第三十七話、君の名前とその代金
「カルア……」
カルアは気まずそうに、苦笑いして。
「いや、あの……ですね」
「もう、平気なの?」
「えぇ、まぁ」
「怪我してないの?」
「別に無傷だった訳じゃ、
結構ダメージはありました」
「なんで倒れたふりしたの?」
カルアは口を閉じて、
視線を逸らす。
私はツカツカと近づいて、
その顔を覗き込む。
「答えて」
「わ、私が、倒れたら、
あなたが、力を使うかと」
青い炎。
「そしたら、ご主人様の
復活が……進んで」
ピシっ、と頭のどこかで
音がなる。
そんな、事のために、
ふ、
拳を握りしめて、
「ふ、ざけんなぁー!」
目の前の顔に、振り抜く。
カルアがふっ飛んで、床に倒れる。
「な……あ、あなた今、全力で」
「はぁ?」
「はい、ごめんなさい」
「こっち向いて! 顔みて!」
「痛いです、服引くと……」
「はぁ?」
「はい、ごめんなさい」
「やって、良い事と、悪い事が……」
「はい……」
「あるでしょう!」
倒れたカルアの
胸ぐらつかんで、
ガクガク揺らす。
カルアは消えもせず、
避けもせず、
だた、気まずそうに。
私の声が震えて、
かすれていく。
「どれだけ……心配したと」
心配して、
悲しんで、
私だけ……バカみたいに
「心配して……」
こんなに、思ってるのに。
涙が流れて、
その胸、引き寄せて、
頭をつける。
なんで、私ばっかり。
「あの……すみませんでした」
「はぁ?」
カルアが顔を歪めて、
こっちを見る。
「あなたを、泣かせるつもりは……無くて」
「良く言う」
「ただ、その、テイムが解けて、私も少しは好かれてると分かったら、その……」
「その?」
「もっと、欲しくなって」
もっと? なにを?
「その、あなたに好かれている、確証みたいのが」
は?
「あなた、最初に覚醒した時、キツネを守ろうとして、力をだしたので、私でもでるかなーと、思ってですね」
こ、この男……
自分じゃ何も言わないくせに、
独占欲だけは強くて。
「その、そんなに心配されると……思ってなくて」
「バカ! 本っ当、」
人の気もしらないで、
好き勝手……
「すみませんでした」
「悪いと思ってる?」
「そりゃ、もう」
「じゃあ、抱きしめて」
「……へ?」
「抱き、しめて」
カルアが一度視線をそらして、
諦めたように、腕を伸ばす。
初めて私を抱きしめる。
あぁ、冷たい。
まったく暖かくもない。
頭が疲れて、
なにも考えたくない。
「あの……これいつまで?」
「今日は、こうやって寝る」
「は?」
「もう疲れた。シャワーあびて、着替えて寝る」
「え? あの」
「ベッドで、また抱きしめて。寝るから」
「いや、あの」
「なに? いやなの?」
「だって、あなた、それ、本当に寝るでしょう」
「当たり前でしょ。もう疲れた、眠い、何もしたくない」
「その体勢で、なにもせず、朝まで、って、私には拷問でしょう」
「でしょうね」
「でしょうねって、あなたこれ、仕返しなんですね」
「お仕置き、って、言って」
「は?」
「お仕置き。わかる? わかるよね。じゃあ、そこで座って待ってて、シャワー浴びてくるから」
「あの、」
「正座して! あと、戻ってきて、消えてたら、隅から隅まで、燃やしつくす!」
「わかりましたよ。早くシャワー浴びてきてください」
あぁもう。
ふてくされたように
呟くカルアを見てから、
お風呂場に行った。
◇◇◇◇
少し不安だったが、
カルアはちゃんと
同じ位置に座っていた。
律儀に、正座して。
「準備、終わりましたか?」
少し不満そうに、視線をそらして。
「うん、もう寝る」
実際、すごくねむい。
「そうですか、ではベットにどうぞ」
「ベッドまで、運んで」
「……は?」
「運んで。お姫様だっこで、優しく」
「いや、あと数歩、歩けば良いだけでしょ」
「はい?」
「わかりましたよ、仰せのとおりに!」
あぁもう!
