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第四十八話、溺愛お兄様

「お兄様!」


 ノックもせずに扉を開けたもんだから。


「おぉ! アスナ!

 目が覚めたか!」


「お……お兄様?

 今、寝てるシルビアさんに、

 キスしようとしてました?」


 ベッドに寝てるの

 シルビアさんですよね、

 初めて会いますが。


「まさか。

 それより、体調は大丈夫か?」


「あ、はい。すっかり。お兄様が、助けて下さったようで」


「俺は最後だけだ。

 ほとんど、シルビアと

 彼らの手柄だ」


 と、ベッドを見下ろす。


「大体は先生から聞きましたが、

 私、なにが起こったかいまいち知らなくて」


 ルシアのだった時の

 記憶はある。


 だが、倒れてからは

 覚えてない。


「ん? ラウルにも、

 シルビアの弟にも

 会ってない?」


「はい、誰もいなくて」


 それは、とアークが呟く、


「多分、怖いんだろ」


「怖い? なにがです?」


「『どっちが』起きたのか

 知るのが、だ」


 どっちが。

 ルシアか、私か。


「希望と違った場合、

 どんな顔して良いか

 分かんないんだ」


 ケラケラと、楽しそうに。

 お兄様、機嫌が良い?


「ま、ラウルと弟君には

 お礼言っておくと良い」


「はい、それはもう

 あと、シルビアさんと、

 お兄様にも」


「あぁ、俺はいい。

 今日は、お前の為と言うより」


 言うより?


「シルビアが、

 会いたがってるかなって」


 そう言いながら、

 シルビアの頭を撫でる。


「え?」


「依頼も無いのに、

 治療に乗りこむから、

 俺にまで報告がきた」


「まさか、シルビアさん

 お兄様に会う口実を

 作りたくて……」


「そう考えるのは

 自惚れてると、思うか?」


 お、お兄様が、機嫌が良い理由が分かったわ。


「お、お兄様とシルビアさんて、どんな関係なんですか?」

 すっごい気になるんですけど。


「元々、シルビアは、同じパーティーのヒーラーだったんだ」


「ヒーラー、ですか」


「まぁ、仕事仲間だな」


「お兄様って、シルビアさんに、テイムしたんですか?」


「まさか! そんな事はしない。

 俺は、な」


「俺は?」


「テイムしてきたのは、あっち」

 と、寝てるシルビアを指す。


「え? シルビアさん?」


「可愛いだろー。

 こんなツンツンしてるのに、

 健気にテイムしてくるんだ。

 俺が、かかる訳ないのに」


「そ、それで、お兄様はどうなさったので?」


「かかったふりして、

 溺愛してやった」


「おう……」


 な、なにそれ。

 そんな話、書けそう。


『ツンデレヒーラーがテイムしてきたから、かかったふりして溺愛してやった』


 うわー……


「最初はなー、良かったんだ」


「どう良かったか、具体的に気になりますが」


「でも、テイムをかけてる事に引け目を感じたらしくて」


「まぁ、なるほど」


「それで、別れたり、くっついたり何度かしてたんだけど」


 だいぶ修羅場ってるなぁ。


「ある日、突然会えなくなって」


「え?」


「気づいたら除術師になってた」


「そ、それって……」


「除術師になって、俺のテイムを解こうと考えたんだな」


 うわー……うわー……


「再会した時、正直にさ

『テイムにはかかってない

 お前を愛していただけだよ』

 って、言ったら」


「言ったら?」


「ブチギレられて、死にかけた」


「そ、それは私でもキレます!」


「俺は心から愛してただけなのになぁ」


「お兄様のは、なんか!

