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征服のユースティア  作者: 廃くじら


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第1話

初めて戦記物を書きました。


一先ず切りの良いところまで書けたので連投していきます。

「撃てぇぇぇっ!!」


──パン! パパパパーン!!


下馬した騎兵の一団が勇ましい少女の合図に合わせて一斉にマスケット銃の引き金を引く。


有効射程ギリギリから放たれた無数の鉄の塊は、しかしその大半が敵歩兵の大盾に阻まれ十分な戦果を挙げることは叶わなかった。


「チッ! もう一度だ! 弾込め急げ──」

「──いや、ここまでだ。トゥール伯の本隊がすぐそこに迫っている」


第二射の準備を急がせる壮年の副官ギデオンを、敵歩兵の背後に騎馬の土煙が上がっているのを見たユースティアが制止する。


「っ!? 聞こえたな、野郎ども! 尻まくって陣地まで逃げるぞ!!」


ギデオンの指示で配下の兵士たちは一斉に騎馬にまたがり後退を開始。


「…………」

「お嬢! 何ぼうっとしてんですかい!?」


焦ったギデオンの呼びかけにも反応せず、ユースティアは迫りくるドルネシア軍を馬上から観察していた。


──騎兵と歩兵の完璧な連動。流石は騎士国家と呼ばれるドルネシア軍だ。良い兵士、良い指揮官だ。特に騎兵の機動力は想定以上。兵の練度で劣る我らが正面から噛み合えば一溜りもあるまい。


ユースティアは騎兵の中央やや後方に指揮官らしき勇壮な鎧姿を見つけ、マスケット銃の銃口を向ける。有効射程の遥か外側、向けただけで引き金は引かない。


──あれがトゥール伯か。こちらを舐めて先陣の一つも切ってくれればとは思ったが、流石にそこまで上手くはいかんか。


「お嬢! もう逃げますよ!?」


既に敵の騎兵は接敵まで十秒ほどの距離に近づいている。


──しかしこう何もない地形では戦術で兵の練度を誤魔化すにも限界がある。エルマとベアトリスのお陰で何とか拮抗は出来ているが、このままではじり貧だ。さて、どこまで削れるかな。


「お嬢!!?」


敵の先頭が五〇メートルほどの距離に近づいた瞬間、ユースティアの銃が火を噴く。


──パァンッ!!


『うああっ!?』


銃弾は先頭の馬に命中、落ち振り落とされた兵士が後続の数騎を巻き込んで地面を転がった。その混乱の隙にユースティアは素早く馬をターンさせその場を離脱する。


「うおっ! お、お嬢!! 置いてかなねぇでくだせぇ!?」


──今後の戦いを考えれば我が軍にも後一手欲しいところだな。策を超えた力、こうした戦況を覆す鬼札が……


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「…………」


視線の先でキジが地面に落ちた木の実を啄んでいる。


視界の悪い鬱蒼とした山中。彼我の距離は三〇メートル程。キジは全くこちらに気づいた様子はなく無警戒だ。


絶好のシチュエーションにジンは音も立てず弓の弦を弾き絞り──


──パァン!


『!?』


彼が矢を放つより一瞬早く、遠くから鳴り響いた銃声に驚いてキジはその場から飛び立ってしまった。


「…………はぁ」


狩人の少年ジンは想定外の横槍に深々と溜め息を吐き、番えた矢を筒に収める。


そして一体どこの阿呆が猟の邪魔をしてくれたのだと近くの高台に移動すると、そこには既に先客がいた。


「ブランカか。何があった?」

『アォォ~ン』


そこにいたのは美しい純白の毛並みをした大型のオオカミ。ブランカと呼ばれたそのオオカミは、ジンが近づいても一切の敵意を見せることなく、それどころか家族のようにその身を彼に擦りつけ視線と鳴き声とで山の麓の方を示した。


「ん……」


山裾の平原で騎兵と騎兵とが戦闘を行っている──いや、戦闘というと語弊があるやもしれない。少数の騎兵がその三倍ほどの数の騎兵に追い立てられて逃げ回っていた。


一見すると追いかけている側が数でも練度でも逃げる側を圧倒していたが、しかし殿を務めている数騎が巧みに追手の動きを攪乱し追いつかれることを防いでいる。


「……いい逃げっぷりだ。追手は偽装に気づいていない」


あと少しというところで追手は地面に掘られた溝に気づかず敵の縄張りに踏み込んでしまい、騎馬が足をとられて動けなくなってしまう。


その隙に塹壕に隠れていた銃士が追手に集中砲火。形勢不利と見た追手はすぐさま追撃を中止し、歩兵を盾に秩序を保ったまま撤退を始めた。


「騎士同士の小競り合いで銃や罠を使うのは珍しいな。ひょっとして、噂に聞くマケドニア軍がここまで出張ってきたのか?」

『クゥ~ン?』


ジンがその戦闘を見て考え込んでいると、ブランカが彼の身体に鼻を寄せながら不安そうな声を出す。


「……大丈夫だよブランカ。心配しなくてもあの戦いがこっちに飛び火することはない」

『ワフ?』


人の言葉を理解しているように首を傾げるブランカの顎を撫でながら、ジンは知り合いから聞かされた受け売りの知識を披露した。


「ここは山ばっかで攻め取っても旨味がないからね。どこの国も欲しがりゃしないのさ」


ジンたちが住むルマーンは険しい山の中に集落が点在する貧しい山岳国家だ。目立った産業と言えば林業ぐらいしかなく、その林業も輸送や管理コストを考えればほとんど益は出ていない。また山を切り拓いて開拓したところで山が険しすぎてとても投資に見合ったリターンは見込めず、わざわざ攻め落としてまで欲しがる者はいなかった。


