02 黒の女神
黒の深い森。深緑と紺の夜色で静かな森に、儚い光を放つ妖精達が漂う。
その森の主である女神。漆黒の肌をした魅惑的な女性の姿。瞳も黒く、睫毛は白い。長い髪は水の中で靡くように揺れて、夜空の色。
侵入した魔物を倒したお礼。静かな黒の深い森の中で、黒の女神の許可の元、滞在した。
数多く、そして様々な姿をした妖精達が住む森。
妖精に世話されて、色々と指摘された。女なのだから、化粧をしろ、髪をとかせ、着飾れ。口煩い妖精達だった。
妖精の一人は怒った風に、私を一生世話すると言い出した。迷惑だと断ったら、絶対に世話するとしがみつかれた。
淡い橙色の短い髪は、毛先がふんわりとボリュームをついている。キラキラ艶めく白い肌。アーモンド型の大きな瞳は橙色。くるりと腰に巻かれたロングスカートは、白い百合の花びらを折り重ねたよう。胸元は桜の花びらが二つ。へそを出していた。四つの羽根はトンボのようで、虫の羽ばたきがする。
気に入られたな、と黒の女神がケラケラと笑う。
旅を始めてから、一番長い滞在だった。
黒の女神に、何故一つの場所に落ち着かないのかを問われる。だから、私は答えた。
「魔王を倒すことが、私の生きる理由だからだ」
初めこそは、見よう見まねで敬意を示す言葉使いをしたが、黒の女神は豪快で気さくで、無理するなと言われた。
「何故そんな理由に生きることにしたのだ? ルアリスよ」
問いながらも、妖精の作ったワインを勧められる。いつでも酒を飲み明かそうとする女神だ。酔うことは好きではないから、断る。
こういう賑わいもある森だ。
その主の黒の女神は、豊満な胸を白い布で包み、惜しみ無く肌を晒す。
低い位置にある木の枝に寛ぎながら、私を見下ろした。
別に言いにくいことでもないし、私は地べたに座って話すことにした。
親もなく、家もない。
ただ、好きになった魔法を極めた。そして強くなりたかった。一番高い目標、魔王を目指した。
なにもないからこそ、一心に突き進むことが出来たのだ。
道標があるから、突き進んだ。
生きる理由があるから、ここまで生きていられた。
魔王を倒す私の目標を誰もが笑ったが、黒の女神は私を見つめて聞いていた。
「ここからが本題だ。魔王を封じるためには、魔力は足りなさすぎる。魔力を増やしてほしい」
魔王を倒すための力を得たい。
魔王を封じるための魔法は、とっくのとうに知っている。しかし、圧倒的に魔力が足りない。
女神の加護の元、魔力を増やすしかない。
沈黙のあと、黒の女神は問う。
「引き換えに、寿命を減らす覚悟はあるのか?」
どれほど減るのかと問い返せば、女神は残りは十年の命となると答えた。
私は笑う。
十年? 多すぎるくらいだ。
私は魔王を倒すことに人生を捧げた。というより、魔王を超えることだけが、生きる理由だ。他にはなにもない。
目的を達したそのあとに、長生きしたい理由なんてない。
「この命、この生き方でいいと決めた。来世くらいは、普通の幸せを手に入れられるだろう?」
口にして初めて、自分は来世に期待していることに気付いた。
親に愛され、普通の子どもとして過ごして、たくさんの友人と笑い合い、大人になる。
そんな得られなかった幸せを、来世では期待している。
得られなかったこの人生。見付けた生き甲斐に突き進むと決めた。これもまた、人生。
「ならば、その命の残りが尽きるまで、ここで暮らすがいい。魔王を封じ、生きて戻れ」
黒の女神は、勝ち気な笑みでそう告げた。
この森に住む許可までもらえるなんて、ずいぶん気に入られたものだと笑い返す。
黒の女神は承諾してくれた。私の命を削り、力に変えてくれると。
構わない。
生き甲斐なのだ。
私の全て。
命を削りながらも、突き進む。




