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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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18/18

かつての家 上

 今宵もアタシを喚んでくれたね。

 さあ、九字姉妹の物語を語ろうじゃないか。

 心の準備は良いかい。

 事件はこんな風にして始まった。



 ある家族が とある家に引っ越してきた。

 母と、七歳の娘、そして一歳になったばかりの息子。

 引っ越し当日、母はさっそく荷物を解いて整理する。

 やがて夜になったが、荷物の整理は終わらず、その日は就寝することにした。

 母親は息子を寝かしつけ、次に娘を寝室へ。

 娘はベッドに入ったが、なぜか不安そうな表情をしていた。

「お母さん、クローゼットを見て。

 幽霊がいるかもしれないから」

「わかったわ」

 母は想像力が豊かな娘が、ありもしない幽霊に怯えているのだと思い、クローゼットを確認する。

 扉を開けて中を見るが、そこには幾つかの衣服があるだけ。

「大丈夫、何もいないわ」

 クローゼットの扉を閉める。

「お母さん、椅子で扉が開かないようにして」

「わかったわ」

 母は椅子でクローゼットの扉を固定する。

「ほら、もう安心」

 母は笑顔で請け負う。

 しかし娘はまだ不安そうな顔で、

「お母さん、このお家、なんだか怖い」

「大丈夫、荷物を解いて、修繕が済めば、綺麗になるわ。

 私とあなた、それに悠木。

 私たちは この家で幸せになるの。

 約束する」

「うん」

 娘は布団を被り、母に お休みの挨拶をする。

「お母さん、おやすみなさい」

「おやすみ」



 母はリビングに戻ると、荷物の中から昔のアルバムを取り出した。

 アルバムには夫の写真があった。

 彼女の夫は病で亡くなった。

 死の淵にある夫に、これからは自分一人であの子達を育てていくと、固く約束したのだ。

 だが、こうして写真を見ると、今は亡き夫の死の悲しみが蘇る。

「あなた、大丈夫よ。

 あの子達は必ず私が立派に育ててみせるわ」

 不意に地下から物音がした。

 何かが走り回る音に、引っ掻き音。

「やだ、ネズミかしら」

 彼女は地下に行くと、電灯のスイッチを押したが、灯りは点かない。

「配線の修理が必要ね」

 そして 何かがカリカリと引っ掻く音。

「駆除業者も呼ばないと」

 ハンディライトで地下を照らすと、棚にアルバムがあるのを発見した。

 そのアルバムを手にしてリビングに戻り、アルバムを開く。

 アルバムの中は、誰かの家族の写真が貼ってあった。

 幸せそうな家族だった。

「以前、この家に住んでいた人が忘れていったのね」

 アルバムの表紙には、九字一家と書かれていた。

「九字一家、か。

 幸せそう。

 この家なら、私たちも幸せになれるわね」

 彼女は、忘れ物のアルバムを眺めていた。



 その頃、娘はクローゼットが気になっていた。

 クローゼットがなんだか怖くて、なかなか寝付けない。

 不意に、椅子がひとりでに動き出し始めた。

 それは少しずつ、床を引きずる音を立てて移動する。

 娘は驚愕に目を見開き、クローゼットを凝視する。

 そしてクローゼットの扉が開き、やがて炎が熾った。

 それは炎に包まれた女の姿となった。

 娘は恐怖で悲鳴を上げた。



 それから三日後の夜。

 九字姉妹はホテルに泊まっていた。

 優璃は眠りの中で、夢を見た。

 炎に包まれた女。

 庭の木。

 二階の窓から助けを求める女性。

 その女性は必死に助けを求めていた。

 優璃は驚いて目を覚ました。



 翌朝、シャワーを浴びていた蜜華がバスルームから出る。

「優璃、空いたわよ」

 しかし優璃は、朝から何か調べ物に集中し、返事をしなかった。

「さっきから何してるの?

 気になる事件でもあった?」

 優璃はそれに答えず、父の手帳に挟まれた、昔の家の庭で撮った写真を見た。

「やっぱりそうだわ。

 蜜華、準備して。

 出発しましょう」

「どうしたの?

