↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役を放棄した令嬢は、美少女すぎるヒロインと戦わないっ!  作者: 芳野みかん
サンドライト防衛戦開始! 学園恋愛どこいった?! 編
68/98

流転の主従と、いちゃラブる主人公たちと、強いぞ僕らの王弟殿下

後半、残酷表現注意です。


眩しい。痛い……痛くない? いや、痛みが、薄れてゆく?


生温い何かに顔をなぶられた感触に薄目を開くと、ピンク色の舌がべろーんと通過した。


「???」


瞬く暇もなく、額の上にあった舌が顎に移動した。

気がつけば、真っ白な幼竜に顔中ぺろぺろされていた。

金色の瞳を見あげ、ぱちぱちと瞬きをすると、幼竜はスゥから離れてちょこんとおすわりをした。

引き寄せられるように身を起こせば、斬り付けられた半身が傷んだ。だが、不思議なことに、出血が止まっている。


体感では、致命傷だったはずなのに。


「スゥ!」


次の瞬間、背の高い青年に抱きしめられた。


「え……?」


「よかった……! この手が殺めたと思うた……!」


それは、抱かれ慣れた身体だった。

聞き慣れた声だった。

だけど、違う。何もかもが違って、何もかもが尊くて。

もはや、自分などが触れてはいけない御方だ。


「オケアノス……殿下?」


震える声で尋ねれば「然り」と頷かれた。

平伏しなくては。なのに、体が動かない。


この10年間、スゥはオケアノスの側に居るためだけに、彼が望まない暴虐を尽くした。

より残忍に、より享楽的に振る舞えば、神堂の信頼は厚くなる。

オケアノスを救うべくしてした狂言とはいえ、絶対にしてはならないことだった。


分かっている。

わかっていて、そうしたのだ。

罪なき人々の命を、清らかな乙女たちの純潔を、奪って、散らして、踏みにじって。


ーーー真にオケアノスの忠臣ならば、神堂ごと彼を暗殺するべきだったのに。


だが、スゥにはできなかった。

能力的な問題もあったが、寝首をかくこと自体は不可能ではなかったと思う。

でも、しなかった。自ら進んで狂乱の宴に溺れ、間違いなく快楽に狂っていた。

貞操など、クソ食らえだ。

何を犠牲にしても、悪魔に魂を売っても、彼の側にいたかった。オケアノスに取り憑いた神堂を引き剥がすまでは。


10年越しの願いは叶った。


穢れ果てたこの身に、もはや価値はない。

なのに何故、主君の両手はこ(・)ん(・)な(・)モ(・)ノ(・)を(・)を抱きしめているのだろう……。


「ご容赦を。御身が穢れてしまいます」


「そなたは、その身が穢れていると申すか?」


スゥの肩を掴んだまま、その身を離すオケアノス。

どんな紅玉よりも澄んだ瞳が、柔らかく微笑んでいる。


「はい。多くを殺め、犯し、虐げました。未熟な私は、そうすることでしか、御身の側に侍る術を持ちませんでした」


「そうさせたのは余の不徳ゆえ。この身など、そなたの何倍も穢れておるわ」


「滅相もございません!」


スゥはその場にひれ伏した。

オケアノスはその肩を引き上げて、己の胸に忠臣を閉じ込めた。


「すまぬ……こんなにも、深くそなたの人生を傷つけた」


スゥの視界がぼやけて、大粒の涙がこぼれ落ちた。

それが涙だと自覚するより先に、傷ついた指が雫を拭ってくれた。


「殿下……」


「余こそが大罪人だ。罪悪感より、鎮魂の思いより、そなたが生きていてくれて良かったと。我が身を取り戻し、そなたと語る幸福ばかりをかみしめておる」


逞しい腕に、再び抱きしめられた。

強く、強く、強く、強くーーーー。


「ありがとう。スゥ。ずっと隣にいてくれて」


オケアノスの声も震えていた。身分不相応とわかっていても、抱きしめかえさないなんて、スゥには出来なかった。とても。






「ベル、泣きすぎ」


流転の皇子と忠臣の再会を、岩陰から見守るはサンドライトの王太子とその婚約者。

フレデリックとしては、オケアノスと会談して、今後のことをさっさと決めてしまいたいのだが。

目の前のお嬢様が、不遇だったふたりに感情移入して、泣いて泣いてどーしよーもない状態だ。


多分、キャパオーバーなのだろう。戦争が始まって、レイアリスが暗殺され、自身は誘拐されて、高所恐怖症なのにアンデッドワイバーンに乗せられて、前世の恋人と決別を果たして。本人に自覚はなくても、相当消耗している筈だ。


