第二十九話、星と幼馴染と君との絆
二回、ノックして起きなかったら、
諦めようと、思ってたのに。
「あ、アスナ」
一回のノックで、ドアは開いて、
「いつものでしょ?」
と、ラウルは笑ったのだ。
いつもの?
「ちょっと待って」
ラウルは一度戻って
「はい、夜はまだ冷えるから」
と、ネグリジェの上に
コートを着せてくれた。
「じゃあ、行こう。いつもの場所でいい?」
ラウルはニコニコ笑って、
なにも聞かず、
数分後には、
満点の星の下に居た。
頭の上、全部が星だった。
キラキラして、いろんな色があった。
「すごい……」
学園で、一番高い塔の上。
遮る物も、邪魔する光もなにも無くて、
月明りだけが降ってくる。
ラウルは私を抱きかかえて、
ここに連れてきてくれた。
「すごい、綺麗」
「うん、いつ見てもすごいよね」
隣でラウルがニコニコ笑う。
真夜中の起こしたのに、怒りもせず。
「ごめんね、ラウル寝てたのに」
「いつもの事だから」
「いつもの?」
「小さい頃から、
アスナがへこんだり、
落ち込んだ夜は、
僕を叩き起こして
『星を見に連れてって!』
って」
そうか……なるほど。
「僕は嬉しいよ、アスナが辛いときに、僕に会いに来てくれた事」
「……何があったか、聞かないの?」
「食堂で悩んでたのは知ってるし、アスナは話したかったら話すし」
なにより、とラウルはこっちを見て、
「アスナの顔みたら、『頑張った』んだな、ってのは分かるよ」
ジワと涙が溢れてきて、顔を覆う。
奥から感情が押し寄せてくる、
「私が、もっとちゃんとしてたらっ」
「アスナはいつも頑張ってるよ」
「私が最初からできていればっ」
「最初から完璧な人はいないよ」
「あんな酷い事しなくても良かったかも」
「でも、必要だって思ったんでしょ」
バサと羽根の音がする。
泣いてる私の両肩に、優しく手を乗せて。
「大丈夫、伝わるよ。アスナの愛情」
「そうかな……そうかなぁ」
優しくするだけが愛情じゃない。
理解していても、
ニーナの泣き顔が、
悲痛な叫びが、
こびりついて、離れない。
「アスナは昔から優しいから」
昔から……
「ねぇ、話したっけ」
ラウルが一段明るい声で、
「僕の両親ね。魔獣に食い殺されたの」
「……え? それって、森の中とか?」
「ううん、街中で。ビーストテイナーが使役してたドラゴンだったんだけど。飼い主を食い殺して、近くにいた僕の両親も食べた」
「いっ……」
「僕の前でバリバリって。僕も食べられそうになった時、アーク様がドラゴンの首はねたの」
「お兄様……ってその時」
「12歳くらいかな」
12歳でドラゴン一刀両断とか、どんだけ強いんだお兄様。
「僕はそのまま、アーク様に引き取られた。だから、僕はまだちょっと、魔獣が怖いんだ」
「そうだったの?」
グリフォンに引っ掻かれてたの、それか。
恐れを持って近づいたから。
「最初は見るのも怖かったんだ。でも、アーク様がゆっくり慣らしてくれて」
本当、お兄様万能。
「アーク様はね。すごいの、魔獣にすっごく厳しくて、首輪もちゃんとつけて、」
あぁ、お兄様っぽいわー。
「でもね。魔獣はみんな、幸せそうなの」
「そう、なの?」
そうだ、お兄様のキマイラも、幸せそうて、穏やかで、ツヤツヤしてて。
「僕、それみて、魔獣は別に怖くないんだって。飼う人しだいなんだって、思って。思い返したら、僕の両親食べたドラゴン、街中でも自由だったし、首輪も付けて無かったし」
それは確かに怖い。
「だから、アーク様みたいなビーストテイナーになりたいなって思ったけど、僕なんかが学校通える訳なくて、でもアスナが」
「え?」
「一緒に行こうって、一緒なら行くって言ってくれて。僕がビーストテイナーになりたいって、誰にも話した事無かったのに」
……アスナちゃん、めっちゃ良い子!
