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第二十八話、夜中と歯形と血の苦み

 その日の夜中。

 カランコロンカラン、

 と鈴の音がした。


 えぇ。喫茶店のあれです。

 寝る前にドアにつけといた。


 私は急いで飛び起きる。


「……う?」


 電気を付けて、

 ドアを開けていた

 ニーナに向き合う。


 金髪の男の子の姿。

 他の誰かに擬態してなくて良かった。


「あすなー」


 ニーナが笑顔で抱きついてくる可愛い。


 だがダメだ。

 甘やかすだけじゃ、ダメなんだ。


「ニーナ。あなたの寝るとこ、ここじゃない。小屋に帰って」


 抱きつく小さな身体を引き剥がす。


「ねう。いっしょに、ねう」


「ダメ!一緒に寝れない!早く戻って!」


「ねう!」


「寝れないの! ニーナは人間じゃないの!」


 魔獣は部屋で寝てはいけない。そんな規則があるのは、魔獣が人間だと勘違いするのを防ぐ為だ。


 自分のいる場所を勘違いさせるのはひどく残酷な事。


「ダメ! 帰って!」


 なるだけ怖い声で、なるだけ怒って。


「うぅぅぅ」


 ニーナが不満を顔に出す。

 瞳が小さくぶれる。


 頭がグランと揺れた。

 来た! 昏睡魔法。


 ギリと歯を食い縛る。

 したはずの覚悟が揺れる。


 私は右手を振り上げて、

 ニーナの顔を叩いた。


 乾いた音がして、

 昏睡魔法が途切れる。

 頭をふって、意識を保つ。


「人に、魔法使っちゃダメ!」


「あー! あ、あぁ!」


 ニーナが叫びをあげて怒る。


「うぅぅぅぅぅぅぅ……」


 頭が揺れる。

 また魔法を使おうとして!


 歯を食いしばって、また手を振り上げる。


 お兄様は、

 全力で叩いていた!


 渾身の力で振り抜く。

 ニーナが横に倒れて、

 なんとか魔法が切れる。


 全力で叩くつもりだった。

 でも多分、半分も出せてない。

 私の全力でも弱いのに。


「あー! あぁぁぁぁ」


 ニーナが四つん這いで、顔をあげる。

 真っ赤に腫れていて、心が揺らぐ。


「魔法を、人に、私に、使っちゃダメ!」


「ううぅぅぅ」


 ニーナの唸る口にキバが見える。

 怒ってこっちを威嚇する。


 ごめん。ごめんね。

 必要なの。大事なの。


 これから一緒に過ごす為に。

 ずっと一緒にいる為に。

 生きる為に、殺さない為に。


 歯を食いしばる。

 ニーナの首輪に手を伸ばし、

 床に押し付けた。


「ギャう!」


 ニーナが叫んで、

 バタバタと暴れる。

 お腹や足を容赦なく蹴られる。


「お願い、わかって。人に魔法を使わないで。自分の場所で眠って」


 ジワと、首輪を持つ手が痺れる。


 これは、毒!


 頭が痺れて、怒りが沸いてくる。

 余裕の無い頭が沸騰していく。


 教えたのに、言ったのに。

 毒を使わないで。

 魔法を使わないで。


 言葉は、通じてる訳じゃない。

 ニーナは話すが、真似てるだけで、

 通じる訳じゃない。


 自然界で、上下関係を理解させるには。


 首輪と背中を掴んで、

 床に押し付けたまま、

 顔を近づける。


 肩に、噛みつく!


「ぎゃ! あ! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あぁー!」


 全力で歯を食い込ませる。


 叫びがあまりに悲痛で、

 心を引き裂く。

 血の味がする。

 毒が回ってクラクラして、

 でもやめる訳にはいかない。

 ここでやめたら、

 また元通りだ。


「あ、あー、あぁ、あー、あぁ……」


 声が小さくなって、

 抵抗する力が弱くなった。

 毒を出すのをやめたのか、

 呼吸がだいぶ楽になる。


「あぁ……あぁ……」


 口を離すと、肩に痛々しい歯形が残った。

 ニーナは泣いていた。

 理解したと言うより、諦めたように。


「人に、魔法を、毒を、使っちゃダメ」


「あう……」


「自分の小屋で、寝て」


「あう……」


「今から小屋までいって、眠るまで側にいてあげる。だから、ね」


「あう」


 ニーナが金色の光を放って、犬の姿に戻る。

 だっこしてして欲しいんだろう。


 ニーナをだっこして立ち上がる。毒の後遺症でクラクラする。


 肩の辺りに、歯形が見えて、心に突き刺さる、


「ごめんね。痛かったよね。苦しかったよね」


 涙が流れて苦しい。


「大好きだからね。ずっと一緒だからね」


 ギュとニーナを抱き締めて、

 暗い廊下に出た。


 ◇◇◇◇


 ニーナを小屋で寝かして、

 部屋に戻った時にはもう真夜中で。


 ドアを閉めたとたん限界がきて、その場に座り込む。


 私が最初からキツく言えていたら。

 何度か一緒に寝かしたりしなかったら。


 こんな事しなくて良かったかもしれないのに。


 涙が溢れて、息がしにくい。

 勝手に口から声がもれる。


 ごめんね。痛かったよね。

 苦しかったよね。


 叩かなくて良いなら、

 叩かない方が良いに決まってる。


 でも現実は、そんな上手くいかない。


 噛みついて上下関係を教える。

 授業で聞いた時は、もっと平和な、カプリと噛んだら理解してくれると思ってた。


 あんな、無理矢理、押さえ付けて強く噛んで、壮絶な事なんだと、やってみないとわからなかった。


「ふぇっ……うぇっ……っく」


 もっと方法があったのかもしれない。

 私の方法が間違ってたかもしれない。


 やると決め、覚悟もしたのに、涙が止まらない。


 傷付けた事実が重くて辛い。

 苦しい。


 ボンと、どこかで音がした。


「あなたを、慰めるのが、私じゃ無理な事くらい、分かりますよ」


 カルアが立って見下ろしていた。


「でも、今、真夜中だし」


「別にあなたなら、真夜中でも慰めてくれる男くらいいるでしょ」


「でも」


「さっさと行ってきて下さい。今日は許してあげます」


「偉そうに」


「あなたを一人で泣かせるより、夜中に叩き起こされる方がマシだと思いますけどね」


 そう言って、手をさしのべる。

 その手を掴んで、立ち上がる。


「私は、」

 と、カルアは続ける。

「全部見てましたが、あなたは、よくやった、と思いますよ」


 とん、と心が少し軽くなる。


「ありがと、カルア」


「いえ。では、いってらっしゃいませ、ご主人様」


 扉を閉められて、

 閉め出された。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「僕の両親ね。魔獣に食い殺されたの」


「あぁ、お兄様っぽいわー」


「えっと……こ、これで良い?」


「私も、大好きだよ」



 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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