事実、過去数百年に渡ってルマーンが戦火に晒されたことはなく、住民たちは貧しいながらも穏やかな日々を送ってきた。


周辺国からは未開地の蛮族呼ばわりされることもあったが、彼らの多くは平和な暮らしに十分満足していたのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「本日の戦闘における我が軍の人的被害は重傷者4、軽傷者32、死者0」


夜。その日の戦闘を終えマケドニア帝国アルメニア伯爵軍の指揮官用テントで軍議が行われていた。


参加者は五名。この軍の総指揮官にしてアルメニア伯爵ユースティアと、その副官ギデオン、後は歩兵隊、銃士隊、工兵隊の各部隊長。


砂盤と駒で作った戦況図を前に、歩兵隊の隊長を務める赤毛の青年アルベルトはやや興奮した様子で、その日の戦果を報告する。


「敵軍に対しては少なくとも騎兵15騎以上、全体で100近い損害を与えることができました。具体的な死傷者の内訳までは確認できておりませんがこれは──」

『痛み分けだな(ですね)』

「──え?」


我が軍の大勝利──そう締めくくろうとしたところ他四人に異口同音に否定され、アルベルトは思わず目を瞬かせた。


「えっと……こちらは死者0で、敵には三倍近い損害を与えたのに、痛み分け……ですか?」


その問いかけに四人は顔を見合わせ、まず最初に口を開いたのはこの軍のナンバー2ギデオン。茶褐色の髪を持つ荒々しい雰囲気の中年男性で、他の四人が生まれる前から戦場に身を置いている歴戦の戦士だ。


「三倍近い損害って言っても全体で見りゃ影響は軽微だろ。元々兵力はあっちの方が多いんだ。こっちはお嬢が囮になって手の内まで晒したんだぞ? 最低三割は削っとかねぇと勝ちとは言えねぇよ」

「う゛……」

「それに、今日の攻防は物資の消耗も激しかったですからね~」


続いて発言したのは金髪の髪をボブカットにした小柄な少女エルマ。戦場には似つかわしくない庇護欲をそそる雰囲気の持ち主だが、こう見えて彼女は工兵部隊の部隊長と兵站責任者を兼務するアルメニア軍の要だ。


「特に弾薬に関しては大分無駄撃ちさせられちゃったので……まだ備蓄に余裕はありますけど、このペースだと敵を殲滅するより先に弾薬の方が尽きちゃいます」

「付け加えるなら、敵の損害も数字のほどの影響はないと見るべきでしょう」


冷静に捕捉するのは長い黒髪を背中で一つに束ねた凛々しい雰囲気の少女ベアトリス。エルマと同じくユースティアの側近で、こちらは女性中心に組織された銃士隊の部隊長を務めている。


「姫様の策で敵の騎兵を罠に嵌めること自体には成功しましたが、敵はこれを最小の被害で収めています。また敵の損害の大部分を占める歩兵については、こちらの手の内を探るために敢えて犠牲にしたように見えました」

「そんな! 味方をワザと見殺しにしたって言うのかい?」


ベアトリスの言葉にアルベルトは懐疑的な声を出すが、ユースティアはベアトリスに同意する。


「ベアトリスの言う通りだろう。歩兵の大半は徴兵された農民だ。死んでもいくらでも補充できるとまでは言わんが、騎兵が主力の連中にとっては大した痛手ではあるまい。当人たちに気づかせないようすり潰してこちらの罠の配置や兵の動きを見極めていた、と言うのが正確なところだろう。こうなると今日のような偽装退却は使いにくいな。下手に引き付けて罠に嵌めようとすれば、そのまま食い破られてズタズタにされかねん」

「……それならパターンを変えれば良いだけでは?──いえ、決して姫様が囮になるあのやり方に納得したわけではないのですが」


弱気ともとれるユースティアの発言にアルベルトは思わず反論する。


「連中も馬鹿じゃねぇんだ。ある程度の変化は当然織り込み済みだろうよ。そもそもあると分かってる罠なんざ怖くもなんともねぇ」

「む……」

「そういうことだ。囮に関しては私よりアルに敵の目を惹く華があるというなら任せても構わんのだがな」

「そんなぁ……」


素直なアルベルトの反応に他四人がクスクスと微笑をこぼし、その場の空気が少しだけ和んだ。


「何にせよ敵兵の練度はこちらの想定以上だ。流石はドルネシア王国に名高きトゥール伯の騎兵隊ということだろう。このまま騎兵に有利な平地での戦いを続ければ、勝てぬとは言わんが相応の被害を覚悟せねばならん。今後のことを考えればそれは上手くない」

『…………』


ユースティアの意見に同意するように四人が頷く。


平地は機動力の高い騎兵がもっとも活きる戦場だ。こちらも野戦築城と銃士隊による防御陣で何とか敵の攻勢を凌いではいるが攻め手に欠けている。


そして侵略者であるユースティアたちにとって善戦は何の意味もない。敵を打ち破り領土を奪えなければそれは敗北と同義だった。


「お嬢。そこまでは異論ありやせんが、具体的にどう動くおつもりで?」

「決まっている。敵の強みが騎兵の機動力なら、地形を用いてその有利を潰せばいいのさ」


そう言って、ユースティアは砂盤の駒を北の山岳へと移動させた。

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