カルアが手を伸ばして、
ネグリジェ着た私を抱きかかえる。
思いのほか優しく、
ベッドに降ろされる。
ベッドはカルアには小さくて、
私の顔が、胸の位置にくる。
その腕の中に包まれる。
「うん」
「満足ですか」
「まぁ、おおむね」
「キツネほど柔らかくなくて、すみませんね」
「そんな事いってないでしょ」
「布団、かけますが暑かったら言ってください」
「何言ってるの、低体温が」
「いやならやめますよ」
ギウと抱きしめれて、
何も言えなくなる。
頭が疲れて回らない、
もう今日は疲れた。
「ちょっと、耳元でおやすみ、って言って」
「嫌ですよ」
「じゃあ、可愛いね、でもいいよ」
「キツネじゃあるまいし」
「いいじゃん、ケチー」
「そういうのは、オプション料金がかかります」
「……ちなみに、いくら?」
「そうですね……」
カルアが少し考えて、
耳もとに口よせて、
「あなたが、自分からキスしてくれるとか」
「は? いやいや、それは無理」
「何言ってるんですか、あなた、さんざ、されたでしょ」
「違うから、されるのと、するのでは違うから、全然」
「知ってますよ。だから、価値がある」
う……
いつの間にか、
余裕を取り戻したその顔を、
まともに見れなくて、顔を伏せる。
カルアの胸に顔を押し付けて、押し黙る。
「おや、諦めるんですか? 私は別にいいですが」
さ、さすがに自分からは無理。
「でも、こんなチャンスないですよ」
まだ言いますか。
「そうだ、名前を呼びましょう」
え?
顔を上げると、
勝ち誇った顔がそこにあって、
「『あなた』の名前を呼んであげます」
私の、名前……
コクと喉が音を立てる。
心臓が求めるようになり始める。
「さぁ、あなたの本当の名前は?」
私の、名前は
心臓の音に促されて、
名前を口にする。
「く、倉田×××××、です」
音階が、この世界に、なじまない。
「ん?」
カルアが首をかしげる。
「あ、倉田が苗字だからね」
「いや……
それは分かります。
まぁ、いいです。では」
と、私の耳に口よせて、
「可愛いよ、×××××」
ゾクと背中が痺れて、
一瞬で顔が赤くなる。
は、破壊力がヤバい。
「ゆっくりおやすみ、×××××」
頭がざわついて、
思考が回らない。
呼吸が浅くて
酸素が薄い。
ヤっバイ、これ、
溺れる。
「はい。では、そちらの番です」
「……本当に、するの?」
「えぇ、ちゃんと支払ってもらいます」
「……せめて、目をつぶって」
「嫌です。あなたの恥ずかしがる顔みたいですから」
こいつ、ほんと、もう……
歯を食いしばって、
羞恥心に耐えながら、
上に這い上がる。
かなり無理な体勢で
首がつりそう
「腕、体重かけないでください」
「ちょっと、動かないで、目的地ずれる!」
余裕な顔が
ムカつく。
こっちはこんなに。
その口に、震える唇を近づけて。
触れた? 触れたよね。
うん、触れた。
口が触れるか触れないかで
離したもんだから、
「……今の、なんです?」
どうやら、怒ったみたいで。
「いや、だから、キス……」
言うと、顔をしかめて、
肩を掴まれて、
体勢が、グルッと回った。
「ひぃやぁ!」
腕を掴まれて、
上に乗られて。
「ちょ! え?」
「あれがキスだと、あなたが言うのなら」
その余裕に満ちた顔が、
真上にあって、
「本物が、どんなのか、教えてあげます」
「いや、ちょ! まっ」
「支払えないなら、取り立てられるのは、当然です」
「いっ……」
ドクンと心臓が鳴って、
思考が停止した。
唇の感触とか、
どこ撫でられてんのかとか、
もうわからなくて、
視界と聴覚が消えうせる。
そのまま数秒、
波の中でおぼれて、
やっと息が吸えた時には
身体から力が抜けていた。
「わかりましたか?」
だから、なんであんたはそう、
自分だけ余裕そうな。
だめだ、幸福感と疲労感で
すごく眠い。
「さぁ、また抱きしめてあげます」
なにも考えられなくて、
ふらふらと体を寄せる。
「ゆっくり、おやすみ下さい」
抱きしめられて、目をつぶる。
カルアが頭をなでながら、
「本当、可愛い人ですねぇ」
と、呟くのを、
夢の中で聞いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもお読みくださり、
ありがとうございます。
【5話連続キス回フィーバー】は
お楽しみいただけましたでしょうか。
この話はここで一区切り
(修学旅行編、終了)
に、なります。
次回から、新章が始まります。
皆さまのおかげて、ここまで
書き続ける事ができております。
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「ですよね!」
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いつもお読みくださり、ありがとうございます。
引き続き、お楽しみください。
では、次章予告ですっ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次章予告』
「セイレーンの混乱魔法?
またかかったのか?」
「大丈夫?
自分の名前、言える?」
「私は……ルシファルス」
「大混乱すぎんだろ」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




