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魔王をやめよう。-魔王令嬢冒険記録-  作者: A46
Chapter2. ほとんど着の身着のままなので、お買い物に行きました。
9/9

魔王の素質その9 味はせずともしっかり食べる

 曲がりなりにも城主の娘であるお嬢様に、料理をする機会は皆無でした。しかも、いわゆる美食というものに興味を示していたわけではない(とはいえ、テーブルマナーは完璧ですが)ので、「ただ出てきたものを食べる」ということを日々繰り返してきたのです。


 ただ、好き嫌いせず何でも、しかもめちゃくちゃ綺麗に食べるんですよね。厨房の手伝いをすることをありましたが、作る側からしたら気持ちのいい限りでしょう。


「そ、そうしたら……ウーラニアーはどんな物が食べたい感じですかね……」

「多分何食べても美味しいからタレイアと同じのでいいわ……」

「は、はい……じゃあ、さっきの2つで……」

「かしこまりました〜」


 相手もプロです、こういった案件には慣れているでしょう。

 この国の識字率は国民統計で半分あるかないか。学校があるような比較的大きな街や村でも100%というには程遠い水準ですし、山奥の集落や小さな農村にはそもそも読み書きを教える機関や人材が行き渡っていません。というか、そういうところだとそもそも統計に組み込まれていないところもザラでしょう。


 でもって、いくら街や村の人口が多かろうと、小規模な集落と比べたら数が2桁3桁違うので、都市人口(ここでいう「都市」とは街と一定以上の人口をもつ村の総称です)と村落人口なら村落人口の方が圧倒的に多いと思われます。なので、実質的な識字率は2割いっていれば万々歳といったところ。それだってこの世界においては決して低くない数字です。0%の国だってあります。そんなもんです。


 ということで、文字=メニューの読めないお客さんも一定数いるのでしょう。


 もっとも、お嬢様の場合は「書いてある文字は読めるが、それがどういう料理だかわからない」というちょっと特殊なケースですが。


「こんなことならちゃんと日常的に料理名とか聞いておくべきだったわ……」

「拠点ではわたしが料理しますから、ぜひ料理名を覚えるのとセットで召し上がってください」

「そうね、ありがたいわ」


 ふふ、まずは基本的な家庭料理から攻めていきましょう。

 胃袋を掌握したところで、何の目的か勇者も愛用すると聞く、1滴垂らせばたちまち気分が昂ぶって人肌を求めてくるという魔法のようなお薬を……


 いえいえいけません!何を考えているんでしょうねわたしは!わたしはお嬢様に捨てられたら生きていけない身、そのお嬢様を自分のものにしてしまおうだなんて、本当にまずいですよ!

 でもちょっと待ってください、お嬢様がわたしのものにできたらお嬢様がわたしを捨てるなんてことはないわけで。そうしたらわたしは安心してお嬢様に一生依存できますよね。


 いくら魔法万能の時代とばかりに生きる魔王の上級眷属とはいえ、薬を持っているのは悪いことではありません。頭が割れそうなほど痛いときに、精神力を削って集中力を費やして…なんてやっていたら、余計頭が痛くなりそうです。それを考えたら、飲むだけである程度の効果が得られるお薬というのは、見方によっては魔法よりもお手軽です。


 なにを言いたいかというと、薬屋さんにも寄っていこう、ということです。勇者も中略魔法のようなお薬、売っているでしょうか。


「それで、タレイアが頼んだのはどんな料理なの?」

「まず、メインはお魚です。軽く焼いた魚を、ワインとトマトで煮込んだ割とシンプルな料理ですよ。わたしの望み通りの、あっさり目のものです」


 油も使わないわけではないのですが、揚げ物のそれとはモノも量も違います。

 そして、面倒な工程もなければとりたてて高級な食材も使わないので、値段もお手頃です。

 海が遠いこの地方でこの値段となると、まあ湖か川の魚でしょうけどね。


「魚……魚っていうと、確か身が赤いのと白いのがあるのよね」

「よく覚えてらっしゃいました。その通りで、魚には身が赤い種類と白い種類があります。今頼んだ料理は、白い方を使うんです」


 わたしが家庭教師補佐としてもお嬢様に接しているとき、赤身魚と白身魚についても触れたことがあります。

 それ以前のお嬢様は、肉と魚の区別があまりついていなかったり、卵の正体がわからなかったりと、食への関心が驚くほどなかったと、当時お嬢様の家庭教師をしていた先生から聞きました。


 その先生は亡くなった旦那さんが内緒でしていた借金を返すため、魔王城で働くことを選んだ元学校教師のお婆さんでした。それで、借金完済を機に息子さんと暮らすことにしたということで魔王城を去ったのが2年半ほど前。今もお元気でしょうか。


「それにしても、どうしてそんなに自分の食べるものに興味をもたれなかったんですか?」

「多分魔族の血が入ってるからね。魔王の家系の中でもだいぶ濃いめのはずよ」


 魔族。その昔、世界中で人々に対して猛威を振るった種族。人間は魔族を忌み嫌い、敵視し、絶えず戦っていましたが、中にはごく少数、魔族の軍門に下る人間がいたのです。


 聖魔法技術の進化により魔族自体はすでに力を失い、組織的に人間に対抗する術は残っていません。ですが、魔族亡き後(滅びたわけではありませんが)、彼らに与した人間たちが魔族の領地を分け合い、支配するようになります。


 ——「魔王」のはじまりです。


 魔王の中には、魔族と結婚して魔族と人間の混血児を産むものが現れました。身体の大きさこそ3割増しぐらいではありますが、姿形自体は人間と変わらないので交配出来るんですね。


 お嬢様の体内の魔族の血が濃いといっても、いいとこ8分の1くらいでしょう。なので、いくら身体の大きな魔族の血が入っていようと、お嬢様は同年代の女の子の中でも普通に平均以下の身長です。かわいい。


 さて、なんでこんか解説をしたかと言えば。


 モノホンの魔族って、味覚が存在しないみたいなんです。栄養を摂取できれば味とか関係なかったのでしょう。そして、そんな魔族の血を、今の時代にしてはだいぶ色濃く受け継ぐお嬢様もまた、味覚がかなり弱いようで。

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