 なんか、ネバっこいんです!」


「で、今まで会ってくれなくて、

 今日にいたる、と」


 壮絶な恋愛模様だった。

 素直にテイムかけてた方が

 まだマシだ。


「まさか、お前を治しに

 学園に乗り込むとは

 思わなかったがな」


「あの……シルビアさんの

 右手って……」


 白いギブスが巻いてある。

 それって。


「あぁ、折れてる」


「わ、私を治療するために?」


「あー、まぁそうだが。

 そんな顔をするな

 彼女、自分で治せる」


「へ?」


「ヒーラーだからな。

 俺だって、治せるし、

 そこは気にするな」


「そ、そうなの?」

 回復魔法みたいなの、

 この世界、あるんだ。


「誰でもできる訳じゃないし

 瞬間で治る訳でもないぞ

 痛いのは痛いし、この腕も

 治すには1時間くらいかかる」


「そう……なんですね。

 やはり、お礼を」


「まぁ、俺が伝えとくよ」


「ん? お兄様、私を

 早く帰そうとしてません?」


「まさか、でも、お前も、

 やる事あるんじゃないのか」


「そうですね。

 三日寝てましたし」


「俺も、事務手続きとか大変で。

 お前が何度も部屋、壊すから」


 う……

 そうだ。ココの部屋、

 壊したんだった。


「俺は良いから、もう戻れ」


「わかりました、お兄様。

 ありがとうございました」


 頭を下げる。

 追い出される前に帰ろう。


 私は医務室の扉を開けて

 外に出た。




「さて……」

 アークは扉が閉まったのを見て


「それで、いつまで、寝たフリしてる気だ?」

 と、ベッドのシルビアを見下ろした。


「俺は別に良いが、

 抵抗しないんだから、

 何されても文句は無いな」


 シルビアの反応はない。


「そうか、じゃあ、遠慮なく」


 シルビアの目が開いて、

 すぐそこのアークの頭を

 押さえる。


「な、な、なにしてんのよ」


「ほら、やっぱり起きてた」


「自分の妹に、なに恥ずかしい話してんの?」


「別に恥ずかしくはない。

 お前が可愛いって話で」


「あんたに会いたくて治療しに来たんじゃない!」


「あぁ、そうだな。妹を助けてくれて、ありがとうな」


「……痛っ」


「ほら、暴れるから。

 腕、折れてるんだぞ」


「誰のせいで!」


「治してやる、ほら」


 右手のギブスを

 アークが撫でる。


「ばっ、自分で出来るから!」


「何言ってるんだ。

 力、使い切って

 立てもしない奴が」


「自分で……やるから」


「それに、他人にやられた方が、『気持ち良い』だろう?」


 右手を掴んだアークの手が、

 光を帯びる。

 シルビアが顔をしかめた。


「うっ……」


「されると、どんな気になるか、

 俺は知ってる。お前が、いつもしてくれたからな」


 回復魔法は、本人の治癒力を強制的に高めるだけで、治すのは本人の力だ。


 シルビアの呼吸が荒い。

 修復には酸素が必要だからだ。


 動悸が止まらない。

 回復には血流が必要だからだ。


 体内をめぐる酸素と代謝物は、

 脳内まで満たして、強制的に

 高揚感と快感を与えてくる。


「別に、気持ち良くなんか無い」

 と、向こうを向いた顔を


「こっち向けって」

 アークが掴んで、自分に向ける。


「や、」


「こんな艶っぽい顔してんのに

 なに強がってるんだ?」


「う、るさい……」


 骨がパキパキと修復していく。

 人体を修復するのは重労働だ。


 呼吸が荒いのも

 心臓が激しいのも

 顔が赤いのも


 全部、治癒魔法のせいだ。


「んー……」


 痛みとは違う感覚に、

 シルビアは顔をしかめる。


「無理すんな、素直な顔をしろ。

 そして、俺に見せろ」


「誰が……」


「今、お前の顔、

 ものすごく色っぽい」


「黙れ……バカ」


「そういや、うちのラウルが

 テイムかかってたんだが」


「あ、あぁ……そうね。

 だいぶ、無理させた。

 彼、大丈夫だった?」


「あぁ、平気そうだった。

 あいつは強い」


「ほんと、強かった。

 あとでお礼しないと」


「それで、テイムかける時、

