第五十三話、荷物と理解と封印結晶
「課外授業だーーーーーーー!」
「補習だからね」
「また来ました!
ファウンデッタ・クライシス」
一面の雪原。
真ん中にそびえる氷柱。
一班づつ、先生一人の
少数で補習。
「アスナ、荷物分けるよー」
ペガサスから降ろされた荷物。
前回より少ないけど
今回はキャンプ用具もある。
「ココがいねぇからな、
1人分が多いぞ」
ココは前回の件があるので、
今日は来てない。
レポート提出で単位と引き換えるらしい。
だから私と、ラウルと、ジルと
引率のハイズ先生。
そして、
「今日は、ニーナいるから!」
私はニーナの背中を押して、
ニコニコ笑う。
「ニーナ? 成長したねー」
ラウルが笑いかけて、
「頭、撫でて良い?」
「子供扱いしないで」
「そっか。大きくなったもんね。
すごい。耳も、しっぽも」
「ちょっとなら、撫でて良い」
「うん、えらいえらい」
ラウルが頭を撫でる。
ニーナが嬉しそうにしてる。
おー、手なずけとる。
ラウルにはよく懐く。
「これ、お前の荷物」
ジルがドサリと持ってくる。
おー、だいぶ多いな。
リュックに、手提げが二つ。
全部持つと、ずっしりだ。
こりゃ重いなぁ、と
息をついた時だった。
ニーナが無言で、私の手提げを取った。
「へ? え?」
「……持つ。アスナ、重そう」
お、お、おおぉ!
これは、『役に立とう』と
してくれてる!
「あ、ありがとう、ニーナ!」
『役に立ったら』褒める!
「嬉しい! 助かるー。
すっごく重かったの。
それ、持つの大変で」
「このくらい、僕は平気。
おっきくなったから」
「だよね、強くなったもんねぇ
ありがとう、大好き!」
ニーナの頭を
グシャグシャ撫でる。
イヌ耳が気持ち良い。
恥ずかしそうに笑ってる。
これは幸先が良い。
もう片方の手提げが
誰かに奪われた。
「ん?」
ジルが横に立って、
私の荷物持ってる。
「え? なに?」
「いや、重ぇんだろ?
今、重くて大変って
俺が持ってやる」
「いや、違う!」
「何が違うんだよ」
「違わないけど、違う!」
「いいから、行くぞ」
「ちょっと! 荷物返して!」
「なんでだよ。
大変なんだろ?」
「そうだけど、あーーもう!」
ニーナの方をみると、
みるみる不機嫌そうになって。
そうだよね、ジルあんな
荷物持ってるもんね。
劣等感、感じるよね。
「ニーナ違うからね、
すごく助かってるからね」
「それ、も、持つ」
え、リュック? 私の?
「いや、これはちょっと……
ニーナには、まだ無理」
「無理じゃない!
持つの! 持てる!」
「いや、だってすごい重いよ」
「持てる! 僕、平気!
おっきくなったから!」
あ……はい。
やばい、これはなんかマズイ。
ニーナがリュック背負って、
手提げ持つと、
傍目にも重そうで。
「あの、大丈夫?」
「大丈夫! 持ててる」
そ、そうですね。
遠くでみんなが
行くぞーって呼んでる。
「大丈夫? 歩ける」
「平気だもん」
ザクザクと雪を踏みしめて
ニーナが歩く。
みんなになんとか、追いつく。
「おめぇ、なんで何も持ってねぇの?」
「全部、ジルのせい!」
「なんでだよ」
隣で、ハイズ先生が
大きく笑った。
◇◇◇◇
樹氷林の真ん中、
野営地に着いた頃には、
ニーナはフラフラで、
ドシャリと倒れこんだ。
「ちょっと、ニーナ!」
慌てて、荷物を取り除いて、
なんとか座らせる。
「大丈夫?
もう着いたからね。
お水のんで」
「平気……別に、疲れてない」
いやいや、あなた
だいぶ汗かいてるし、
息も荒いですよ。
「おい、ここからが大変なのに、
なにへばってんだよ」
「ちょっと、ジル」
「お前が遅れるから、
だいぶ日が暮れた
急いでテント張らねぇと」
「やめて!
ニーナ頑張ったの!」
「どう頑張っても、
足を引っ張るなら
邪魔なだけなんだよ」
「ジル、やめてって!
ジルは体も大きくて、
羽根もあるから」
「あ? なんだよ」
「こっちの気持ち考えて!」
「は? お前、何言ってる?」
「羽根の無い人の気持ちを、
体の小さな人の気持ちを」
「だから、助けてやってんだろ」
「それが違うっていってんの!
助けなんかいらない!
