第壱拾話《進化する龍と模倣する虎》
「ハーハハハハ!!」
龍雅は、狂気が混ざった笑い声で、虎太郎に斬りかかる。虎太郎は、その斬撃を片手で受け止め、虎太郎の腕に、強い衝撃が響き、校舎裏には、鉄と鉄がぶつかり合う甲高い金属音が響き渡る。
「本物の剣を使うって事は、俺を殺す気か!? 龍雅!?」
剣と剣の押し合いで、金属音が鳴り響く。虎太郎は、全身の力を使い、剣を持って龍雅に対抗している。
「違うな。俺が殺すのは、あいつだけだ。今は、ただお前との戦闘を楽しむだけだ。その為に、お前を本気にしたくてなッ!」
龍雅は、虎太郎が持つ剣に力を加えて虎太郎を後方へ押した。虎太郎は、このままだとやられるのは確実なので、隙を狙って龍雅の腹をトビムシと虎太郎の自前の脚力を合わせ、全力で蹴り、龍雅は後ろへと吹き飛んだ瞬間、虎太郎は、剣に巨大な炎と電流と氷を一瞬にして纏わせ、炎と電流を纏いし氷の大剣を作り上げた。紗里弥のあの巨剣には劣る威力だが、それでも威力は抜群だ。
「くらええええ!!」
虎太郎は、巨大な巨剣を片手で振り上げ、龍雅に斬撃を浴びせようとしたが――
「甘い…」
龍雅は、腕をクロスし、斬撃を防御しようとする。しかし――
「甘いのは、そっちだよ!」
「何?」
龍雅が、氷の大剣を防御するとの同時に、虎太郎は、剣を使っていなかった片方の腕を引き、龍雅の後方から大量の蜘蛛糸が襲い掛かる。
「お前の防御能力を見ていたが、前方側面からの攻撃に対しては完璧だ。だが、お前の防御能力は、後ろと下からの攻撃は防御できないのが弱点だ!」
虎太郎は、龍雅の能力の弱点を昨日の観戦で見抜き、その弱点を指摘した。
――短い間で、能力を使いこなす上に、俺の弱点を見抜くとは…やはり、お前は面白いな。しかし、蜘蛛の糸をそう簡単に使う物ではない…蛋白質切れまでの問題だな。
龍雅は、迫りくる蜘蛛の糸に視点をやり、そう心の中で思った。
そう、龍雅の思う通り、蜘蛛の糸は、蛋白質で出来ている。ナイロンよりも柔軟で、鋼鉄より頑丈な繊維の素材が、蛋白質なのだ。蛋白質は、体調に大きな影響を及ぼす栄養素である。
龍雅は、能力を使い、空へ上昇して回避しようとしたが――
「まだ攻撃は、終わっていない!」
蜘蛛の糸を蹴る為に空に逃げた龍雅を追い打ちする為に、虎太郎は、氷の針のような柱を龍雅を押し潰す様に二柱上と下へ生成し、柱をドリルの様に回転し始めた。
「想定内だ!」
龍雅は、右手を下に向けて下に向かって大型のエネルギー弾を放ち、氷の柱を砕き、氷の針の部分を消し去って氷の柱を岩の様にゴツゴツとした表面に変え、左手で持っている日本刀に、エネルギーの刃を纏わせて、氷の柱を無数の礫になるように瞬く間に切り刻み、氷の礫はエネルギーの刃による熱で水と化した。
「こうなったら、やるしかない! オラァ!!」
虎太郎が片手をあげると、氷の柱は、龍雅を空へ突き上げる様に勢いよく龍雅目掛けて飛んで行き、龍雅は、空中で振り向き、氷の柱に向けて右手をかざすと氷の柱は、念動力で停止した。
「何!?」
――お返しだ。
龍雅は、氷の柱を虎太郎に向けて念動力を使い、高速で撃ち返した。
「ハァアアアア!!」
高速で向かってくる氷の柱を虎太郎は、氷の巨剣を持って氷の柱を全力で斬りかかった。
「ハァ!」
氷の巨剣は、炎を纏い、炎は氷の柱を溶かしていく。
氷の巨剣は、解けず。炎は、水分によって消えないのは、虎太郎の能力の配給による物で、氷は、氷系能力による冷気の配給、炎は、炎系能力による炎の配給によって氷は解けず、炎は消えない。
――虎太郎は、氷の柱を抑えるのに夢中で気づいていないようだな。ならば、良い。この状況下でのお前の危機対応の試し時だ。