 キスしたのか?」


「は?」


「したのか?」


「し……しなくても、

 テイムは出来る」


「出来るな。でもお前は、

 きっとしたんだろ」


「それは……」


「ラウルにはキスした上にお礼までするのに、俺にはないのか?」


「ど、どこと張り合ってるのよ」


「むしろ、俺にこそ、お礼にキスするべきだと思うが?」


「き、キスしたのはお礼じゃない、緊急事態」


「そうやって、無理矢理テイムするのは、やめろと何度言ったら」


「そ、そんな頻繁に、無いわよ」


「じゃあ、お前のこういう顔を、他の男には見せて無いんだな?」


「……は?」


「俺と会わない間、どうしてたのかなーと」


「あ……あんたには関係ない」


「ほぅ?」


「他の、男と、何か……あったとして、もうあんたには関係ない」


「へぇ、そんな事、言うんだな」


「だったら、なに?」


「分かった。答えは体に聞く」


「ば! あんた何言って!」


「お前は口より体の方が正直だ」


「バカ! ふざけんな!」


 アークが顔を近づける。


 治療中は感覚も敏感になる。

 この男、分かってやってる。


 ギュと瞑った目が、

 数秒して、諦めて開かれる。


 ハァとシルビアは息を吐き、

 アークの金髪を揺らした。


「待って……ここじゃ、嫌」


 それが、

 完全陥落の言葉だと、

 アークは知っている。


「そうか。じゃ、今日は

 お前の家、行って良いか?」


「うちはダメ。

 今、上の弟達が帰ってきてる」


「あぁ、双子の」


「そう」


「なら今日はお前を、

 俺のうちに連れて帰ろう」


 嬉しそうに、アークは笑う。


「いいな?」


 シルビアは息を吐き出して、

 赤い顔を横に向けた。


「好きに……して」


 その仕草があまりに

 官能的で、


「じゃ、遠慮なく連れて帰ろう」


 すぐさま抱きかかえた。


「は? い、今?」


「腕の修復は帰ってから

 ゆっくり、してやる」


「いや、まだ仕事あるから!

 患者の治療確認とか、

 カルテも、治療結果も」


「アスナはさっき元気にしてた、大丈夫だ」


「事務手続きとか、始末書も」


「そんなのは俺が手配しとく」


「ダメに決まってるでしょ」


「許可なく学園に侵入したのも、勝手に治療したのも、伝達ミスで処理しとく」


「なっ……」


「文句は無いな」


「ほんと、なに言ってんの?

 降ろして!」


「……お前と会えない間、俺がどれだけお前を想ってたと思う?」


「だ……だからって」


「やっと、手に戻ってきたのに、離すと思うか?」


「あ、あんたね……」


「一晩じゃ足らないからな」


「は?」


「お前、どれだけ俺をじらした?

 一晩で満足する訳ないだろう」


「ば、バカじゃないの?!」


「どのくらいで満たされるか、

 お前次第だ」


「バカ! 降ろして!」


「あー。うるさい、お口だ」


「いっ……」


 騒がしかった室内が

 急に静かになる。


「──やっと、素直になったな」


「も……ほんっと」


「俺にお礼は?」


「……助けてくれて、ありがと。

 来てくれて……嬉しかった」


「あぁ。続きはうちで聞く」


「もう……ほんと、バカ」


 抱きしめてくる腕の中で、

 シルビアはその赤い顔を


 アークの胸にすり寄せた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予……』


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………グハッΣ(´□`;)」


本編が、アレすぎて

次回予告は仕事を放棄しました。

次回もお楽しみに!


 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄様やべーよ(;´Д`) 焦らされてんのは読者すよ! 主人公差し置いてなにやってるんすか!? [気になる点] テイムされたフリしたお兄様の過去話もちゃんと出てくるんですよね( ‘ 0 ‘…
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