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第四十九話、洗濯とダンスとしっぽモフモフ

「おい」


 お兄様のいた医務室を出て

 廊下を歩いていた時だった。


「あ……ジル」


 なんかすごい怖い顔してる。


 ジルはしかめた顔で、

「お前、どっちだ?」


 と聞いた。


 どっち。


 私か、ルシアか。

 目覚めたのは、どっち?


「あ、アスナ……です」


「そうか」


 やっぱり、怒ってるようで、

 ズシズシ歩いてくる。


 思わず身をすくめた私は、

 いきなり抱きしめられた。


「へ?」


 おう。

 え? なに?


「ジル?」


「お前が、戻って良かった」


 耳元で呟かれて、

 それがあまりに切ない声で。


 あぁ、そうだ。

 しばらくずっとルシアだったから。


「あの……ジル」


「わりぃな、いきなり」


 離されて、苦笑いしながら、

 私の頭をポンポンと叩く。


「お前、体はもう平気か」


「うん、すっかり」


「そうか。良かった」


「ジル、あの、ありがとう。お姉さんと、術を解いてくれたって聞いて」


「あぁ……それは」

 ジルは顔をしかめて、


「ほとんど、姉貴と、ラウルの力だ」


「え? そうなの? ラウル?」


 そうなの?


「あいつは、強かった」


 そうなんだ。

 頑張ったんだ、ラウル。


「俺は、初めてアイツに負けた」

 悔しそうに顔をしかめて


「でも、お前は戻ってきた」


 私だった。ルシアではなく。


「俺は、それが……

 いや、お前に言う事じゃねぇな。お前は景品じゃねぇ」


「まったくもって、その通りですよ」


 そうか、ラウルは

 ルシアを助けようと。


──多分、怖いんだろ。


 と、お兄様は言った。


──『どっちが』起きたのか。


 ラウルは、

 私が起きたと知ったら、

 どんな顔をするだろうか。


 ルシアの時の記憶はある。

 全部覚えてる。


 ハロウィンの日、

 ラウルがルシアに何をしたか、何を口にしたか。


──行かないで

──一緒にいて欲しい

──僕だけのモノになって


 全部、覚えてる。


「ラウルなら、今、洗濯してる」


「え? 休んでないの?」


「俺も休んだ方が良いとは言った」


 ハァとジルが息を吐く。


「姉貴に無理矢理、力を引き出されたから、疲れてるはずなんだ。会ってやれ」


 そうだ、会うのが怖いとか言ってらんない。


「ありがとう、ジル」


「おう」


「あ、そうだ、ジル」


「なんだ?」


「胸……サイズは変わって無いんだけど、縮んで見える?」


「は?」



◇◇◇◇


 洗濯場についた時、

 ラウルは丁度、

 メイド服を畳んでいた。


「あの……ラウル」


「あ、」


 振り返ったラウルは

 私を見て、一瞬戸惑って、


「あの……どっち?」

 と聞いた。


「あ……アスナ。です」

 答えるのが辛い。


 ラウルは少しだけ止まって、

 その表情を一切変えずに


「そう。良かった!」

 と、笑った。


「アスナが戻って良かった。

 心配してたんだ」

 にっこりと、いつもの笑顔で


「ラウル、あの」


「体は、大丈夫?」


「うん、体は平気」


「よかった」

 ラウルが笑っている。

 少し疲れた顔で。


「あ、そうだ。ラウル、

 いっぱい力使ったんでしょ?」


「え? いや、僕は」


「それ、私の洗濯物だよね

 私がやるから、休んで」


「もう終わるよ。

 早く洗濯しないと、

 シワになるんだ」


 畳んだメイド服を

 袋に入れて、


「はい、終わったよ」

 と、渡してくれる。

 その優しさが、体にしみる。


「ラウル……ありがとう」


「え? いつもしてるじゃない」


「じゃなくて、助けてくれて、

 ありがとう」


 この言葉を言うのが

 私でごめん。


「アスナが無事で良かったよ」


 笑っている。

 きっと辛いのに、ルシアじゃなくて。


 ラウルは、こんなに嘘が上手かったのか。

 知らなかった。


「そうだ、寝てた間の、授業のノート、全部取ってあるからね」


「え?」


「ルシアだった時のも。

 ルシア、全部わかるからって、

 全然ノート取らないの」


「あ……」


「明日渡すから、

 もうすぐ進級テストあるよ

 またテスト勉強しようね」


 その笑顔に、

 明確な愛情と、


 裏にある悲しみを

 確かに感じとる。


 感じるのに、見えない。


 そうだ、ラウルは

 そうやって生きてきた。


 両親を目の前で食われ、

 拾われ、従者として。


 辛くないはずがない、

 でも笑える強さを。

 受け入れる強さを。


 その小さな心に。


 心、強くならざるを得なかった。


 体が、勝手に動いた。


 両手を伸ばして、

 ラウルを抱きしめて、

 その肩に顔を埋める。


「え? アスナ」


「ごめん……」

 声が震える。


「どうしたの?」


「居るから。ルシア、

 ちゃんと居るから。

 またきっと、会える」


 私でごめん。


「……うん」


 小さく、ラウルが呟いて、

 抱きしめ返される。


 そこにやっと、

 本音を感じる。


「僕は大丈夫だから、ね」


 優しく肩を叩かれて、

 ようやく体を離す。


 あぁ、笑ってる。

 なんで、みんな、辛いのに笑えるのか。


「ラウル、今日は、もう休んで」


「わかった、じゃあ、もう行くね」


 軽く手を振って、

 ラウルは洗濯場を出ていく、


 その背中を見ていると、

 自然と涙がでてきて、

 なんでかわからない。


 なんでこんなに悲しい?


