記憶質屋
初投稿です。
毎日午後八時投稿の短編です
──男に、陵辱されたことはあるか。
目の前に座る男は虚ろな顔でそう言った。
T県、M市の、繁華街の裏通りは、表通りとは対極に、人がかなり少ない。そこに奇妙な噂があった。
深夜になると、おかしな事務所が開くらしい。
その事務所は人の記憶を買い取り、欲しい物と交換してくれる。
都市伝説じみたこのよく分からない噂は、色んな動画サイトで、オカルト好きの大人たちが広めたものたが、そんな大層なもんじゃない。
イカれた客が来ることもある。
「——お母さんの事件については、これからも追っていくつもりです。何かあれば連絡してください」
午前七時。朝食の食パンを咥えながらボーっと警察官の言葉を聞き流す。
「はい」
俺は虚ろな顔でそう返事した。
先日から母が行方不明になっていた。元々母と二人暮らしで、大して仲良くも無かったので、特に何とも思わない。
とはいえ、まだ高校生の俺を警察官は心配してきた。
うちの家業である記憶質屋、とかいう馬鹿げたオカルトじみた仕事。一体どこの誰に需要があるのかと思ってしまった。
ちょっとした小遣い稼ぎに俺も手伝っていたので、やり方は分かる。しかし食い扶持の無い、バイトも出来ない、そして母もいなくなった俺にとって、これしか金を稼ぐ方法は無かった。
朝食を食べ終わり、そのまま学校へ行く。
学校へ行く途中、「うわ、テストやば」「もう課題終わった?」と定期テストについての話をしていた。
その道の途中で、綺麗に透き通った声が聞こえてきた。
その声の方を見ると、同じ制服を着た青年が「まじでやばいよな。今回物理の範囲六〇ページだぞ」と話しているのが見えた。
何故だか、その青年を見ると、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
その青年は同じクラスの人だった。
その、マスクをつけた青年は非常に聡明な顔立ちだ。体つきは細いが気弱には見えない。むしろ気丈にも見える。入学式で初めて見たとき、その息を呑むような美しさに胸を打たれてしまった。でもそれは少なくとも恋心ではなかった。
男に劣情を抱くなんて……、そう思っていた。元来俺は男に恋愛感情を抱くなんてありえないと思っていた。だがここ最近、彼を見る度心臓が高鳴って収まらない。
期末テスト前となると、夏が始まるころだ。
教室にはクーラーも扇風機もようやく起動し始めた。俺は教室で一人、週末課題を進めている。
周りはテストの話はするくせに、誰一人として勉強していない。その時一人の青年がこちらに近づいてきた。
「あのさ、月城。ちょっと、相談したいことがあって……」
「え、ああうん」
紛れも無く、今朝の青年であった。
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