番外編 シン・ユー、ポカポカ大作戦!
物語序盤あたりの、シン・ユーとリェン・ファのエピソードです。
雪がしんしん、しんしんと静かに降り積もる。
こんな日でも、シン・ユーは仕事に向かう。
病弱なのだから、こんな日は家で大人しく過ごしていたらいいのに。
しかしながら、こういう日こそ、仕事は忙しいようだ。
シン・ユーのために、何かしたい。
そう思った私は、体がポカポカになるお茶を作るために台所に立った。
ジン・ピンから借りた薬膳の書に、書いてあったのだ。
肉桂には、体をポカポカにする作用があると。
これに合わせるお茶は、ほうじ茶。
香ばしい風味が、肉桂とよく合うだろう。
急須にほうじ茶の茶葉と肉桂を入れて、じっくり蒸らす。
「よし、こんなもの、かな?」
茶器に注いで、シン・ユーに持って行った。
「シンユウ、お茶、これ、飲んで!」
私が淹れたお茶を、シン・ユーは怪訝な表情で見つめている。
普段のお茶とは異なる香りがするからだろう。
実家にいたとき、紅茶にミルクとシナモンパウダーを入れて飲んでいたが、結構おいしかった。
きっと、ほうじ茶にも合うだろう。
「リェン・ファ、茶に、何を入れた?」
「えーっと、えーっと、なんだっけ?」
背後に控えるリー・リンを振り返る。困ったときの、リー・リン頼りであった。
「肉桂です、奥様」
「あ、そう! それ」
「茶に入れるようなものでもないだろうが」
「で、でもね、ニッキ入れたら、体、ぽかぽか~、なるんだよ! お願い、飲んで! シンユウの体、ポカポカに、したいの」
手と手を合わせ、神様、天使様、シン・ユー様と祈りを捧げる。
祈りが通じたのか、シン・ユーはお茶を飲んでくれた。
飲み干したあと、思いっきり顔を顰めている。
お口に合わなかったのか。
「シンユウ、どうだった?」
「まあまあだ」
「そっか」
まずかったわけではないらしい。ホッと、胸をなで下ろす。
「あとね、これも、昨日、作ったの!」
リー・リンが持っていた包みを受け取り、そのままシン・ユーに差し出す。
「なんだ、これは?」
「あのね、南瓜の、蒸し饅頭!」
南瓜は疲れや食欲不振、無気力を改善するという。
加えて小麦粉は、消化機能を促進するようだ。
これを食べるだけで、シン・ユーがたちまち元気になる、というものである。
「休憩時間に、召し上がれ」
シン・ユーは無表情のまま、包みを見下ろしていた。
だんだんと、心配になってくる。
「あの、あんまり好き、じゃなかったら、職場の人に、あげても、いいヨ」
「いや、ひとりで食べる」
「本当? よかったー」
玄関先までシン・ユーを見送る。
無事、帰ってきてくださいと祈りながら。
シン・ユーがいなくなったあと、リー・リンがぽつりと呟いた。
「奥様の蒸し饅頭、職場の人にあげたくなかったんですね」
「え、どうして?」
「おいしい饅頭を食べて、奥様の評判が上がるのが、嫌だったのかもしれません」
「ええー! 私、評判の、奥様、なりたいのにー」
「旦那様は、旦那様だけの奥様でいてほしいのですよ」
「シンユウの旦那様心、よくわからない」
「もう少ししたら、奥様もご理解いただけるかと」
今日も、シン・ユーはよくわからなかった。
リー・リンはわかるようだけれど。
まだまだ、シン・ユーの観察力が足りないのだろう。
修業しなければと、決意を固めたのだった。




