第四十七話、龍と剣と一閃の光
女はビーストテイナーになれない。
「なんで? あたし、
テイムもできるし
誰より魔獣好きだよ」
でも、なれないんだ。
お前には、別の道があるからね。
「あたしの方が強いのに
弟達ばっかり……」
小さい頃は悲しくて、
隠れて泣いていた。
でも分かったんだ。
──助かったよ、シルビア!
ビーストテイナーとか
ヒーラーとか、
除術師とか
肩書なんて、関係ない。
──お前のおかげだ!
目の前の命を救う。
その事に変わりはない。
──お前はすごい!
──辛い時は、俺を呼べ
──いつだって駆けつける。
人を救う。
その1点に、すべてをかける!
負けない!
いつだって! 諦めない。
──お前は強い。俺よりもだ。
絶対に救う!
絶対に……
▼▼▼▼
風の結界の中に
黒い龍がうねる。
無数のコウモリが集まって、
どんどん大きくなる。
「テイムは操るだけじゃない」
シルビアが龍に睨む。
白い羽織が風で踊る。
「主人の力を受けて、
使役する者の力を、
何倍にも引き出す」
ラウルがふらりと立っていた。
風を巻き込んで、
青い髪が浮き上がる。
「ラウル!」
「はい……」
「あたしのすべてをやろう。
存分に! 全力をだせ!」
「はい!」
風が膨れ上がって、
ラウルの伸びた羽根が
倍増し光を放つ。
「すげぇ……」
渦巻く風の量に
ジルが声を漏らす。
「あ、姉貴! これ
俺にも出来る?」
「は?」
「だから、俺も!」
「いや、あんたじゃ、
あたしのテイムかかんないし
あんたにキスするのは、
さすがに嫌」
「はぁ?」
「かかったら、かかったで
気まずい。あんた、
お姉ちゃんをどんな目で」
「わかったよ! もう良いよ!」
「ムダ口叩いてないで、
加勢しなさい!」
巨大な龍が咆哮を放つ。
ギシギシと肌が痛む。
閉じた扇が持ち上がる。
それに合わせて、
ラウルの身体が浮き上がた。
「全力を! 尽くせ!」
「ルシアを! 救う!」
風を纏ってラウルが飛び出す。
龍が霧散して、すぐにまた現れる。
ラウルが飛びついて、
また霧散する。
バタバタと、
こぼれたコウモリが
弾かれていく。
「早ぇ……目で追えねぇ」
「目で見ようとすんな
風で感じなさい。
あんたならできる」
「風で……」
「旋回!」
シルビアの扇子に合わせ、
ラウルが飛ぶ。
白い羽が羽ばたく。
風が吹き荒れて、
羽織をバタバタ揺らした。
甲高い悲鳴。
1つ1つ全部。
ルシアの悲鳴!
「許さない!」
「集約!」
振りあがった扇子。
上空でラウルが、
両手を振り上げる。
その手に、
大量の風が集まる。
龍が一つに集まって、
グリンと顔を向けた。
「ジル! 加勢しろ!」
「承知!」
「全部! 叩きこめ!」
膨れ上がった風は
塊となって、
黒き龍を巻き込む。
聞き取れない絶叫が響いた。
龍が身体をねじって、
一瞬、停止したあと、
端から崩壊していった。
辺りにあった黒い粒が
風にあてられて、
全部消えていく。
「あー……良かった」
シルビアが呟いて、
持っていた扇子を落とす。
合わせるように
ラウルの身体が降りてきて、
羽根が元も大きさに戻る。
グラとラウルの身体が揺れ、
両手をついた。
「おい! ラウル」
「だいぶ無理させたからね。
でも、おかげで──」
甲高い悲鳴がした。
「え?」
シルビアが振り返る。
悲鳴がどんどん増えていく。
アスナの身体から、
黒い粒がしみだして。
「う、ウソでしょ……」
それが大きなコウモリの姿になっていく。
「まだ供給されて……
こんなの、人が、
ため込める量じゃ」
「あ、姉貴。ラウルはもう動けねぇぞ」
あぁ、分かってる。
もう無理だ、これは……
「ダメ……諦めない」
「は?」
バタバタ飛び回るコウモリが、
ふわっと動きを止める。
アスナの真上で。
宿主に帰ろうと。
「ダメ!」
シルビアが駆け寄る。
こんなの戻したら!
