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没落令嬢の異国結婚録  作者: 江本マシメサ
◇番外編◇

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番外編 シン・ユー、ポカポカ大作戦!

物語序盤あたりの、シン・ユーとリェン・ファのエピソードです。

 雪がしんしん、しんしんと静かに降り積もる。

 こんな日でも、シン・ユーは仕事に向かう。

 病弱なのだから、こんな日は家で大人しく過ごしていたらいいのに。


 しかしながら、こういう日こそ、仕事は忙しいようだ。

 シン・ユーのために、何かしたい。

 そう思った私は、体がポカポカになるお茶を作るために台所に立った。


 ジン・ピンから借りた薬膳の書に、書いてあったのだ。

 肉桂シナモンには、体をポカポカにする作用があると。

 これに合わせるお茶は、ほうじ茶。

 香ばしい風味が、肉桂とよく合うだろう。

 急須にほうじ茶の茶葉と肉桂を入れて、じっくり蒸らす。


「よし、こんなもの、かな?」


 茶器に注いで、シン・ユーに持って行った。


「シンユウ、お茶、これ、飲んで!」


 私が淹れたお茶を、シン・ユーは怪訝な表情で見つめている。

 普段のお茶とは異なる香りがするからだろう。

 実家にいたとき、紅茶にミルクとシナモンパウダーを入れて飲んでいたが、結構おいしかった。

 きっと、ほうじ茶にも合うだろう。


「リェン・ファ、茶に、何を入れた?」

「えーっと、えーっと、なんだっけ?」


 背後に控えるリー・リンを振り返る。困ったときの、リー・リン頼りであった。


肉桂にっきです、奥様」

「あ、そう! それ」

「茶に入れるようなものでもないだろうが」

「で、でもね、ニッキ入れたら、体、ぽかぽか~、なるんだよ! お願い、飲んで! シンユウの体、ポカポカに、したいの」


 手と手を合わせ、神様、天使様、シン・ユー様と祈りを捧げる。

 祈りが通じたのか、シン・ユーはお茶を飲んでくれた。


 飲み干したあと、思いっきり顔を顰めている。

 お口に合わなかったのか。


「シンユウ、どうだった?」

「まあまあだ」

「そっか」


 まずかったわけではないらしい。ホッと、胸をなで下ろす。


「あとね、これも、昨日、作ったの!」


 リー・リンが持っていた包みを受け取り、そのままシン・ユーに差し出す。


「なんだ、これは?」

「あのね、南瓜の、蒸し饅頭!」


 南瓜は疲れや食欲不振、無気力を改善するという。

 加えて小麦粉は、消化機能を促進するようだ。

 これを食べるだけで、シン・ユーがたちまち元気になる、というものである。


「休憩時間に、召し上がれ」


 シン・ユーは無表情のまま、包みを見下ろしていた。

 だんだんと、心配になってくる。


「あの、あんまり好き、じゃなかったら、職場の人に、あげても、いいヨ」

「いや、ひとりで食べる」

「本当? よかったー」


 玄関先までシン・ユーを見送る。

 無事、帰ってきてくださいと祈りながら。

 シン・ユーがいなくなったあと、リー・リンがぽつりと呟いた。


「奥様の蒸し饅頭、職場の人にあげたくなかったんですね」

「え、どうして?」

「おいしい饅頭を食べて、奥様の評判が上がるのが、嫌だったのかもしれません」

「ええー! 私、評判の、奥様、なりたいのにー」

「旦那様は、旦那様だけの奥様でいてほしいのですよ」

「シンユウの旦那様心、よくわからない」

「もう少ししたら、奥様もご理解いただけるかと」


 今日も、シン・ユーはよくわからなかった。

 リー・リンはわかるようだけれど。

 まだまだ、シン・ユーの観察力が足りないのだろう。

 修業しなければと、決意を固めたのだった。 

挿絵(By みてみん)

没落令嬢の異国結婚録、コミカライズしました!

そして、第1巻が本日発売です。

日野杏寿先生に、没落華族令嬢の異国結婚録の世界を、美しく描いていただきました。

特典などは、活動報告にて。

お手に取っていただけたら、嬉しく思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

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