虎太郎が、氷の柱を受け止めていると、龍雅は、右手に持つ日本刀にエネルギーを纏わせ、虎太郎に刀を向け、何もない空気を素早く斬ると、刃が通った軌跡に、三日月状のエネルギー弾…いやエネルギーの刃が生成され、エネルギーの刃は飛んで行く。龍雅は、エネルギーの刃を作る工程を素早く何度か繰り返し、無数のエネルギーの刃が氷の柱を抑えている虎太郎に襲いかかる。
「虎太郎! 危ない!」
乃愛は、虎太郎のそばに瞬間移動し、虎太郎の服に触れて乃愛は、二人は、乃愛が倒れていた場所に瞬間移動した事で、龍雅の連撃を回避し、エネルギーの刃は、氷の柱を切り裂き、地面を抉り、後から続くエネルギーの刃の弾幕は、地面をズタズタにした。
「ヤベェ…あんなの喰らったらひとたまりもねえぞ…」
虎太郎は、龍雅の技が如何に危険か、思い知り、恐れおののいた。
「俺達の戦いに横やりを入れるとは…大した行動を取ったもんだ。」
――チッ…邪魔が入ったか…
龍雅の鋭い視線が、虎太郎と乃愛に突き刺さる。向けられた感情は、不快。戦いを邪魔された事に不快を覚えているのだ。口と表情では、不快を漏らしていないが心の中では、戦いを穢した事による不快だ。
「さぁ、再び動け…さもなくばこいつがどうなるか知らんぞ…」
龍雅は、松林に向けてエネルギーの刃を向ける。その刃は再び、紫と黒に染まり可視化した禍々しい殺意を見せる。
「わかった。」
虎太郎は、龍雅に立ち向かう為に、再び剣を構え、龍雅はエネルギーの刃を消し、剣を鞘に納めて居合の構えを取る。
「もうやめてくれ…虎太郎。龍雅に殺されるぞ!」
乃愛は、虎太郎の手を握って虎太郎を止める。しかし――
「いいや、龍雅は、俺が止める。それに殺意を向けているのは、松林だけ…ならば、龍雅は俺に対して本気を出す事は無い…つまり勝機があるって事だ。だからその勝機を信じて戦うだけだ!」
虎太郎は、そう言いながら、進み、乃愛の手を優しく振り払い刀に電気と炎を纏わせる。
「虎太郎…」
乃愛は、虎太郎を心配そうに見守るしかないのだ。
「先輩負けないでください!!」
少女は、大きな声を上げて虎太郎を応援する。
「おう!」
龍雅に向かって突撃していく虎太郎。
突撃してくる虎太郎を迎える様に、両手を広げ、龍雅の表情は狂気の笑みで歪んだ。
「来ォい!! 虎太郎ォ!! ここにお前にとってのボスがいるぞォ!!」
龍雅が、そう叫ぶと虎太郎は、刀を鞘に納め、すぐさま蜘蛛の糸の生成に取り掛かり、蜘蛛の糸を両指十本一つ一つに、糸を巻き付けた。
「喰らえ!」
虎太郎が、腕を振るうと糸が連動し、龍雅は糸が来る事を察知し、右手で蜘蛛の糸を日本刀で止め、蜘蛛の糸を切り裂き、バックステップで後ろに下がり、刃を数回ふり、虎太郎狙いのエネルギーの刃を放ち、虎太郎は、エネルギーの刃を防ぐ為に、全ての指を使い蜘蛛の糸で防ぎ、複数のエネルギーの刃は消え、蜘蛛糸を裂かれ、相打ちになった。
(やはり、こうなるか…ならば…)
虎太郎は、蜘蛛の糸を数倍の太さで生成し、頑丈さを増大して指に糸を巻き付け、糸を操り、糸が龍雅の右腕を裂いた。
「クッ…」
龍雅は、右腕がやられたことで右手の感覚がなくなり、日本刀は、龍雅の右手から離れて落下していく所を虎太郎は、蜘蛛の糸で破壊した。
――腕の再生に間に合わない…回復しようとしても、多少のタイムラグが生じ、その間に…ならば…
龍雅は、片手で追尾性のエネルギー弾の弾幕を放ちながら虎太郎に接近する。
――弾幕と肉体技の組み合わせた技を見せてやる!!
龍雅が、ある程度撃ち終わると、手に力を溜めたエネルギー弾を生成した後に、エネルギー弾を握りしめ、急降下しながら、虎太郎に突進しようとしたが――
(今だ!)