「ごめんね。アスナ、絶対行きたく無いって言ってたのに。僕のために」
「あ、いや、うん。もはや、その言葉は私が受けとるには勿体ないわ」
アスナちゃん、めっちゃ優しい。
高飛車お嬢様って言ってごめん。
本当にごめんなさい。
「だからね。僕は、そんな優しいアスナが、ニーナの為を思ってやったんなら、間違いは無いと思うよ」
「うん……」
綺麗事でなんとかなるなら、人は死なない。
ニーナは犬じゃない。
まして、子供でもない。
自由にして、飼い主も関係ない人も殺させて、処分されるのが、本人の為なはずはない。
可愛がるだけが愛情じゃない。
叩くのも、噛むのも、辛い。
でも、その覚悟が。
絶対に誰も傷付けさせない覚悟が、
ビーストテイナーであると言う事。
授業で習ったはずだったのに。
「でも、ラウルは辛くないの? その……お兄様に殴られて」
「アーク様はね。やめて下さい、て言ったら殴らないよ」
「え? そうなの?」
「僕が納得してない時も殴らないし、言い訳してる時も殴らないよ。アーク様が必要を感じて、僕がお願いしますって言った時だけ」
「そうなんだ」
「そして、その後、必ず、誉めてくれて、撫でてくれて。いいって言うのに、なにか買ってくれたり、どこか連れてってくれたりするの」
あぁ、この間も。
だから、ラウルに服を買い、花畑に連れて行き。
あれは、ラウルの為に。
「皆がそれが正しいとは思わないよ。嫌だって人も必要ない人も、いるだろうし。でも、僕は、アーク様に叱られたり、本気で殴ってくれたり、誉められたり、撫でられたりすると、たまらなく懐かしくて、嬉しくて……あれ、僕なんで泣いてるんだっけ」
肩に添えられたラウルの手を
ギウと握る。
必要ない人もいるだろう。
ニーナだって、お兄様が飼ったら、あんな事しなくても、言う事を聞いたかも。
でも、ニーナの飼い主は私で、私とニーナの間には、あれが必要だった。
もしかしたら、いつか違う方法が確立されて、噛む必要は無くなるかもしれない。
私が経験を積めば、もっと違うやり方が出来たかもしれない。
でも今、この世界、この時代、私とニーナには、あれが必要だったのだ。
「ラウル、ありがとう」
「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ」
風が、少し吹く。
白い羽根を立てて、
ラウルが囲んでくれる。
触れる訳でも、
抱きしめる訳でもないのに、
こんなに暖かい。
「僕ね、気が付いたんだ」
「なに?」
「アスナがね、こうやって、星を見に行きたい、ていうのね」
今日みたいに、夜中にたたきおこして。
「アスナが悲しい時もそうなんだけど。僕が泣いてる時も、来てくれてたんだって」
「へ?」
「僕がね、なにか失敗して、泣いてる時、大抵アスナが来て『私が、悲しいから、連れてって!』って、絶対に僕を一人で泣かせないの」
あ、アスナちゃん……
「本当は、星が見たいのは、僕の方なんだ」
ごめんアスナちゃん。
高慢ちきだと思っててごめん。
わがままなお嬢さまだと思っててごめん。
「アスナ、大丈夫?まだ悲しい?」
「いや、そうじゃなくて」
この二人の関係を誤解していた。
私なんかが入り込んでいいような絆じゃなくって、
幼馴染って、こんな強い絆で。
あぁ、今わかった。
アスナちゃんがラウルに冷たくなったのは、
自分が、もうすぐこの体からいなくなるからだ。
だからラウルに、もう自分の世話はいらないと、
突っぱねて……黙って、一人で……
「だ、だ、だ、大丈夫? ぼろぼろ涙でてるけど」
「ふぇ~……らうるぅ~……」
「えぇ! えっと……こ、これで良い?」
優しく抱きしめられて、羽根で包まれる。
ぎこちなくて、遠慮がちで、暖かい。
アスナちゃんはきっと、
ラウルの前で泣いたり
しなかった。
この優しさも、暖かさも、
本来、私が受け取るべきじゃなくて。
「大丈夫だよ。
僕はずっとアスナを見てるし、
最後まで味方だよ」
ごめん、私でごめん。
アスナちゃんじゃ、なくてごめん。
でも、ありがとう。
「ありがとう、ラウル」
「うん、いつでも言って」
明るい声で、にっこりと。
「朝になったら、ニーナの所に行こう。起こしてあげるから」
「うん」
◇◇◇◇
ニーナの小屋は四畳半くらいの広さで、
藁とオリーブの枝葉が敷き詰められていた。
男の子の姿でねてるニーナを
そっと触る。
涙の痕、歯形の痕。
痛々しくて、胸が痛い。
パチ、と目が開く。
ニーナが顔を上げて、こっちをみた。
「あすな!」
何か言うより、抱きついてくる。
昨日、あんなことしたのに。
「ニーナ、昨日はごめん」
「う?」
「ごめんね、痛かったよね、ビックリしたよね」
「……うん?」
「私、ちゃんとニーナを使役できるようになるから、頑張るから」
ガバとニーナが顔を上げる、
そして、そのあどけない顔で
ニカッと笑って、
「にぃーな、あすな、すき!」
そして、ぐりぐりと顔を擦り付けてくれる。
「私も、大好きだよ、ニーナ」
大丈夫。
きっと、大丈夫。
朝日が差し込む中、
二人の姿を、
ラウルが笑顔で眺めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
修学旅行!
ドキドキ、キュンキュン、クラクラ、メロメロの青春!
枕投げしたり、トランプしたり、恋バナしたり、好きな人言い合ったりして、
もー、やだー。
「分かってると思うけど、アスナ一人部屋だからね」
「……え!? なんで!?」
毎日更新!
今日も
お仕事お疲れ様!
モフモフー