 っていうか、どこへ行くの?」

「昔の家よ。

 昔、私たちが住んでいた家に行きましょう」

 蜜華は動揺し、顔が強張る。

「いきなり何言い出すの?」

「いい、三日前に昔の家で事件が起きたわ。

 七歳になる女の子が緊急通報。

 家が火事になるって。

 その女の子は、幽霊が家に火をつけようとしていたと証言しているの」

「でも、それだけじゃ怪異と断定できないわ。

 子供が悪い夢を見て、それで動揺しただけなんじゃ」

「いいえ、必ず何かある」

「どうしてそう言えるの?」

 優璃はすぐに答えなかったが、しばらくの沈黙の後、話し始めた。

「時々 嫌な夢を見るの」

「ええ、それは知ってるわ」

「その悪夢が現実に起こることがあるの。

 鏡の悪霊の事件のこと、覚えてるわよね。

 あの時は蜜華に言わなかったけど、秋晴が殺された夢も見たの。

 天井に張り付けにされて、秋晴の身体が燃え上がる悪夢。

 ただの悪い夢だと思って何もしなかったけど、でも現実に、夢と全く同じ状況で秋晴は殺された。

 そして 昔の家、昨夜 夢で見たの。

 これは偶然じゃないわ。

 昔の家で何かが起きようとしている」

 蜜華は困惑していた。

「でも、あの家に戻るなんて。

 あの家には もう戻らないって決めたのに……」

「あの家に悪霊が戻ってきたかもしれない。

 もしかすると、母さんと秋晴を殺したモノかも」

「……」

 蜜華はしばらくの沈黙の後、

「わかったわ。

 行ってみましょう」



 夕方、昔の家に到着し、二人はどうするか考える。

 蜜華は優璃に聞く。

「それで、なんて説明する?

 いきなり現れて、家を調査したいって言っても、不審者にしか思われないわよ」

「子供の通報の事後調査と説明するしかないわね」

「それしかないか」

 二人はチャイムを鳴らすと、女性が対応に出た。

「こんにちは。

 私は九字 優璃、こっちは九字 蜜華。

 実は……」

 女性は その名を聞くと、驚いた表情をした。

「あなたたち、昔この家に住んでいた人ね」

 九字姉妹は顔を見合わせた。



 九字姉妹は彼女に家の中に招かれ、そして家族を紹介された。

「私は浅野(あさの) 琴音(ことね)。

 娘は志麻子(しまこ)。

 息子は悠木(ゆうき)」

 蜜華は子供達に微笑む。

「初めまして」

 一歳の息子は母親にせがむ。

「ジュース、ジュース」

「この子、最近ジュースに夢中で。

 まあ、ビタミン不足にはならないわね」

 冷蔵庫からアップルジュースを取り出すと、コップに注いでストローを挿し、悠木に渡す。

 悠木は美味しそうにジュースを飲み始めた。

「実は四日前に引っ越してきたばかりなの。

 それで色々整理していると、地下室であなたたちのアルバムを見つけたのよ」

 そして蜜華にアルバムを渡す。

 蜜華はアルバムを開き、家族の写真を見る。

「懐かしいわ」



 優璃が浅野 琴音に質問する。

「それで、この家の住み心地はどうですか?」

「まだ引っ越してきたばかりだけど、色々 修繕が必要ね。

 あなた達が引っ越してから、誰も住んでいなかったみたいなの。

 庭は雑草が繁殖してるし、植木も伐採しないと。

 それに電気配線の修理とか。

 電気が点いたり消えたりして。

 それに、長年 誰も住んでいなかったから、ネズミも住み着いてるみたい。

 でも、それが全部 終われば綺麗になって、素敵な家になるわ」

「そうですか」

 娘の志麻子が優璃の袖を引いた。

「お姉ちゃんたちが住んでた時も、幽霊がいた?」

 母親が注意する。

「それは ただの夢よ。

 変なこと聞いちゃダメ」

 優璃は琴音に聞く。

「幽霊というのは?」

「引っ越してきたばかりの夜に、この子、悪い夢を見て。

 炎に包まれた女の人の幽霊が出たって騒いだの」

 志麻子は優璃にもう一度 聞く。

「ねえ、どうだったの?」

 優璃は否定する。

「いいえ、そんなのいなかったわ」

 琴音は娘に、

「ほらね、大丈夫でしょ」

 と娘を安心させた。



 家を出た二人は話し合う。

 優璃の表情は強張っていた。

「電気系統の異常に、不審な物音、娘の証言。

 全部 悪霊の兆候よ。

 どういうこと?