 失恋でもないのに、

 何も失ってないのに。


 あぁ、なんだか無性に


「ココに……会いたい」


 涙の浮かぶ顔で、呟いた。


  ◇◇◇◇


 ココの部屋は

 私が吹き飛ばしたから、


 修理が終わるまで、

 違う部屋を与えられていた。


「へ?」


 訪ねてきた私を見て、

 その涙の痕を見て、


 ココは驚いた顔をした。


「君、体は、もう平気?」


「うん……大丈夫」


「そう、じゃあ……」


 と、扉を大きく開けて。

「しっぽ、触る?」


 え?


 顔を上げると、

 ニコニコ笑っていて、

 その自分のしっぽを、


 フワフワの大きなしっぽを持ちながら。


 私は全力で、欲望に負ける。


「さ、さわりゅ~」


「椅子が良い?

 ベッドが良い?」


「……ベッドで、お願いします」


「どうぞ、こちらへ」


 促されて、中に入る。


 真新しいベッドに、

 ココが座って、


「おいで」


 そのしっぽを存分に投げ出して。


「おじゃま、いたします」


 フワフワのしっぽに、

 ココの隣に、体を預けた。


 あー、フワフワする。

 久しぶり、すごく久しぶり。

 モフモフ! めっちゃモフモフ、モフモフ……モフモ……


 あぁ、気持ちよくて、

 幸せで、そして……


「なんで、泣いてるの?」

 ココが私の頭を撫でながら。


 しっぽに顔を埋めながら、

 ポロポロ涙が流れる。


「ココは……聞かないの?」


「何を?」


「『どっち?』って」


 アスナなの? ルシアなの?


 あぁ、とココが納得したように呟く。


「だって、どっちでも、

 君は、君だからさ」


 どっちでも……私。


「僕は、どっちも大事

 どっちも、愛おしい。

 だから区別する必要がない」


 そう言って、優しく

 頭を撫でてくれる。


 あぁ……


 涙が溢れてくる。


「だ、大丈夫?」


 怖かったんだ。

 自分の居場所が、減ってくみたいで。


 私に向けられた視線が

 半分になったみたいで。


「ごめん……ごめん、ココ」


「なんで謝るの?」


「私は、いつも……

 都合の良い時ばっかり、

 こうやって……」


 なにも与えられないのに。

 助けられてないのに。


 貰ってばっかりで。


「僕は、ジルみたいに、

 君を独占したい気は無いよ」


「え?」


 ココを見上げると、

 ふふ、と優しく笑う。


「キツネってね、

 子だくさんなの」


 ん? なんの話?


「だからね、母親の愛情は

 十分の一とかで、でもそれで満足なの」


 そうなんだ。

 お母さんも大変そう。


「でも、僕は……

 それすらも貰えなくて」


「え?」


「だから、僕は、

 君がこうやって辛い時に、

 僕を選んでくれただけで」


「ココ……」


「堪らなく、嬉しいんだよ」


 そう言って、

 私の頬を撫でる。


「う……」


「いや、あの、泣かないで」


「……耳も、触って良いでしょうか」


「どうぞ。存分に」


 ココの首に抱きついて、

 耳に手を伸ばす。

 温かくて、やわらかい。


 あぁ、モフモフだ。

 すごい久しぶり、

 気持ちイイ。


 存分にモフモフしていると、

「あぁ、そうだ」

 と、ココが声をあげた。


 ん? なにぃ?


「踊る?」


 え?


 それに反応して、

 ドクンと心臓が鳴る。


 ココが笑っている。

 にっこり。


「お──」

 私の言葉は何かにかき消された。

『踊りたい! お前と』


 その声は私の口から出た、

 なのに、脳内で変な響き方をする。


「え? 今……」


 ココがキョトンとして私を見る。


 今の声は? もしかして、


 思考が混じっていく。

 心に違う感情がなだれこむ。


 あぁ、これはルシアの。

 ルシアの意識、感情。


 私はベッドから飛び降りて、


『踊ろう! 早く』


 ココに手を差し伸べる。


 ココが笑って、立ち上がる。

 いくつか棚をいじって、

 音楽をかけてくれる。


「さぁ、お手をどうぞ、お嬢さん」


 その手を取りながら、

『名前を、呼んでくれ』

 と、笑いかける。


「え?」


『名前を、呼ぶんだ!

 呼ばれたい! お前に!』


 ココはその難題に、

 少し考えて、答えた。


「可愛いよ、ルシア」


『正解だ』

 と、私は笑う。


 その声はルシアの物。

 私を動かしているのも

 ルシア。


 あぁ、やっぱり居たんだルシア。


 私の中に、

 そこに混じるように。


 というか、ラウルの時も

 出てきてあげてよ。


『いつでも、出てこれる訳じゃ、無いからな』


 それが声に出たもんで。


「え? なに?」


 と、ココが反応した。


『いや、こっちの話だ』

 と、ルシアが誤魔化す。


『さぁ、踊ろう』


「はいはい」


 ココが笑って、

 私の腰に手を当てた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「もしかして、照れてるの?」


「いや、あなた今、どんな顔か、自覚無いんですか?」


「どんな顔で、どう思ったの?」


「……急に強気にならないでください」


「キスしていいですか」


「ダ、ダメです。絶対やめてください」


 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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[良い点] ココしっぽ回キター(^^)v!!
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