カラスの色
ずっと羽根を動かし続け疲れてしまったカラスは、森に舞い戻り中央にある泉に降り立ちました。澄んだ水の底にあるキメ細やかな砂が、水が湧く勢いでコポコポと動きました。カラスはのどを潤そうと、泉にくちばしを近づけました。そして水面に映る自分の姿を見て驚きました。
「なんでオレは白いんだ! この世界はこんなにも色があふれているのに、どうしてオレは白いんだ!!」
突然、怒りに満ちたカラスの声が塔の中に響き渡りました。カラスの怒りが二人の中に流れ込んできます。
カラスは水を飲むのも忘れ、もう一度あちこち飛び回り、池の魚や海の生き物や森の動物、植物を見て回りました。でも白色のモノはモコモコの雲と自分だけでした。
「なんでオレだけ白いんだ……なんでオレだけ……」
カラスの怒り、あせり、絶望、悲しみ。二人の中に次々と感情が流れてきました。悲しくてさびしくて、ここでも又仲間外れなのかと言う悔しさも混ざっています。二人はとても苦しい気持になりました。胸の辺りがずきずきと痛くて「うぅっ」と胸を押さえました。
カラスはガッカリと肩を落とし、落ち込んだ気持で数日をすごしました。色々な場所の木の枝に留まって、花たちの会話や動物たちの会話や魚たちの会話を、こっそりと聞いてすごしました。あきらめに似た気持で、毎日生き物たちの話に耳を傾けていました。
そんなある日、桃色池の近くですごいい話を聞いてしまったのです。青緑色の陸ガメの話によると、玉虫色の石がこの世界の色の源だと言うのです。その石は神たちの住む宮殿にあると言うことでした。カラスはその話を最後まで聞かずに宮殿へ飛び立ちました。
自分にも色が着くかも知れない。カラスは心おどらせました。青色かな紫色かなそれともピンクかな、ピンク色なのに「オレ」って言ったら変かな? カラスは色々想像しながら宮殿の周りを飛びました。
「玉虫色の石はどこかな?」
カラスは意気揚々(いきようよう)と窓から部屋の中をのぞいて回りました。
「戸棚の中にかくしていたら見つからないな……どうしよう」
そう思いながら、カラスはたくさんある部屋の窓一つ一つからのぞき込んで探しました。窓が開いている場所は、中に入って探しました。でも中々見つかりませんでした。
そして、やっと二階の角部屋できれいな石を見つけました。カラスは少しだけ開いた窓から中へ入り、透明な箱の縁にとまり目を輝かせて、きれいな色の石を見つめました。
「きれいだな、欲しいな。全部欲しいなぁ」
そう思いましたが、口には一つしかくわえられません。カラスは箱の中の石をよく見ました。すると、他の石よりも一回り小さくて、見る角度によって色が変わる石が目に入りました。
「もしかして、これかな?」
そうつぶやいて玉虫色の石をくわえて、窓から外に飛び立ちました。カラスは生まれた場所に戻って来ました。そして玉虫色の石を雲の上に置きました。
しばらくカラスは石とにらめっこをしました。石を見つめたまま、カラスは困ってしまいました。石を持って来たのは良いけれど、これからどうすればいいのか、カラスには分かりませんでした。
石にお願いしてみても、石に体をこすりりつけてみても、カラスは白いままでした。どうしようかと散々(さんざん)悩んだカラスは、桃色池の陸ガメに聞きに行こうと思いました。
カラスは再び石をくわえて、桃色池を目指して飛び立ちました。森を抜け桃色池の上空に着きました。陸ガメはどこかなと池の周りを探してみると、まだ陸ガメは花たちに話を聞かせていたのです。
カラスはおかしくなって口を開けて笑いそうになりましたが、石をくわえている事を思い出しあわてて口を閉じました。
その時でした。勢いよく口を閉じた拍子に玉虫色の石が、口の中でコロコロと奥の方に転がって、カラスは思わずゴクリと飲み込んでしまいました。カラスはあわてて吐き出そうとしましたが上手くいかず、咳をしたり木の枝に逆さまにぶら下がってみたり、色々ためしましたが石は出てきませんでした。
ふと辺りを見渡すと、この世界の全ての色が消えてしまっていたのでした。カラスは驚いて飛び立ちました。上空をせんかいし色んな場所を見て回りましたが、七色の池も、魚も、グラデーションの森も、動物も、植物も。全てが真っ白になってしまったのでした。
カラスは、自分だけが白じゃ無く成ったと喜びました。でも二人に流れて来る感情は、喜びでは無く悲しみでした。
色が無くなるなんて思わなかった。こんなことは望んでなかった。驚きと申し訳なさと深い深い悲しみ。そんな思いが二人の中に流れ込んで来ました。