マリアベルの肩に顎をのせて、腕の中に閉じ込めると、キュッとしがみついてきて、声を抑えながら嗚咽した。

淑女教育をはじめたばかりの女の子みたいだ。


「ほんとに……良かったです」


彼らに同情はするが、マリアベル個人はとばっちりを受けた側である。散々な目にあったのに、ふたりの再会を素直に祝福するなんて。美徳ではあるが、こう人が良いと、王太子妃として少々悩ましいかもしれない。

ほつれた髪を撫でながら、フレデリックは鍾乳洞の天井を仰いだ。


泣くと体力が削られるし、目だって腫れてしまうし。どうにかして休ませたいのだが、どうしたものか。


このとき、フレデリックの脳裏に恋愛上級者(アーチライン)のアドバイスが蘇った。


曰く「感情が昂って泣き止まないときは、ノリと勢いで上書きすべし」と。


泣いている女の子の涙を止めることにかけて、我がスペア以上のエキスパートを、フレデリックは知らない。


師匠の教えと自らの本能を尊び、マリアベルの唇を奪った。

パチパチと瞬きを繰り返す気配を無視して、深く、優しく、時に、緩急をつけて。

驚きすぎると固まる性質のマリアベルは、されるがままだ。


「フレッド……? ど、して?」


唇を離すと、至近距離で目が合った。


「嫌だった?」


「い…いえ。でも……」


マリアベルの肩が、ピクリと跳ね上がる。

フレデリックは、低く甘やかな声で囁き続けた。


「僕は嫌だった。僕以外の男が、君の本質を知ってるなんて」


「フレッド……?」


無意識に逃げようとする肩を捕まえて、再び唇を奪う。キスの雨を降らせる。額に、瞼に、鼻先に、頬に、唇に。そして耳に戻って耳たぶを喰み、吐き捨てるように呟いた。


「わかってるけどさ。君と二宮の間には、不純な気持ちなんか一切ないって。でも僕は、君たちほど人間ができてない。無償の愛で互いの幸せを祈るなんて、絶対できない」


マリアベルは彼の肩にキュッとしがみついて、ふるふると首をふった。


「あの、それ……私も、ムリです」


「ベル?」  


「二ノくんには、幸せな恋をして、実り豊かな人生を歩んで欲しいって思います。心の底から、願ってます。でも、フレッドが私以外の人と……なんて、絶対イヤです。祝福しません。離れて幸せなんて、祈れません。ムリムリです」


