幕末異文化交流
慶喜は思った。西洋では軍艦や鉄砲、大砲といった軍事力だけでなく、文化水準や医療、教育に至るまで、日本とは比べ物にならないほど発展しているということを。
それなのに我が日本では、いまだに個人的な怨恨を晴らすと称しては、刀で斬りあっているという、なんとも情けない限りだ…。
水戸藩はもともと、二代藩主光圀の時代から外国の新しいものなどを取り寄せることに熱心で、
日本で最初にラーメンやチーズやビスケットなどを食べたのも二代藩主の光圀公、
また、日本で最初に西洋風のスーツというか、タキシードに蝶ネクタイという服装をしたのもまた、二代藩主の光圀公だという、嘘かまことかわからないような噂が、水戸藩の領内では広がっていた。
それが本当かどうかは、調べてみないとわからないが…。
慶喜のところにはよくいろんな客が来る。もちろん、西洋の文化の話をする者たちも。
「慶喜様、失礼つかまつる。
それにしても西洋の文化というものは素晴らしいものがたくさんある。
しかし今、その西洋の文化をよく思わない者たちが、尊皇攘夷などと騒ぎ立て、外国人を追い払うなどと騒ぎ立てておるという。
かといって、西洋の国と戦をして、勝てる見込みなど、今の我が国には無い。
そうなると、やはり我が国は西洋列強に対抗するためには、西洋列強の文化を受け入れて、国力を強化していかねばなりませぬ。」
そのくらいのことはわかっている。
しかし次の瞬間、その者の名前を聞いて驚いた。
「ああ、申し遅れました。私の名前は佐々木助三郎と申します、慶喜様。」
佐々木助三郎…?どこかで聞いたことがあるような、無いような名前だな…。
さらにもう一人、いかにも町人に変装した侍らしき者が現れた。
見た感じ町人に変装してはいるが、どう見ても、まぎれもなくその正体は侍だ。
「慶喜様、拙者の名前は渥美格之進と申します。」
佐々木助三郎に渥美格之進、ということはまさか、助さん、格さん!?
ということはまさか…。
と思っていたら、これもどこかで見覚えのあるような、黄色い装束を着たお爺さんが現れた。
「あなたさまはいったい、どこのどういうお方なのでございましょう?」
もしや、あの水戸黄門なのか!?
ということは慶喜から見ても、何代も前のひい、ひい、ひい…お爺ちゃんということだよな?
「いかにも、わしが水戸光圀じゃ!かっかっかっ!」
水戸光圀、やはり水戸黄門ということか。
いや正直言って、もしも水戸黄門が本当に幕末のこの時代に現れたら、どのようにしてこの難局を乗り切るだろうと、思ったりもした。
ふと、目を覚ます。真夜中だ。
「はっ…!夢か…。しかし、あの夢はいったい…。」
半信半疑、あれは夢か現実か、いったい何だったんだろうと考えながら、ひとまず用を足した後、再び眠りにつく。
翌朝、起きてみると、いつもの通りの変わらぬ風景。
そんな中で急遽、江戸城に登城せよとの通達があった。
井伊大老が暗殺され、安藤信正も失脚し、老中主座も不在という状況の中での登城命令だ。
「いったい誰の命令なのか?」
「それが、将軍、家茂様の直々のご命令とのことです。」
将軍、家茂の直々の命令か、これはもしや、願ってもないチャンスだと思った。
この後、慶喜は将軍後見職に就任することになるのだから。
長州征伐までは、このまま史実通りに行こう、ここはひとまず、家茂の言うことを聞いておこうと思った。