この子、苦しむ!
「姉貴! やめろ!」
アスナの前に飛び出す。
コウモリの身体が
シルビアを貫いた。
「あ……」
黒く鋭いコウモリの端が
シルビアの背中に刺さる。
なだれ込んでくる苦痛!
悲しみ、寂しさ、苦しさ!
「あ、あ、あ、あ、あ」
全身が切り裂かれる。
脳内が切り刻まれて、
心が焼かれる。
「姉貴!」
ダメ、やめて、やめて
嫌、嫌、嫌、い……
グルンと視界が回った。
仰いだ空、
結界の向こうに、
1つ、光を見る。
「あ……」
あぁ、あれは、
待ち焦がれた──
風を切り裂く音がする。
「へ?」
思わず見上げたジルは、
真っ直ぐ落ちてくる閃光を見た。
ズガンッと恐ろしい音がして、
黒い敵が真っ二つに裂かれた。
悲鳴がこだまして、
金色の閃光が辺りに舞った。
ジルは、雷が落ちたと思った。
空から突入してきたそれは、
それほど速く、途方もなく。
そこに、
着地した人影が
なければ。
剣が、
振り抜かれるのを
見なければ。
空から落ちてきた人が
剣で切り裂いたのだと
信じられなかった。
後ろに倒れこんだジルは、
巻き上がる砂煙の中で、
金髪で軍服姿の、男を見る。
「あ、アーク……先輩」
「やぁ、ジルディット君」
アークに後ろに、
バサバサと音を立てて、
キマイラが降りてくる。
「い、今、上空から……」
上空から、降りてきて、
一発で?
あ、ありえない。
「アスナを助けてくれて、ありがとうな」
アークは、傷一つない顔で。
スタスタと、ラウルに近づき
「おーい、ラウル。
しっかりしろー。
俺が分かるか?」
ペチペチと、頬をたたく。
「あ、あ、あ……アーク様!
なんでここに?」
「うん。上書き相殺できたね
テイムは解けた。
立てるな。歩けるな」
「アーク様、なんで?」
「お前は良くやった。
さすがだ! すごいぞ!」
「は……はい、嬉しいです」
ラウルの頭を撫でて、
さて、とアークは振り返る。
倒れてるシルビアに近寄って、抱き上げる。
「あ、あんた……なんで」
シルビアは苦しげな声で呟く。
「言っただろ?
いつだって駆けつけるって」
──辛い時は、俺を呼べ
──いつだって駆けつける。
「別に、呼んでない」
「またまた。待ってたくせに」
ギウと抱きしめられて、
シルビアは顔をしかめた。
「ジルディット君」
「は、はい、なんでしょうか」
「アスナはもう大丈夫だ。
じき、目を覚ます」
「あ、はい」
「悪いが、アスナを
部屋まで連れて帰ってくれ」
「はい、わかりました」
「俺はシルビアを医務室まで運ぶ。いいかい?」
「それはもう、どうぞどうぞ」
じゃあ、と、アークはシルビアを抱えたまま、
キマイラに乗って、飛び上がった。
雷のように早かった。
「アーク様、僕らも乗せてくれればいいのに」
「ラウル、それはヤボだ」
「え? なんで?」
ラウルのその疑問に答えずに、
「あー、あれは、どうやっても、敵わねぇわ」
と、ジルは呟いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「別に……気持ち良くなんか」
「こっち向けって。
こんな艶っぽい顔してんのに
なに、強がってる?」
「う、るさい……」
「無理すんな、素直な顔見せろって」
「誰が……」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