マリアベルの正直な告白は、フレデリックの嫉妬心をいとも簡単に消滅させた。

こういうマリアベルだから、守りたいし、手放せなくなるのだ。


「……それもそうか。僕以外の誰のものにもなりたくないから助けに来いって、エイミ嬢に伝言したくらいだし?」


「う……! あの、それは、その、場のノリというか」


白粉の剥がれた肌が紅潮して、なんなら湯気が出そうなイキオイだ。


「嘘なの?」


片手で肩を抱きながら、もう片方の手で頬を撫で、耳たぶを弄んで軽く髪をかきあげる。

マリアベルが俯いたまま首を振ると、フレデリックは耳を撫であげるようにして、視線をこちらにむけさせた。

女性にしては背が高いおかげで、普段から目線が近い。うつむいた視線を、恥じらいから逃げようとする唇を、捕まえやすくて実によろしい。高身長女子、万歳である。


「エイミ嬢のリップサービス? 僕のぬか喜び?」


「……違います……けど」


「けど?」


ほっそりとした長い指が、紅潮した頬を隠した。


「私の心は、わかってますよね? だから、お願い。いじめないで……」


「ごめん。君が可愛すぎて。でも、本気で嬉しかったんだよ?」


フレデリックは、顔を覆う両手を包んで、優しく引き離した。


「もっとキスしても、いい?」


「ダメって言っても、聞かないくせにっ……!」


「ダメって照れる君は、最高に可愛いもの。そりゃするよ。でも、嫌なら、しない。絶対にしない。キスは、嫌?」


「嫌じゃ……ないです……んっ…! 」


言質はもらった。

濡れた唇を、再び塞いで貪った。

今までは、フレデリックなりに手加減してきたつもりだ。

手加減されてきた自覚はないだろうけど。

男性に免疫のないマリアベルは、ちょっと激しくすると秒でいっぱいいっぱいになる。それはそれで可愛いが、今回ばかりは、容赦なく、全力で愛でさせてもらおう。


「んっ……ん…あっ…!」


深さや角度を変えるたびに、苦しげな吐息が漏れた。

深い口付けに慣れていないマリアベルは、呼吸を忘れて息が浅くなりがちだ。

でも、服の上からとはいえ遠慮のない不埒な手を、彼女は振り払わなかった。肩にしがみついて羞恥に耐える様子が、とてつもなく官能的で、愛くるしい。

やがて、細い体から力が抜けて、フラッと倒れこんできた。


「ベル」


体力も気力も限界だったのだろう。うまく気を失ってくれた。こういう時のマリアベルは、休めと言っても休まない。王妃教育の賜物というか、呪縛というか。ならば、強制的に寝かしつけるのみ。

まだ瞳は濡れているけれど、涙は止まっている。

形のよい唇は、わずかに微笑んでいた。

フレデリックは心から安堵して、愛しい婚約者を抱きあげた。


それから、なにげなく視線を向けると、オケアノスとスゥとスノーローズから、ぬるく呆れた視線を頂戴していた。

そっちもイチャイチャしていたくせに解せないなあと、心の中で空とぼけるフレデリックであった。





その日は朝から強い北風が吹き、侵攻を予告した正午前にはひどく時化はじめた。

北海の嵐。漁師たち泣かせの冬景色だ。

塩を含んだ風雪で視界が塞がれ、岩の影さえ見えない。

風下のサンドライトでは、長年、嵐と共に南下してくる海賊たちに脅かされていた。

栄華を誇った海賊たちも、王弟ファルカノスによって、ごっそり一掃されたが。

「あいつらの船なら、ひっくり返していーぞ?」と許可を得たシーサーペントたちに海賊船を破壊されて……は、オモテムキの理由である。


真相は、兄に飲酒をチクられて停学を食らったヤンキー王子(15歳)が、ムシャクシャしてアジトを潰しまくったから。

『おもしろそーだから』と、ついてきたシーサーペントたちが、海賊船をひっくりかえして遊んだのは、ついでのオマケである。


そんなわけで、北海の愉快なお友達シーサーペントの面々は本日、たいそうワクワクしていた。


老体になると、冬場は海底で眠って過ごす個体が殆どだが、若い者たちは、岩場から岩場に飛び移ったり、天敵のクラーケンとガチバトルしたり、養殖の牡蠣を失敬してはメルセデス公爵の鉄拳を食らったりして、毎日楽しく過ごしている。


