第五十二話、役目と補習と破壊衝動
「あははははははっ」
「ちょっと、笑いすぎ、先生!」
医務室で、ハイズ先生に盛大に笑われた。
「ごめんごめん。ニーナ君が、
君と、一緒に寝た知り合いに
嫉妬して、反抗期だと」
「そうです」
「一緒に寝てるのに
知り合いなの?
恋人でも、友達ですらなく?」
う……。
カルアがどういう存在か、
表現するのは難しい。
「あ、先生、
一緒に寝たって言っても、
何もしてませんからね」
「むしろ、なんで
そこまでしてるのに、
してあげないの」
「そ、それが教師のいう事ですか」
「まぁ、そこは詮索しない、
僕は口が堅い」
いやもう助かります。
「それで、ニーナ君の話ね」
「はい、そうです」
相談に来たんです。
「それは多分、成功体験してないからだね」
「成功体験?」
「彼、負けたじゃない?」
氷狐と戦って、負けた。
主人を危険にさらした。
「そこで止まってるの」
氷狐と戦ってから、
戦う機会が無かったから。
「魔獣は飼い主を守り、
役に立つのが役目。
でもそれが、できてない」
氷狐に負けたから。
「そして、君は、彼を
可愛がるでしょ」
そりゃ、可愛いですから。
すごく可愛いです。
しばらくルシアだったから、
なおさら。
「だから、自分の役目を
『可愛がられる』事
に、見出す」
本来の
『守る、役に立つ』
ではなく。
「そしたら、自分より
『可愛がられてる』
存在って、邪魔だよね」
それが、カルア。
自分には、してくれない、
一緒に寝るという行為を
唯一している存在。
それに嫉妬して、
勝とうとする。
「なるほど」
「だから、本来の役目で
成功体験させてあげるのが、
一番だよ」
「守る、役に立つ、ですか」
「そして、上手くできたら、褒めてあげて、一度で良いから、彼の希望を叶える事」
「一緒にねる事。でも、規則もありますし」
「そうだね。じゃあ、外で寝たら?」
「え?」
先生は、ニコニコ笑ってる。
「もうすぐね、課外授業の補習があるの」
「え? あのファウンデッタ・クライシスの」
「そう、君が宿舎吹き飛ばして、途中で帰ってきちゃったでしょ」
う……ごめんなさい。
確かに、本来なら次の日も、
朝から経験しなきゃならない事があった。
「だから、補習。一班づつ。
君の班は僕が引率するから、
ニーナ君も連れてきて」
「え? いいんですか?」
「ちゃんと、使役申請だしてね」
「はい!」
「そこで、ニーナ君には
大いに役にたってもらうと」
外なら、役に立つ機会もあるし、戦う事もあるかも。
「宿舎はまだ治ってないから、テント泊。
もちろん、君だけ個人テント」
「ですよね」
「だから、一緒に寝てあげるといいよ」
テントなら一緒に眠れるし、
規則にも違反しない。
「ありがとうございます!
そうします」
先生に相談してよかった。
頭を下げて、立ち上がって、
帰ろうとした時だった。
「あ、君の方は大丈夫?」
と、聞かれた。
「え? 私ですか?」
「除術。僕は遠くからしか
見れてないんだけど」
気にして見ててくれたんだ。
「空蝉怨念が、見えたから」
「あー、なんか黒いのがドバーって出たのは聞きました」
ドバーって、なんか。
「それが何かとかって、聞いてないの?」
「全然です。ジルは話たがらないし、ラウルは詳しく覚えてないって」
テイムかかってたから。
「本来なら、除術師に説明義務があるのにねぇ」
何を除術したのか。
説明する義務。
「まぁ、そこに関してはたぶん、
全面的にお兄様のせいです」
「だろうね」
「それでなんだったんですか?
黒いドバーって」
「『空蝉怨念』は
受けた苦痛の、怨み?
みたいなもんかな」
「怨み……ですか」
「ルシファルスは元々、
怨みをため込んで、
世界を壊すように出来てる」
生まれつき?
苦痛を受ける事、前提で?
「だからすごい量をため込んでた。君も辛かったでしょ」
力に覚醒した時、
感じた苦痛、怨み。
「でも、それが倒せたって事は、
もう苦しまなくて良いって事ですよね」
シルビアさんが、お兄様が、
倒してくれたから。
「さすがに、全部じゃないだろうけど」
ルシアと思考が時折混じるし、
記憶も混ざりだしてるけど、
前みたいに辛くない。
「怨みがなくなったら、世界を壊す理由は無いですよね」
その希望を、
「それは、多分。無理」
先生は打ち砕く。
「え? なんでですか?」
「ルシファルスは、
その為に生きてる存在だから。
『終わり』を司る魔族」
『終わり』を司る……
ドクンと心臓が鳴る。
ルシアが反応している。
なにかを思い出したように。
「怨みをため込むシステムは
加速装置みたいなモンで
それが無くても、いつか壊す。
壊さなければならない」
壊さなければ?
え? なんで?
「必要なんだ。
時代には終わりが。
新しい時代が始まるために」
時代の……終わり?
新しい……時代?
「それは、生き物が必ず死ぬように作られてるのと同じ」
その為に作られたから。
その為に産まれたから。
「いつか、壊したくなるし、
それをされたく無い人は
封印しようとして」
「また、怨みを溜める……」
「そう、そういうシステム」
「う……」
心臓が痛い。
締めつけられる。
「君、大丈夫?」
怒ってるんだ、
ルシアが、すごく。
うつうつと、黒い感情が
こみあげてくる。
そうだよね、
こんな事、聞いたら
怒るよね。
頭が沸き上がる。
心臓を押さえて、
歯を食いしばった。
あぁ、今、すごく
「燃やしたい」
それは私の声で、
私の感情だった。
燃やしたい、目の前の先生を。
苦痛に染まる顔が見たい。
この部屋すべてを、青い炎で満たしたい。
それは怨みとは違う。
純粋な、欲望。
燃やしたい、怒ってるから。
それを止める思考も持ってない。
やりたい事を
止められない。
止めないように、
作られたから。
タラ、と私の頬を汗が伝う。
あぁ、だから、ルシアは
──ルシちゃんは、我慢しないぞ。
ココの氷を壊した。
壊したい物を壊すのを、
止められない。
そういうふうに
作られたから。
いつの間にか、
先生の後ろに
緑のハーピーが飛んでいた。
プラテッサ。
先生の使い魔獣。
すごく怖い顔
「大丈夫だ、プラテッサ
何もしないで」
先生が冷静に言う。
「でも、殺気! すげぇぞ!」
「大丈夫、彼女は受け入れる」
そう、大丈夫。
大丈夫だから、ルシア。
何もしない、燃やさない。
大丈夫。
わかるよ、辛いよね。
わかるから、ね。
ゆっくり息を吐く。
感情がもどってくる。
「目が……元に戻ったね」
先生が顔を覗き込んで言った。
「はい。もう平気です」
力が抜けて、ガタンと椅子に座りこむ。
全身が汗だくだ。
「復活が進んでるね」
「そうですね、思考もだいぶ混じるようになりました」
グチャグチャーって。
「普通、混じらないんだよー」
あ、ココにもそれ言われた。
「君、レアなのよ。解剖とかしてみたい」
「希少生物みたいに言わないでください」
「今度サンプルちょうだい」
「絶対嫌です!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「課外授業だーーーーーーー!」
「補習だからね」
「また来ました!
ファウンデッタ・クライシス!」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




