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01 生きる理由


ハロハロ、ハロウィン!


ハロウィン前に、モンスターも吸血鬼も出てくる物語を、おつまみ程度に楽しんでいただけたら、幸いです。




 生きるためには、理由が必要だった。

 生きることに、しがみつくための力が、必要だった。

 酷く弱かったから、強さが必要だった。

 親には捨てられ、孤児院では愛に飢え、どうして生きなくてはいけないのか、わからない。

 孤独の時間を過ごす時に、魔法の本を読み漁っていくうちに、魔法を使いこなす楽しさを覚えた。

 そして、誰に言われるわけでもなく、魔王を倒したいという夢を抱いた。

 それはありきたりの夢かもしれない。魔王を倒す勇者となり、世界を救いたい。誰もが一度は抱く願望。

 私は魔王を倒すほどに、魔法をたくさん使いこなしたい。強くなりたい。ただそれだけだった。


 魔王は不老不死。

 命をもて余している故に、退屈しのぎで略奪や戦争を起こす魔物の頂点に君臨する王。

 人間の国は、魔王の気まぐれで生かされているとも言われている。

 封印をするしか、魔王を倒す術がない。


 孤児院の子はほとんどがその被害者。私はどうかは知らない。親がいないという事実があれば、それで十分だったから、知ろうともしなかった。


 十歳になる前から魔法の練習をした。

 魔力は、気迫のようなもの。触れずに意思の力だけで、物を動かすことができれば、魔法を使う素質がある。

 魔法とは、言霊の力と想像と魔力で具現化したものだ。

 本を読むことで、習得できる。習得するための呪文を読み上げれば、あとは思い浮かべたり魔法の名を口にすることで発動。俗に通常魔法と呼ばれている。

 長い呪文を唱える詠唱魔法は、魔法の消耗が激しい分、強力。覚え甲斐がある。

 十三歳になってから、孤児院を出て旅を始めた。

 文無しだが、それなりに魔法以外にも生きるために必要な知識を得て、野外で生活した。

 武器や旅の道具は、戦って倒した魔物の牙や目、薬草等を摘んで、売って作った金で揃えた。

 街から街へと移動しながら、図書館の魔法の本を読み漁った。新たに使えるようになった魔法も多い。

 それだけでは、勿論足りなかった。ただ魔法を学ぶことに時間を費やしただけで、魔王を倒せるわけはない。私が出来るなら、とっくに誰かが封じている。

 女神や精霊のいる森などに足を踏み入れて、力を与えてほしいと頼んだ。

 魔王を倒すためだと言うと、嘲笑われることもあったが、大抵は試練を乗り越えれば力を与えて貰えた。


 敵は魔物だけではない。

 魔物とは別の生き物、聖獣だったり、妖魔だったり、鬼族だったり。中々手強い相手ではあったけれど、勝てば自分の成長を実感した。

 時には、敗北を認めた聖獣や妖魔が服従をし、契約を求めてきた。

 それは新たな力となるため、私は受け入れた。

 いかなる時も召喚されれば力を貸すと誓い、契約を交わした。

 時には召喚鬼や召喚魔と呼び方を変えるけれど、一くくりにして召喚獣と呼ぶ。


 必ずしも、勝つわけではない。魔王を倒す、その目的を果たすために、生きないと。負けを感じた瞬間に、逃げる。

 何度も、絶体絶命の危機にまで追い込まれた。何度も、ここで死んでもいいのではないかと過った。

 乗り越えたところで、疲労と怪我の苦痛があるだけ。ここでくたばってしまえばいいではないか。

 そう過る度に、奮い起こされた。

 魔王を倒すまでは死ねない。

 そして、その度に起死回生の手段がパッと思い浮かび、勝利をしたのだ。

 私は、結構強いのかもしれない。まだまだ魔王には及ばないとわかっていながらも、窮地を生還すると自惚れることもあった。


 しかし、どしゃ降りの雨の中、木の穴で雨宿りをすると、自分は不幸なのかもしれないと憂鬱な気分となる。

 生きる理由にしがみつくこと。それは不幸なのかもしれない。必要なものばかり思っていたが、生きることに価値なんてあるのだろうかと考えてしまう。

 振り返れば、価値あるものなんてない。親には捨てられ、愛情はもらえなかった。孤児院の大人は義務で接してきたから、優しいとは思ったことがない。同年代は子どもすぎ。私は近寄り難い雰囲気を放っているらしく、友だちも出来なかった。どちらかと言えば、嫌われていたのかも。愛情をもらった記憶もない。感じたこともない。どんなものかも曖昧にしかわからない。もらわなかったことが不幸か。わからないことが不幸か。そもそも、幸せを知らない。

 帰りを待つ人は、もちろんいない。帰る場所もない。生きて戻れる保証もないから、そんな心配は必要ないのかも。

 憂鬱になったあと、晴れた空を見上げたら、吹き飛んだ。

 青く澄んだ空を見ているだけで、足が進む。

 魔王を倒す、その目的のために、気持ちも進んだ。

 旅を始めてから、生きている実感を抱いている。それはきっと、幸せなんだろう。


 帰りを待つ人はいない。 帰る場所もない。

 そんな私にあるのは、魔法の力と目的だけ。それだけが、私には価値あるものだ。

 それを持っているこそが、私。

 誇らしいとも思えた。



 十六歳になった年。

 私は魔物の国に入る前に、備えられるものを全て手に入れられるように様々な場所に足を踏み入れた。


 人間嫌いな獣族の森、侵入者を許さない神秘の地、未知の獣がいると噂される谷底。強いものを倒しに、経験を得るために、力を増すために、あらゆる場所を旅して続けた。

 そして、黒の女神と出会った。




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