、体を再生させながら動く。
――こんな…最後…認められるか…折角手にした未来だ…また繰り返すなんてやらせてたまるか…
龍雅は、奈菜と香苗の肉片を掴もうとすると、目の前に一人の少女が現れた。
『いいえ…貴方は、また繰り返してもらいます。』
YSは、そう言い、三人の返り血に汚れた奈菜の制服を持ち、その中から、小さな黒い物体を取り出し、龍雅の目の前に映るように投げ捨てた
『これは、盗聴器…これで、貴方達の言う黒幕は、奈菜を強制的に操り、こんな結果になってしまった訳です…貴方は、犯人の情報を得ました…ならば、次は、犯人の居場所を捜さなければなりません。』
――クソッ、過去に遡ってしまっては証拠も消える…
『では、また会いましょう…この輪廻は、もうすぐ終わり、真の輪廻が始まる。さぁ、回りなさい…』
YSは、そう言って去った。
――生体反応はまだある…今の内に…いや、もう、手遅れか…
「YS…」
『はい、何でしょうか?』
「時間逆行するなら、奈菜にこう伝えろ…龍雅の幼馴染である西村香織も仲間に誘えとな…」
『ほう? それは?』
「龍雅を絶望させるためには、これだけでは足りぬ…香織と虎太郎を絶望の糧とし、龍雅は、いずれ世界を憎み、世界を滅ぼし、そして自分のやった過ちに気付き、自ら死を選ぶだろう! 原始時代から現代まで争いを続ける愚かな人類は、滅び去り、我が憎むべき怨敵龍雅も死ぬ! ハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハ!!」
『全く…二兎を追う者は、一兎も得ずって言葉を知っていますか? 龍雅への復讐と人類の滅亡…両方とるなんて…まぁ、聞いてはいませんね…やれやれ…世界の位置、人類の歴史を改変し、龍雅さんの為に設定したこの世界でも、私の思うようには動かないのが人間…だからこそ人間は、面白い…龍と人を憎む愚かな怪物よ…』
そう言いながら手を広げ、クスクスと笑い、クルクルと回りながら後ろに下がりピタッと止まった。
『皮肉なものだ…争いを憎む癖に、争いの原因となる感情…恨みを龍雅さんに向けるとはね…では、永遠にさよなら…君の願いは、どう足搔いても叶わないだろう。』
YSは、狂い嗤う男の姿をクスクスと笑うと、時間は逆行し始めた。
『さぁ、怪物の一言で、輪廻の動きが変動した…第一の輪廻は、もうすぐ急という終わりを迎え、第二の輪廻の幕が上がる。第二の輪廻を越え、物理法則の呪縛から解き放たれた世界で、一緒に踊りましょう…龍雅さん。今の所は、貴方の愛しの女性の一人…香苗と共に、殺伐とした輪廻デートをお楽しみください。』
時間は、再び放課後に戻る。
――また戻ってきてしまったか…
(あれでうまくいった筈なのに…)
香苗と龍雅、二人だけがこの輪廻の牢獄に囚われている。
奈菜という枷が二人の囚人の足を引っ張り、輪廻の看守に、再び牢に入れられる。
――そういや、香苗は、何故か今度こそって、言っていたな…あれは…一体…一応聞いてみるか…
しかし、牢獄にも抜け道はある。
(…龍雅君にタイムループの事話してみようかな? 多分、龍雅君のあの行動は、恐らく…)
牢獄の抜け道は、囚人同士の知識の共有によって開かれるものだ。
二人は、教室から出て、スマートフォンのロックを解除し、龍雅は香苗にメールを送った。
(龍雅君からのメール? 前ではなかった筈…)
香苗は、メールボックスを開くと、メールの件名には、「もしかしてだが、お前も時間を遡っているのか?」と書かれていた。




