10 お祭りと司祭
この祭りの一番の目玉と言えば、何と言ってもこの町に司祭がやって来るという事だろう。
司祭は、その昔勇者に神の代理人として力と使命を与えた者として有名な要職で、それは勇者がいなくなってしまった現代においても、伝統を重んじるこの国においては重要な人間だと言える。
かつての力は失われてしまったが、形だけのお祈りであっても、町に生きる人々の心を癒すためには必要な存在である。
「司祭様がお見えになったぞ!」
コルネとメルがべルルの町に訪れてから一夜が過ぎ、まだ日が上り始めたばかりの朝の早い時間に、町の住人の一人から声が上がった。
町中から歓声が波の様に伝播する。
司祭と呼ばれた男の着ている白と赤の厳かな雰囲気を醸し出す修道服は、金の細工で縁取られていて気品を感じさせた。およそ六十代から七十代に見える司祭の男性は、朗らかな印象を感じさせる穏やかな声の人だ。
その隣には腰に剣を差した、白銀色の騎士の様な格好をした若い色白の好青年が立っている。
彼は成人したばかりでありながらキリッとした切長の青い瞳が印象的であり、その立ち振る舞いからは、普通の人には無いオーラの様なものを感じさせた。
金色の髪を靡かせた清々しい印象を抱かせる青年は、べルルの町の人たちに向かって優雅に手を振る。町の人たちが彼らを取り囲む様に輪になって歓迎している中、町の隅っこで一人野宿をしていたコルネは、離れた場所で彼らをじっと見ていた。
コルネは司祭の顔を注意深く観察している。
そして間違い無いという何かの確証を持ったのか、無表情だった彼の顔は、見る見る内に憎しみに満ちた怒りの表情に変わっていった。
「コーネリウス……」
両手をわなわなと振るわせながら、コルネは目の前で町の住人に盛大に歓迎されている司祭の名前を呟いた。
それと同時に、コルネの頭の中で在りし日の光景がフラッシュバックする。
それは、彼の命の恩人であるメラトリーネと、かつて一緒に過ごした幸せの日々。
彼女が、わざわざコルネのために用意したお守りの浮遊岩と一緒に、コルネを森から送り出した日。
そしてかつて自分が育った森が焼かれ、彼女が殺された日。
コルネは今すぐにでも司祭と呼ばれた男に襲い掛かりたかったが、奥歯を噛み締め何とか踏み止まった。
風の噂で司祭が一年に一度、このお祭りが開かれるべルルの街に現れると聞いた時、半信半疑で実際に自分の目で見るまでは、まさかと思っていた。
しかし噂は本当だった。
奴が生きていて、このべルルの町に毎年やって来ているともっと早く知っていたのならと、コルネは自分の不甲斐なさに激怒して、隣の古い石で出来た民家の壁を殴りつける。
奴が生きていると知っていれば、俺は『彼女の子孫』をむざむざ殺されずに守り抜く事が出来たはずだと、コルネは自分をなじった。
そして決意する、今度こそ奴を確実に殺すと。
意を決して、コルネは司祭コーネリウスの元へとゆっくり近づいてゆく。
その時、突然コルネを呼ぶ声がした。
懐かしく聞き覚えのある声だった。
びっくりして振り返ると、そこにいたのはかつて自分を救ってくれた命の恩人であり、愛していたメラトリーネだった。
「メラトーー」
そう呼びかけて、違うということに気が付く。
彼を呼び止めたのは、メルだった。赤い髪、白い肌、朱色の瞳、桜色の唇、美しい声。そして慈愛の籠った笑顔。
メルは、コルネの命の恩人の若かりし頃にそっくりだったのだ。
コルネがまだ三歳の頃、飢えて森の中を芋虫の様に這いずり回っていた時、手を差し伸べてくれたあの時の彼女に。
だからこそ、コルネは街道でメルに出会ってからずっと、彼女のことを気にかけていた。
「コルネ?」
メルはこちらを見つめたまま呆然と固まっているコルネの様子に、心配になってもう一度声をかけた。
はっと我に帰ったコルネはさっとメルから視線を逸らす。
その間に、司祭の男は町の住人に連れられてどこかへ行ってしまった。
コルネはメルに対して、邪魔されたと憤りを感じるかと思いきや、むしろ彼女が自分を呼び止めてくれた事に対して安堵していた。そんな自分が情けなくて、コルネは思わず唇を噛み締める。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
メルの心配を受け流す様に、軽くコルネは返事をする。そして、一呼吸おいてメルに『昨日別れてから一日も経ってないぞ』とからかった。
「うん。迷惑だった?」
メルは心配そうにコルネに尋ねる。
それに対して、コルネは『迷惑だと感じた事は一度も無い』と返した。
すると、メルは嬉しそうな顔でコルネを見つめる。コルネは、自分の荒々しい感情がどんどん穏やかになるのを感じていた。
「あのね私、司祭様に会ってみたくて。でも、私ハーフだから一人で会いに行くのは色々と難しいと思うの。だから、人間で唯一頼れるコルネに助けて欲しくて」
メルの突然のお願いにコルネは困惑する。
動揺して、コルネは思わずメルに聞き返してしまった。
『どうして奴に会いたいんだ?』と。
まるで、司祭の事をよく知っているみたいな口ぶりで話すコルネに、メルは思わず聞き返した。
「司祭様のこと知ってるの?」
「いや、別にそういう訳じゃ無い」
「でもーー」
「悪い。それは力になれない。それ以外の話ならいつでも相談に乗るから」
コルネはメルに対して、説得する様に強く言った。
コルネのおかしな態度にメルは違和感を感じながらも、渋々了承する。
「司祭様に会われたいのですか?」
急に後ろから声をかけられ、メルとコルネはとっさに後ろを振り向いた。
そこにいたのは、さっき司祭と一緒にいた好青年。
育ちの良さそうな気品のある立ち姿に、思わずメルは萎縮してしまう。
「失礼。私は勇者を務めさせていただいております、アレスと申します。不躾ながら、お二人の会話が耳に入りまして。微力ながら私に力になれる事があればと」
突然の告白に、メルは驚いて目を見開いた。
勇者は千年前に人間を裏切って以来、いなくなってしまったはずだ。
それがどういう経緯で、この人は自分の事を勇者だと言っているのか。
冗談か、本気か、メルには分からず混乱して固まってしまっている。
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