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第十八話、従者と幼馴染とお兄様

 バジリスク事件から、一週間くらい経って。


「キ、マイラー。キ、マイラー。

 今日はキマイラのお世話~」


「アスナ、ご機嫌だねぇ」


 ココが笑って言う。


「キマイラ好き! たてがみモフモフ!

 まだ触らせてくれないけど」


「こないだ吹っ飛ばされてたもんねぇ」


 キマイラは翼の生えたライオン

 見たいな魔獣で、

 でもライオンよりだいぶでかい。


「前は、ライターの調子が悪かっただけ」


 キマイラの爪は火で燃やして削る。

 なかなか火が付かなくて、

 蛇のしっぽで、はたき飛ばされたのだ。


「今日は、火打ち石を新調したから、

 きっと──」


「アスナー! 大変! 大変ー!」


 遠くからラウルが叫んで走ってくる。


「どうしたの?」


「アーク・クラウジット様が、

 いらっしゃってます!」


「アーク……クラウジット、様」


 クラウジットは、

 アスナちゃんの苗字だ。て、事は。


「まさか! お父様?」


 ラウルが肩で息をしながら、

「違うよアスナ」

 と、苦しそうに言う。


「アーク様は、アスナの兄上様で」


「お兄……様?」


「すぐに、謁見を!

 一緒にきて! アスナ!」


「え? だってキマイラは?」


「代わりに僕がやっとくよー」

 と、ココがニコニコしながら言う。


「モフモフがぁ~」


「ほらいくよ、つかまって」


「え? ちょ!」


 い、いきなりお姫様抱っこ

 しないでください! し、心臓に悪い!


 ラウルが羽根を広げて飛び上がる。


 ココが下から手を振っていた。


  ◇◇◇◇


 謁見の間の扉は、

 きらびやかで、ものものしい。


「アーク様が、中でお待ちです」

 燕尾服の従者が頭を下げ、扉をあける。


「な、な、なんか私が思ってるより

 偉い人? お兄様って」

 隣に立つラウルにこっそり聞く。


「アーク様は、学園の卒業生で、

 今は学園の経営資金の半分を

 出資してて、委員会の重役でもあるの」


「VIP待遇な訳だ」


 ゆっくり扉があいた。

 ラウルが中に入ったので、

 同じように入って頭を下げた。


「お待たせいたしました。アーク様」

 ラウルの声から緊張が伝わってくる。


「お兄様、お久しぶりです」

 頭を下げたまま、なるだけ

 アスナちゃんぽくなるように話す。


「気にしないで、顔をあげて」


 落ち着いた声で言われて顔をあげると、

 ボタンのいっぱいついた、

 黒で詰襟の軍隊服。

 金髪で背の高い男性が立っていた。


 さすが、アスナちゃんのお兄様。

 凛としててお顔立ちも素晴らしい。


 アーク様は、こっちをみると、

 にっこり笑って両手を広げた。


「アスナー!」


「へ?」


 そして、いきなり抱きしめられたのだ。

「ぎゃ! ちょ!」


「アスナー。久しぶりだなぁもう、

 寂しかっただろー、寂しかったよなぁ、

 こんな所で一人で!」


「お、お、お兄様!」


「なんだよ、お兄様って他人行儀だなぁ、

 いつものようにお兄ちゃんーって、

 抱きついてきて良いんだぞー」


「や、や、とりま、抱き締めるの

 やめて下さい、ほうずりしないで!

 お、お、お兄ちゃん!」


「久しぶりにだっこしてやろう。

 おっきくなったなー、ほら、

 高いたかぁーい」


「お、下ろして下さいませ! 

 は、恥ずかしいです」


「おー、重くなったなー。

 お兄ちゃんがぎゅーってしてやろう、

 ほら、ぎゅー!」


「や、やめて下さいませ!

 ちょーと、ストーップ!」


 何とか下に下ろされて、

 呼吸を整える。


 か、か、過去一、心臓に悪い。


「アーク様。そうやっていつも

『二度とお兄様とは会いませんわ!』て、

 言われるので、その辺にしたほうが……」


 そ、そうなんだ。

 アスナちゃん別にこれを

 受け入れてる訳じゃないのね。


「そうか? ラウルも、すっかり

 一人前の顔をして、

 いつもアスナをありがとうなぁー」


 ラウルの青い髪を、

 くしゃくしゃと撫でる。


「いえ、僕は

 当然の事をしているだけで……」


 その顔が、今まで見た、

 どの顔より嬉しそうで。


「時にラウル、今、お前、アスナより、

 先に入って来なかったか?」


 ん?