虎太郎は、腕を振るい、蜘蛛の糸で、エネルギー弾を破壊した後に、龍雅を捕らえた。
「何!?」
龍雅は、蜘蛛の糸を振り払おうとするが、強く体を締め付けられている為、身動きが取れない
「…積んだな…俺の負けだ。」
龍雅は、不死であるものの死をイメージし、普通なら殺されるだろうと予想し、潔く降参をし、虎太郎は、糸の拘束を解いて龍雅を糸から降ろし、龍雅は着地した。
龍雅は、申し訳なさそうな気持ちで、虎太郎達を見つめる。
「何だよ。何か言いたいことがあるのか?」
虎太郎は、少しきつい口調で言う。
「虎太郎…乃愛…そしてそこのあんた…騒がせてしまってすまないな。そして俺を恐れずにいてくれるか?」
龍雅は、頭を下げ、騒がせてしまった事を三人に詫びた。そして、狂気を内に秘める自分を恐れて欲しくないと三人に懇願した。
「許してやるよ。元々、俺達を助ける為にやった事なんだろ? それに俺は、お前とは、昔からの親友だろ? ならば、恐れる必要なんてない。」
「龍雅君。君の行動は、半分正解で半分不正解だ。確かに、ピンチに陥った私達を救うのは、正解だ。だが、その後の行動が不正解。自分の独り善がりで動き、勝手な行動を取るのは、やってはいけない事だ。独善による殺人なんてもってのほか、それと君を恐れていたら委員長としての恥だ。」
「私は……恐れません。先輩の事を恐れません。だって、私たちの事を助けてくれたから、だから恩人を恐れていたら失礼だと思います。なので、私は先輩を恐れません。」
龍雅は、三人の許しを得て、龍雅は、再び頭を下げ、「ありがとう」と言った。
龍雅の再び頭を下げる表情は、目に力を入れて瞑り、三人に許され、恐れられないことに感謝を抑えきれない表情だ。
「じゃあ、約束通りクソ野郎を解放してやってくれ。」
「わかった。」
虎太郎が言うクソ野郎とは、松林の事を指す。龍雅は、松林の服に刺さったエネルギーのナイフを全て消し、ナイフが消えた事で支えが無くなり、松林は前方に倒れた。どうやら松林は、恐怖と痛みで失神しているのだろう。
「あいつは、このまま放っておいてもいいだろうな。龍雅の能力で回復せずともあいつは、あらゆる生物の力で回復する筈だ。」
「あぁ、そうだな。」
虎太郎と龍雅は、見下す様に松林の倒れている姿を見る。松林を見る眼は、腐った生ゴミを見るような眼だ。
「さて…帰るか…」
虎太郎がそう言って荷物を持ち校舎裏を立ち去る、三人も荷物を持ち虎太郎の後に続くように校舎裏を立ち去っていった。
数十分後の校舎裏…
「クソッいってぇ…」
松林は、体の痛みで目を覚ます。視覚は、霞んでよく見えない。恐怖と痛みで気を失っていた松林は、「ハァ…ハァ…」と息を切らし、体をヨロヨロと壁にすりながら、壁を手にかけてゆっくりと立ち上がるが、龍雅のカウンターを直に受けた足のダメージで倒れ込む。
松林は、体を這いながら、手だけで状態を起こし、上半身を壁に凭れかける。
「もう…悪いことをするのは、やめよう。そうしよう…もう、あいつから痛い目に逢いたくない…」
松林は、龍雅への恐れで、悪事をもうやめると決意した。あれほどの仕打ちをされれば、当然であろう。
松林は、更生を決意し、体が回復するまで再び眠ろうとするが――
「龍雅君が許したのは、良いけど…私は許さない。」
その声を聞いた松林は、50m先にあるフェンスの上を見た。そこには、謎の少女の影が、夕日をバッグに現れたのだ。
夕日が後ろにある所為と視界が悪い所為で、その少女の正体が判らない。
「お…まえは…だれ…」
松林が、謎の少女に正体を問う前に、松林は、血を撒き散らしながら肉体が破裂した。返り血は校舎裏を血の色で赤く染まった。
「ウフフフフ…龍雅君…貴方の敵対者は殺したわ。後は…クッ!」
謎の少女は、突然頭を抑えて苦しみ始めた。
「ウアアアアア!!!」
謎の少女は、フェンスを後ろから頭を抑えながら落ちていった。松林の視界は、赤黒く染まり始め、そして松林の視界は、黒く染まった。
松林は、更生を敵わずに、この世から旅経っていった……
『やれやれ…あの少女は、血をぶちまけて殺しておいて死体処理をしないとは…殺し手として素人だな。まぁ…知っていたが…』
不気味な人工音声を放つガスマスクを着けた少女は、謎の少女が残した殺害現場の跡を嘲笑うように言いながら空中にいきなり現れた。黒いロングコートと妖しい美しさを持つ黄金の髪は、まるで光と闇の様に見えるが、黒いガスマスクの所為で、まるで日食のようだ。
以前、龍雅と虎太郎と会った時は、敬語で話していた為、敬語が彼女の口調だと思われていたが、この中性的なタメ口こそが、彼女の本当の口調だろう。
仮面の少女は、松林自身の血で汚れ、破裂した松林の死体を見て「フッ…」と鼻で笑い、仮面の少女は松林の死体の前に瞬間移動する。
『乃愛よ。このままでは、お前が犯人として扱われるだろう。だから、お前の為だと思え。』
仮面の少女が、前に手をかざすと松林の死体から飛び散った返り血諸共死体がその場から消え去った。
『さて、私はまた舞台裏で我が親愛にして敬愛なるあの御方の物語を楽しませてもらうとするか…その物語の結末は…知っているがな…』
仮面の少女が、そう言った後、指を鳴らすと雲の動きと風の流れが止まり、音が消え、舞い散る桜の花は空中で停止し、気絶している者達の呼吸の動きも停止する。
そう———時が止まったのだ。この世界で止まっていないのは、光、空気、星の重力、そして自分のみ、他の存在は一切の動きを封じられる彼女のみの独壇場。
仮面の少女は、踵を返し、空間の穴を出現させ、彼女は空間の穴に入った後に、穴は消え彼女は何処かへと立ち去っていった。