 悪霊が戻ってきたの?

 それとも あれから ずっとこの家に取り憑いていたの?」

 蜜華は、

「落ち着きましょう。

 いつもの狩りなら、なにをするか」

「……まず、歴史を調べるわ。

 その場所の過去に何があったのか」

「それに関しては、手がかりがあるわ。

 私たち家族に起きたこと。

 母さんが怪異に殺された」

「でも、私は父さんから話を聞いただけ。

 蜜華は何か覚えている?」

「火事が起きたことしか覚えてない。

 あとは父さんから話を聞いて、母さんが死んだことだけ」

「父さんに連絡しましょう。

 昔の家での事件よ。

 必ず来るはず」



 蜜華は父 晃樹に電話を掛けた。

 留守録のメッセージが流れるが、以前と変わらない。

 電子音が鳴ると、蜜華は伝言を残す。

「父さん、今 私たち、昔の家に来ているの。

 事件が起きたわ。

 明らかに怪異の仕業。

 もしかすると母さんを殺したやつかもしれない。

 これを聞いたら、すぐに来て」



 メッセージを残した二人は、父が経営しているホテルへ向かい、古くから働いている支配人に話を聞いた。

「奥さまが亡くなられて、会長はおかしくなられました。

 世界中の神話や怪談、それに古い魔術書なんかを読み始めて。

 妻は火事で死んだのではない、何かに殺されたのだと。

 私はカウンセリングを受けるよう勧めましたが、話を聞いてはくれませんでした。

 そのうち、霊能力者に会うようになって」

 蜜華は質問する。

「その霊能力者というのは?」

「大迫(おおさこ) 安寿(あんじゅ)」

 その名は、父の手帳にも名前が載っていた者だった。



 二人は、その霊能力者のところへ向かう。

 表向きは占い師、もう一つの仕事としてお祓いなどもしている。

 二人は中に入り待合室で待っていると、しばらくして奥から中年の女性と男と出てくる。

 女性は男に告げる。

「大丈夫、奥さんはあなたに夢中よ。

 浮気なんかしてないわ」

「よかった。

 これで安心だ」

 男が帰った後、女性は九字姉妹に言う。

「かわいそうに、奥さん、同僚と浮気してるわ」

 優璃は怪訝に質問する。

「なぜ言わなかったの?」

「あの人は安心したかっただけよ。

 真実を教えても、信じなかったわ。

 それよりも、入って、蜜華、優璃」

 まだ名前を教えていないのに、その女性は二人の名前を知っていた。



 部屋に入ると、大迫 安寿は懐かしそうに二人を見た。

「二人とも綺麗になったわね。

 昔はあんなに不細工だったのに」

 そして優璃を見て哀れみの目を向けた。

「まあ、可哀想に、恋人が殺されたのね。

 それに お父さんは行方不明」

「どうしてわかったの?」

「それがわかるから、こういう仕事をするようになったのよ」



 蜜華が大迫に訊く。

「父とはどんな話をしたの?」

「奥さんの事件を見てほしいと、私をあの家に連れて行ったわ。

 とにかく手がかりはないか。

 でも、何も痕跡は見つけられなかった。

 ただ、残留しているモノは、とてつもなく邪悪な何かだった。

 それから、お父さんの九字 晃樹は独自に調査を始め、怪異狩りを始めたわ。

 でも、それ以来 会っていないわ」

 そして大迫 安寿は二人に、

「それで、あなたたちは どうして ここへ来たの?」

 二人は あの家でのことを説明すると、大迫は怪訝そうな表情をする。

「おかしいわね。

 私もあの家は見ていたけど、なにもなかったわ。

 お母さんの死で、しばらく事故物件扱いになっていて、誰も住もうとはしなかった。

 私も時々見に行ったけれど、何も感知していないわ。

 浅野一家が引っ越してきて、なにか変化が起きたのかもしれない。

 とにかく、調査してみないことには分からないわね」



 続く……

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