「え! あ……」


「従者が部屋に先に入るなど、

 あってはならない。分かるよな」


 あ……


 それは、最近私がいつも、

 ラウルに先に行動してもらって、

 それを真似てたから……


 今も、部屋に入るタイミング、

 挨拶する作法、頭を下げるかも、

 すべて分からなかったから……


「お兄様! それは……」

 ラウルが、手を伸ばして止める。


「僕の……手違いでした。

 大変申し訳ありません」


「いいよ、いいよ。

 普段はクラスメイトだもんな。

 でもケジメは必要だ。わかるだろ?」


 ケジメ?


「はい、お願いします」


 ラウルが、顔を上げた。


 まさか!


 アーク様が片手を振り上げて、

 ラウルの顔を勢いよく叩いた。


 乾いた音が響いて、

 ラウルの身体が横に倒れる。

 掛け値なし、全力で叩いてる。


「ラウル!」


 思わず駆け寄ったが、

 私には目もくれず、片膝をついたまま


「ありがとうございます。アーク様」


 と、淀みなく言った。


「お兄様、いまのはさすがに……」


 私が悪いのに、

 私が先にやってもらってたのに。


「いいんだアスナ。これは必要な事なの」

 と、ラウルが言う。


「でも」


 ラウルの顔が赤くなっていって、

 でも表情一つ歪まない。


「アスナはいつも優しいなぁ。

 お前が俺の従者のラウルを、

 幼馴染だ、友達だ、と言い出した時は、

 なんて優しい妹だって感動したんだ」


 そうなんだ。

 アスナちゃんが。


 ラウルが立ち上がって、姿勢を整える。


「お前が、絶対行かないって言ってた

 この学校も、『ラウルも一緒なら』て

 言うんで学費も、生活費も出してる。

 お前が幼馴染と言い張るのは良いが、

 従者である以上、領分と役割がある、

 分かるな、ラウル」


「心得ております」


「うん。さすが、俺が育てただけはある。

 お前は出来る奴だ素晴らしい」


 そしてまた頭を撫でる。

 ラウルが本当に嬉しそうな顔をする。


 そうか。ラウルには、

 アーク様は親代わりなのか。

 だからあんなに嬉しそうなのだ。


 従者なのに、幼馴染で友達よ。

 と良い続けて、

 学校まで通わせたアスナちゃん。


 だからラウルは、アスナちゃんが

 どんなにワガママでも、傲慢でも、

 無理を言っても、ずっと側にいる。


「今日は仕事のついでによったんだが、

 そうだアスナ、午後からお兄ちゃんと

 デートしよう」


「へ? いや、ちょっと……」


「もちろん、ラウルも行こうなー」


「はい!」


 いやいや、私、このテンションの

 お兄ちゃんと一緒にいたら心臓が……

 心臓が持たない……


「そうだ! キマイラに乗せてやろう」


 え?


「世話する所だったんだろ?

 お兄ちゃんの使い魔獣に

 触らせてやろう!

 どうする?行くか? アスナ」


 キマイラ……


「い、行きます。

 お兄様と、デートしたい、です」


 私は全力で欲望に負けた。


「そうか! 可愛い奴だなぁ、

 お前は! そりゃ!」


「だ、だ、だから、

 抱きつかないで下さい! お兄様!」


「お兄ちゃんがチューしてやろう!」


「やめてください! お顔が近い!

 美しいお顔がもったいない!

 ちょ! ぎゃー!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 『次回予告』


「グレムリンは、すごく悪戯好きで、

 人の嫌がる事が大好きだ」


「ちょ! 髪! 服! 引っ張らないで! 

 ぎゃあ! 服の中に入るのやめて!

 ちょっと! ズボン返して」


「ほっとくと、身ぐるみ剝がされるぞ

 さぁ、切り抜けて見せろ」



 毎日更新!


 今日も

 お仕事お疲れ様!

 モフモフー

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― 新着の感想 ―
[良い点] モフモフに加えて、今度は軍服お兄様と来た! なんて贅沢な(笑)! しかしビンタとは! この先、波瀾がありそう((o(´∀`)o))ワクワク
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