欲しいのは──」
ニーナが走りだした。
私達を振り切って。
「ちょっと、ニーナ!」
欲しいのは、
理解と、おもいやり。
氷の森の中に、小さな背中が消えて行った。
◇◇◇◇
「目の前で喧嘩するのは、
ダメだよねぇ」
ハイズ先生がやんわりと言う。
「ごめんさい」
私は頭を下げる。
「君もデリカシーなさすぎ」
と、ジルに言って、
「すみませんでした」
ジルも頭を下げる。
「君たち、
キツネの彼がいないと、
良くぶつかるよねぇ」
そうだ。
こういう時、止めたり
クッションになるのが、
ココだった。
あの笑顔で止められると、
怒れなくなってしまう。
みんなが、上手く回るように。
いつも。
私達には、ココが必要だ。
「それで、ニーナ君だけど」
と、先生が続ける。
飛び出して、帰ってこない。
「テント設営は僕らでやるから、
君は探しに行って」
「え? 良いんですか?」
「たぶんねぇ、彼は上書き、
しようとするんじゃないかな」
「なにをですか」
「自分が負けた過去」
氷狐に勝てなかった。
「だから、勝って上書きしたい」
「氷狐に? それって、まさか」
私は、木々の向こう、
上空まで伸びる
大きな氷柱を見た。
「ファウンデッタ・クライシス……」
「彼はそこに居る」
「いや、でも戦うなんて」
凍ってるのに。
動かないのに。
「ファウンデッタ・クライシスは
力の強い者を飲み込む事があるのよねぇ」
「え?」
「ニーナ君くらいじゃ、
飲まれないと思うけど」
「やばいじゃないですか!」
「だから、早く見つけて、
フォローしてあげて」
「わかりました。
いってきます」
氷柱に向かって、
走ろうとした時、
「おい」
ジルが止めた。
「なに?」
「いや……さっきは悪かった」
「へ?」
「お前の言う通りだ。
お前らの気持ち考えなくて」
言いにくそうに
ぶっきらぼうに。
「ニーナにも謝るから、
早く見つけてくれ、頼んだぞ」
「うん、私も、ごめん。
テント、よろしく」
ふっ、とジルが笑う。
私も笑い返して、
氷の森へ走り出した。
◇◇◇◇
「ニーナ!」
本当に、氷柱の所にいた。
雲まで届く、大きな氷柱。
その根元。
ニーナは氷に両手をついて、
立っていて、
「良かった、見つかった」
振り返ったニーナは涙目で。
「どうしたの?
なんで泣いてるの?」
なるだけ優しく。
怒らないように。
「溶けない……」
「え?」
「ずっと、やってるのに、
溶けない」
いや、毒と昏睡魔法じゃ、
どうやっても溶けません。
その言葉を飲み込んで、
「これはただの氷じゃなくて、
封印結晶だから、
炎でも溶けないの」
「う……」
ニーナが顔を歪ませる。
あぁ、泣きそう!
「あの、ニーナ」
「氷狐、倒したい」
「倒さなくても、ニーナは
十分、私の役に立ってるよ」
「立ってない!僕が
もっと強かったら」
「ニーナは、強いよ」
「僕が氷狐に勝てたら!
もっと、頑張れたら」
「ニーナは、頑張ってるよ」
「アスナは、僕を好きに
なってくれるのに!」
あぁー……なんか、
覚えあるわー。
私がよく、ココにやる奴だ。
──私がもっと強かったら、
──テイムされなかったら
──あんな事には、ならなかったのに!
まくしたてて、困らせて。
そんな時、ココ、
どうしてたっけ
えっと。
──覚えておいて、僕のキス。
ビクンと体が震えた。
そうだ、
いきなりキスとかしてた。
あー……いや、でも。
「僕が……もっと」
あぁ、ニーナ泣きそう。
ダメだ、あぁ、もう仕方ない!
仕方ないからね!
私は両手を伸ばして、
ニーナを抱きしめる。
「へ?」
ニーナの身長は
私より少し低くて、
顔が肩に当たる。
「アスナ?」
驚く顔に手を添えて、
その幼い顔に、
小さな唇に、
もう!
どうにでもなれ!
自分の唇を
触れさせた。
少しだけ、ニーナの唇が動いたのが分かる。
ニーナの小さな手が私の背中にまわって、控えめに抱きしめられる。
うわー、これ、どうしよう
これ、正しい?
本当に、正しい?
ゆっくり、唇を離して、
ニーナの顔を見る。
潤んだ目の
切ない顔をしていて、
な、なんか罪悪感。
「ニーナ、あの、私、
ニーナ大好きだからね」
「え……」
「だから、その」
「カルア……よりも?」
「う……」
それは、ですね……
「カルアより、好き?」
「う、うん。カルアより、好き」
「やったぁ!」
ギウと首に抱きついてくる。
うわー、これ後で、
カルア、怒る奴だ。
絶対お仕置きされる。
うわー、うわー。
「ねぇ、アスナ……」
「ん? なに?」
「もっかい、して?」
な!
そ、そんな、切ない顔で!
でも、それはさすがに
「ダメ。また今度ね」
「えー……」
とりあえず、
元気になって良かった。
「僕が氷狐に勝ったら、
してくれる?」
いや!
なにも解決してない!
「キ、キスはご褒美では、
ありません!」
「えー……」
「ほら、早く帰ろう。
もうすぐ、日がくれちゃう」
「うん」
とりあえず、元気になったニーナに、ほっと息を吐いて。
ふと氷柱を振り返った。
ファウンデッタ・クライシス。
中で誰か凍ってる。
たぶん、氷狐。
ドクンと心臓が鳴った。
「え? なに?」
急激に心臓が苦しくなる。
これは、まさか……
「アスナ、どうしたの?」
ニーナが振り返る。
ダメだ。すごく、ものすごく
「壊したい」
心が塗り替えられてく。
頭が沸騰していく。
ルシアが壊したがってる。
氷柱を、氷狐を。
ココを、助けたいから。
ダメだ、ダメ……
心が青い炎で満ちた。
その瞬間、私の体は光に包まれ、氷柱の中に吸い込まれた。
「アスナ!」
ニーナが声を上げる。
ボンっと音を立てて、
カルアが現れる。
「え? カルア?」
ニーナが驚いて、
「な? え?」
カルアは慌てて、
体を起こす。
「私が、強制排除された?
え? なんで?」
吸い込まれた所には、
何も残っていない。
「ご主人様が、中に、
取り込まれて……」
シンとした空気の中、
重い沈黙だけが残った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「夜までに凍死しそうだねぇ」
「絶対マズイじゃん!」
「一番、あったかいのは
僕のしっぽに、くるまる事」
「な、何が目的ですか」
「察しが良いね」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




