止まない雨
子ども神が泣きながら宮殿を飛び出して来るのが見えました。動物たちも悲しんでいました。でもカラスにはどうすれば良いのか分かりませんでした。
カラスは、子ども神の後をそっとついて行きました。子ども神は泣きながら色んな場所を探しました。でも見つける事が出来ずに、とうとう森の外れの岩影にうずくまってしまいました。カラスは泣きじゃくる子ども神を、近くの木の枝から見守ることしか出来ませんでした。
『どうやらこの世界の色が消えたのは、このカラスが原因だったようですね』
塔の声が聞こえるのと同時に、円柱のかべに映し出された映像は消えてしまいました。
「お願いです。カラスを助けて下さい。どうか石を取り出してあげて下さい」
「お願いします。」
二人は一心にお願いしました。
『なぜ救わねばならないのですか? このカラスは悪い行いをしたのですよ。救う必要はありません』
子ども神と女の子の顔色が見る見る青ざめて行きました。
「このカラスは、ただ色が欲しかっただけです。この世界から色が消えるなんて思わなかったのです。お願いします助けて下さい。お願いします」
『悪い行いをした者は罰せられるのです。それは人の世でも天界でも同じこと』
女の子の頬を涙が伝いました。
「お願いします。カラスさんを助けてあげて!!」
女の子の悲鳴にも似た声が塔の中に響きました。
『では、人間界がずっと雨のままでも良いのですか? この世界が色の無いままでも良いのですか?』
塔の声は無情に響きます。
『カラス一羽を救う為に、そこまでのぎせいを払いますか?』
塔の声はさらに続きました。
『子ども神と人の子よ、選びなさい』
子ども神も女の子も黙り込みました。
女の子は考えました。ずっと降り続く雨に、うんざりする両親の顔。今にもしおれそうな植物たち。雨がずっと降り続いたらどうなるんだろう。花も野菜も枯れちゃうのかな。動物たちも元気が無く成っちゃうのかな。でもカラスさんが死んじゃうのは嫌だなと思いました。
子ども神も考えました。カラスの命とこの世界の色……。考えるまでもなく、カラスの命の方が大事だと思いました。二人は同時に口を開きました。
「お願いします。カラスの命を助けて下さい」
「お願いします」
「お願いします」
「助けて下さい」
二人は何度もそう言ってお願いしました。
突然カラスの体が光り始めました。二人には何が起きたのか分かりませんでした。それでも二人は一生懸命お願いしました。カラスの体は益々(ますます)光りが強くなり、二人はまぶしすぎて目を開けていられなくなりました。両手で顔をおおっていると、段々と光りが収まって来ました。
カラスのいた場所を見ると、そこには光り輝く玉虫色の石が、空気中に波紋を拡げていました。
「カラスは?」
二人は部屋の中を見回しましたが、どこにもカラスの姿はありませんでした。子ども神と女の子は、悲しくて悲しくてポロポロと涙をこぼしました。
カラスが死んでしまった。あんなに悲しんでいたのに。あんなに悔やんでいたのに……。悲しくて、可哀想で、二人はずっと泣き続けました。
地上では、明け方から激しい雨が降り始めました。雷鳴がとどろき、まるで嵐のようでした。母親は雷の音で目を覚ましました。
「夜、寝る頃には雨が上がって、久しぶりに星が見えていたのに。今日も雨なのかしら……。それにしても今までの中で一番ひどいわね、嵐のようだわ」
母親は、カーテンの隙間から空を見上げてそうつぶやきました。雷で目を覚ましていないかと、母親は女の子の部屋をのぞいてみました。布団の中からしくしくとすすり泣く声が聞こえました。寝る前に様子を見に来た時には、楽しそうにほほ笑んでいたのに、今は閉じたまぶたの隙間から涙が流れ落ちていました。
「まぁ、どうしたのかしら……、悲しい夢でも見ているのかしら」
母親は女の子の頭を、そっとなでました。
「大丈夫。大丈夫。」
そう言いながら、掛布団の上からとんとんと女の子をあやしました。
『いつまで泣いているのですか。そこの物を持って早く立ち去りなさい』
塔から冷たい声が聞こえて来ました。二人は仕方なく、カラスを包んでいたスカーフと玉虫色の石をつかみ、らせん階段を下り始めました。肩を落として、一段一段ふみしめるようにゆっくりと降りて行きました。あふれる涙で足元がよく見えなくて、袖口でぬぐってはまた降りて行くのでした。
ようやく二人は祈りの塔を降り、宮殿に戻って来ました。広間には父神様と母神様が待っていました。二人は母神様の優しい顔を見るなり、泣きながら抱き付きました。
「どうしたのですか?」
母神様は二人の頭をなでながら優しい声をかけました。
「カラスがっ……カラスがっ……」
二人は泣きながらそう訴えました。
父神様と母神様は無言のまま、うつむく二人の手を取り宮殿の外へと連れ出しました。
「二人とも、顔を上げてごらん」
父神様にそう言われ、二人は涙をぬぐって顔を上げました。




