第三十五話、昔の記憶と鬼畜の君
ココが目を覚ました時、
私はそのベッドに突っ伏して寝ていたから、
「あれ……アスナ?」
優しく触れられて、
やっと起きた。
「ココ。ココ……だよね?」
「大丈夫、僕だよ」
あぁ、良かった。
ココだ。
ジワと涙が溢れてくる。
本当に無事で良かった。
「アスナ、ずっと……いてくれたの?」
「ココが起きるまで、側に、居たかったんだけど」
寝てしまった。
起きてるつもりだったのに。
「今、いつ?」
「次の日の、もうすぐ夕方、かな」
「ここって、学園の医務室?」
「そう。昨日、泊まるはずの宿舎、私が結構壊しちゃって、消火も大変で、夜にみんなで学園に戻ってきたの」
本当は、朝にも、そこでやらなきゃならない課外授業があったのだけど。
「そうだ、先生、呼んでこないと!」
目を覚ましたら、呼ぶように、言われてたんだ。
「待って」
ココが私の手を取って止める。
「え? どうしたの?」
「いや、もう少し……
2人で、話したくて」
控えめに手を引かれて、
ドキリとした。
「え? あ、うん」
手を引かれるままに、
ココの近くによる。
結構、近くてドキドキする。
「ラウルは、大丈夫だった?」
「うん、ジルが、凍ってるの見つけて。怪我もない。今、私の家に呼ばれて、事情を説明しに行ってる」
私の家が、宿舎の修理費を支払うからだ。
いや、本当、迷惑をかけた。
「ニーナは?」
「うん、良く治ってる。先生がいま、なんか装置で、集中治癒してくれてる」
自然治癒より早く治る。
しばらく会えないけど。
ココが、良かった、と呟いて。
「アスナ、ごめん。昨日、僕は君に、酷い事を」
「いや、ココのせいじゃないよ。酷い事しようとしたのは氷狐だし」
「でも、されるかもしれなかった。僕は、何も……出来なくて」
悲しそうなココの顔に、
心がつらい。
何も悪くないのに、
私はココの手をギュと握りしめて、
「大丈夫、私は何もされてない。それより火傷治った?」
「うん、治ってる、みたいだね」
確かに、顔も腕も白い肌に戻ってる。
顔半分とか、ただれてたから、本当に良かった。
「良かった。ココ、死んじゃうんじゃないかと。私が焼いたから」
氷狐じゃなくなっても、
ココだと分かってても焼きたくて。
「ココが止めてくれなかったら、どうなってたか」
激痛だったはずなのに、
ココは抱き締めてくれて。
「ココ、なんであんな……」
「わかんないけど、君を見てたら、つらそうに見えたから」
絶対自分だって辛かったはずなのに。
「なんか、抱きしめなきゃ、て」
ココ、マジ天使。
「あの、泣かないで」
「マジ、てんしぃ~」
「てん? なに?
それより、やっぱり思考が混じってたんだよね」
「え? あぁ、うん。
なんか知らない記憶とか、考え方とかが」
ぐちゃぐちゃーって。
「……そっか」
と、なんか深刻な顔をする。
「え? なんかマズイ?」
「必ずしも悪い事じゃないけど、普通、思考は混じらない」
「そうなの?」
「たとえば、僕は『氷狐』に乗っ取られてる時、すべて見えてるし、聞こえてるけど、何も出来ない」
氷狐も、確かにそう言ってた。
「でも、アスナは意志を保ったまま、ルシファルスの思考とも混じっててた」
氷狐も、あり得ない。と呟いてた。
思考が混じる、か。
「じゃあ、もしかして、ルシファルスが復活しても、私がしっかり意識を保ってたら、世界は大丈夫?」
「えぇ?」
思いついて言ってみたけど、
おかしな事だったみたいで、
ココは困ったように笑って。
「君のその、前向きな所、すごく素敵だよ」
たぶん、それ褒めてないよね。
「ねぇ、アスナ、ルシファルスは、どんな考えだった?」
「なんか、すごい恨み? 悲しみ、辛さ。酷い事を、ずっと、みんなにされてきて、何もかも許せない、燃やし尽くす……みたいな」
あぁ。
ココが呟いて、顔を覆う。
なんだか悲しそうな顔をする。
「ココ、なにか知ってる?」
んー、と言いにくそうに。
「力、ってね。普通、なにかの為にあるの」
「ん?」
なんの話?
「風は魔獣を殺す為に。氷は人を殺す為に」
「うん」
「でも、青い炎は、
すべてを焼き尽くす。
だから、生まれてからずっと」
ずっと、永遠とも思える間、
「魔獣からも、魔族からも、
人からも、嫌われ、排除され、
封印され続けてきたんだ」
「へ?」
ずっと?
誰からも、愛されずに
「それは……きっと」
「そうだね、きっとすごく辛い」
だから
──私の苦しみ、痛み、
──全部、全部おもいしれ!
あんなに、すべてを憎んでいたんだ。
──昔、お前が私にした事、忘れてない
氷狐に叫んでいた。
だぶん、昔、氷狐にも、なにかされたんだ。
「僕は分かるよ、その辛さ」
ココも、そうやって生きてきたから。
「でも君が背負う必要はないよ」
悲しそうな顔をして、優しく言う。
「君は、誰かに愛されて生きなきゃ」
まるで、自分はそうでないみたいに。
なんだかすごく悲しくなって、
ぽろぽろ涙がこぼれる。
「ごめん、私、ココに何もできなくて」
「君は十分、僕を助けてるよ」
「私がもっと強かったら、
氷狐をココだと錯覚しなかったら、
テイムされなかったら」
そしたら、あんな事にはならなかったのに、
あんな……あんな……
ココが覗きこんできて、
泣いてる私の唇に
ココの唇が触れた。
……へ?
思考が一瞬で沸騰して、
真っ白になる。
ココの顔がちかくて、
触れる感触が暖かくて、
……え? ん?
なんで? なんで、
今、キスされてるの私。
数秒、たっぷりキスされて、
ゆっくり離れてく。
ココが私を見つめていて、
吐いた息が頬を撫でる。
「え? ん? あの……ココ」
自分の顔が赤くなってるのが分かる。
なのになぜあなたは、
そんな涼しそうな顔をして
「僕だと錯覚したから、テイムされたんでしょ?」
その通りです。
「だから、覚えておいて、本物の、僕のキス」
……いや、あの。
ふふっと、ココが笑って、
ゆっくり、私を抱きしめていく。
耳もとで呟く。
「可愛いよ、アスナ」
あぁ、もう全身が痺れて、
何も考えられない。
テイムよりたちが悪い。
「上書き、された?」
私の髪を一筋もって、
口をつけながら
ココが言う。
とても、いじわるく、
とても、優しい声で。
「され、ました」
前から思ってたんですが、
「ココは、ずるいと思います」
こんなの、どうやっても
あらがえない。
「キツネは、生まれつき鬼畜なんだよ」
ココがにっこり笑って、
私の頭をなでた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
「俺が忘れさせてやる」
「いや、あの、ま、ま、待って」
「待たない。じゅうぶん待っただろ。もう待たない」
マジ、パニック!
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