だが、ファルカノスが海竜の鱗の鎧をまとい、三叉の鉾を手に、でっかいマントをはためかせて集合をかける時。

メルセデス公爵が「お前が海賊だろ」って見た目の角兜をかぶり、巨大な戦斧を携えて彼に従う時。

シーサーペントライダーたちが、海岸にズラリと立ち並ぶとき。

それは、シーサーペントたちにとって、より刺激的な事件か始まる合図である。


ファルカノスは、暴風雪をものともせずに、声を張り上げた。


「今回は遊びじゃねえ! 対岸のスコーネ城に悪りぃ奴らがいるんだ。見かけたヤツもいると思うが、ワイバーンどもの遺体を改造してアンデッドにしやがった」


『えー!かわいそー!』


『マジムカつく。信じらんなーい』


シーサーペントの女子たちが、悲鳴をあげた。

ファルカノス以外に、海竜の言葉がわかる人間はいない。竜族は人間の言葉を理解できるが、ドラゴンライダーとしか会話できないのだ。

誇り高きシーサーペントライダーたちは、それを怒りの声と受け止めた。まあ、間違いではない。


「スコーネ城の連中には無血開城のチャンスをやったのに、逆らう気でいやがる。ならば、遠慮はいらねえ。潰すぞ!」


『おけまるー!!』


『先生ー』


気合いの入ったシーサーペント男子が、短い前脚をあげた。


『アンデッドにされた連中は、個別に海葬っすか? まとめて火葬っすか?』


「飛竜を海に沈めちまうなんて、あんまりだろ。晴れた日に火葬して天に送るから、一箇所に安置しとけ」


『押忍!』


「騎手も海竜どもも、オケアノスが出てきたら全速力で逃げろよ。あいつは規格外だ。オレ様じゃねーと無理だ」


「サー! イエッサー!!」


『押忍!!!』


「シーサーペント部隊、進軍開始! 上陸後、4時間でスコーネ城を制圧しろ!」


「サー! イエッサー!!」


『押忍!!!』


海竜部隊は、向かい風をものともせずに北上した。時化も暴風雪も、彼らにとってはそよ風みたいなものだ。

視界は悪いが、絶対的な方向感覚を持つシーサーペントたちが、目的地まで連れて行ってくれるし。彼らを駆る時は、外気温の影響や、浮遊物の直撃を受けないし。

ゆえに、海竜部隊では、嵐の進軍は無茶振りにカウントされない。

最も恐ろしいのは、ファルカノス元帥と大将軍メルセデス公爵に逆らうこと。シーサーペントやクラーケンを素手で殴って海に沈める腕力で、ぶん殴られることなのである。



正午の鐘の音と共に、水門をぶっこわして城に雪崩れ込んだサンドライト海軍は、悪天候なんざものともせずに制圧をはじめた。


戦闘員の拘束、非戦闘員の誘導、指導者層の監禁を指示して、「あとから尋問すっから、極力殺すな」と命令しておけば、テキトーに暴れてくれるだろう。


旧北王国連合の連中には、『サンドライト海軍はシーサーペントに守られている』という認識を、これを機に改めてもらおう。

海竜部隊の入隊資格はただひとつ。サシで戦ったシーサーペントを、降参させること。つまり、自らが騎乗している海竜と、互角以上に戦える猛者揃いなのである。守られているのではなく、共闘しているのである。

さらにいえば、海軍を鍛えているのは隣国対策ですらない。

北海を荒らすクラーケンを狩る為である。

大海獣クラーケンは、シーサーペントの卵や幼竜を食うので、シーサーペントたちにとっても共闘する利があるのだ。

敵が人間じゃない時点で、人間の軍隊なんざ眼中にない。そこんとこ夜露死苦なのである。


眼中にないとはいえ、可愛い生徒たちを誘拐したとあれば、探して保護して、あとは責任者をボコるのみ。


「さてと。階下の掃除は連中にまかせるとして、どうしようかねえ」


ファルカノスは、オケアノスのハーレムをくまなく回った。


そこかしこの個室に、見目麗しい女たちが監禁されていた。それも、精神的に不安定な者、医療処置が必要そうな者が大半だ。

女騎士たちに救助にあたらせて、医療部隊の増援を要請したものの、胸糞悪いことこの上ない。


解せないのは、先行したはずのフレデリックも、誘拐されたはずのマリアベルも、彼女を誘拐した斥候姫スゥも、剣姫ランも、城の主であるオケアノスさえも見当たらないこと。


かわりに、人質を閉じ込めていたと思われる部屋で、司祭姫キミの変死体を発見した。

生首の側に残されていた日本語の手紙は、ファルカノスには解読できない。ただ、この手紙が、司祭姫の死やフレデリックたちの行方と、密接に繋がっているだろうとは思う。


「ま、どうにかしてるだろ。フレディのことだし」


ファルカノスは胸元に忍ばせたスピリッツを垂らして、目を開いたままの生首の、瞼を閉じてやった。


「それにしても。おめーがひとりで、200体ものアンデッドを作ったなんてな。オレの生徒どもと、そう変わらん年齢じゃねーか。教会の子育てって、どーなってんだよ」


死顔の笑みは狂気的だったが、瞼を閉ざせば年齢相応だ。


何人同時に交わる気だ? ってくらいに巨大な寝具には、袋に入ったままの胴体が、ぞんざいに放られている。

ファルカノスは目を閉じた生首を、胴体に添えてやった。

ワイバーンやシーサーペントがコレを見つけたら、八つ裂きではすまなかろう。

首を戻しておいて矛盾するが、ファルカノスはそれを止めようとは思わなかった。


「幸せっていやー、幸せなんだろな。竜どもから報復を受ける前に死ねて。おめーはどう思う?」


音もなく開いた扉を振り返ることなく、侵入者に問いかけた。


「似たようなもんだし。な? レティシア?」


開けなかったことにして扉を閉めようとした乙女は、ピクリと肩を震わせた。



次回、叔父VS姪。

デュエ◯、スタンバイ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] えー、スケイルメイルと鉾を装備してマントを風になびかせたファルカノスを想像して、思いっきりクラクラしております。 え、カップル二組?うん、まあ今は思う存分イチャイチャすればいいかな、と。嵐…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。