番外編 お茶会をしよう!
結婚式の前くらいのエピソードになります。
貧乏が原因で、お金と引き換えに大華輪国という異国へ行くことになった私レイファ・ライエンバルド、十六歳。
そこでは猛烈に仲が悪いザン家の親子と同居することになる。それどころか、息子と結婚することになり、どうしてこうなった状態に。
借金のかたとしてやって来た私に、拒否権などなかった。
そんな中、夫シン・ユーより大華輪国風の名前リェン・ファが授けられる。
レイファ改め、リェン・ファと名乗ることになった。
結婚生活は平穏なわけはなく、占い師を妄信する義母に、病弱な夫、皇帝の悪政が原因で暴動が起きる街など、問題は山積み。
目が回りそうな日々を送っている。
現在、私が一番気になることといえば、親子の不仲だ。
朝食の席は険悪、夕食の席は口喧嘩と、一言で言ったら酷い。
どうにかしてもらおうと、私は対策に打って出る。
「奥様、旦那様と大奥様を仲良くって、何かなさるのですか?」
傍付き女官のリー・リンが、目を細めながら質問してくる。私はしたり顔で答えた。
「お茶会を、開くよ!」
今私は、お茶会の招待状を認めている。
シン・ユーと義母宛てだ。
「おいしいお菓子、食べる。お茶、飲む、おいし ね~、シンユウ、おかーさん、ニコニコなる」
そう説明したが、リー・リンは細めた目を元に戻さない。
「仲良く、ニコニコ 、ですか」
「大丈夫。ニコニコ、なるの」
「なりますかね」
私が好きだったお菓子を作るのだ。きっと、笑顔になってくれるだろう。
「奥様、何を作るのですか?」
「クレープだよ」
「それは、どのようなお菓子なのです?」
「うす~い、うす~い、甘い、お菓子」
「申し訳ありません、よくわかりません」
「むう!」
いまだ、私の語彙は貧弱なままだった。日々、勉強である。
とにかく今は、招待状を書かなければ。
「――できた!」
シン・ユーと義母 へ渡す二通が完成した。
「今から、渡しに行くよ」
「奥様が自ら行かれるのですね」
「うん!」
シン・ユーは仕事でいないけれど、義母はいる。
開催は明日なので、直接運ぶのだ。
義母の私室まで移動し、入室させてもらった。
「何よ、いきなり」
「おかーさんを、おさそいに、きたの」
義母は訝しげな表情で私を見る。ここの国の人達は、警戒心が強い。
もう慣れたけれど。
「これ、お茶会の、招待状!」
「お茶会、ですって?」
「そう!」
おいしいお菓子とお茶を、シン・ユーと楽しく食べて飲もう という旨を伝えた。
「なんでわざわざ家族集まってお茶会をしなければならないのよ」
「楽しいから、お願い~~」
義母の手を握り、必死になってお願いする。
「おかーさん、ダメ? 私、おかーさんと、お茶、飲みたいよ~」
上目遣いで聞いてみる。目が合ったら、ふいと逸らされた。
「お願い!」
「ま、まあ、どうしてもっていうのなら!」
「ありがと! おかーさん、大好き!」
義母に抱きつき、お礼を言った。「離れなさい!」と怒られたけれど、本気で嫌がっているようには聞こえなかった。でもまあ、すぐに離れたけれど。
この辺の加減は難しいのだ。
続いて、帰宅するシン・ユーを居間で待ち構える。
「奥様、わたくしめが預かっておきましょうか?」
優しく声をかけてくれたのは、シン・ユーの傍付きを務めるジン・ピンだ。
「旦那様、昨晩は日付が変わったころにご帰宅をされて」
「遅いよねえ」
でも、招待状は直接渡したい。よって、眠気を我慢して待つことにする。
長椅子で舟をこぎかけていたら、シン・ユーの帰宅を告げられる。
どうやら寝ている間に、シン・ユー宛て の手紙を握りしめていたようだ。手紙の皺を慌てて綺麗に伸ばした。
シン・ユーが居間にやって来る。
「おかえりなさい、シンユウ 」
「ああ」
相変わらず口数が少なく、眉間に皺を寄せている旦那様。
これが通常営業なので、慣れてしまったけれど。
顔色は悪いし、目の下のクマが濃い。きちんと夜は眠れているのか。
「どうした?」
「あ、そう! これ、お茶会の招待状!」
義母同様、訝しげな表情で手紙を見下ろす。こういうところは本当にそっくりだ。
「明日ね、シンユウお休みでしょ? みんなで、お茶会しよ!」
おいしいお菓子を用意するからと、念押ししておく。
「そんなに、長引かないから、お願い!」
義母同様に、上目遣いで頼み込む。
「シンユウ、ダメ?」
「別に」
「ん?」
以降、黙り込む。「別に」なんだ。
「奥様、よろしかったですね。旦那様も、いらっしゃるようで」
「え? あ、うん! よかった~」
シン・ユーのお付きである、ジン・ピンが通訳してくれた。さきほどの「別に」は「別に行っても構わない」という意味だったらしい。
へ~って、わかるか!
まあ、参加してくれるんだったら構わないけれど。
「じゃ、明日ね」
目的は果たしたので、シン・ユーと別れることになった。
◇◇◇
翌日。
張り切ってお菓子の準備を行う。
材料は、小麦粉、バター、卵、砂糖。それから、塩が少々。
バターは特別に取り寄せた品だ。
まず、砂糖と塩、小麦粉を混ぜ、そこに卵を投下。よく混ぜる。続いて、少し温めた牛乳を入れて、さらに混ぜる。最後に、溶かしたバターを入れて攪拌。
この生地を、冷暗所で三十分ほど寝かせる。
三十分後――舌触りをよくするために、生地は濾す。
フライパンはないので、大鍋にバターを敷いて温まったら生地を流す。
周囲がキツネ色になってきたら、ひっくり返す。
フライ返しなどないので、長い箸で掴んでペロンと一気に捲った。
ドキドキの一瞬であった。
完成した生地には、ザン家の料理人が作った餡と栗を包む。
生クリームとチョコレートとバナナといいたいところだったけれど、材料がないのだ。
これにて、お茶会のお菓子が完成した。
お茶は女官のメイ・メイが淹れてくれる。
ついに、お茶会の時間となった。
シン・ユーと義母は時間通りにやって来てくれた。
しかし、二人共表情は硬い。
「シンユウ、おかーさん、来てくれて、ありがとうね。とっても、うれし!」
「あなたがどうしてもって言うから、来たのよ」
「うん!」
ここで、お茶とお菓子が運ばれてくる。
クレープは食べやすいよう、カットしてもらった。箸で摘まんでいただく。
お茶はほうじ茶を選んだ。甘い餡との相性はバツグンのお茶だ。
義母は初めて見るクレープに興味津々だった。
「ねえ、リェン・ファ、これはなんなの?」
「クレープっていう、私の国のお菓子だよ」
慎ましい生活をしていたので、中に包むのはジャムだった。
生クリームや果物など、贅沢品なので滅多に口に入らなかったのだ。
「おいしいから、食べてみて」
義母は眉間に皺を寄せて、じっとクレープを見ている。
一方で、シン・ユーはすぐに食べていた。
「シンユウ、どう?」
「……まあ」
なんだ、「まあ」って!
無表情なので、どうだったか伝わらない。私はすぐに、ジン・ピンを見る。
視線の意味に気付いたのか、通訳をしてくれた。
「おやおや、旦那様、お口に合ったようですね!」
……どうやら、おいしかったらしい。言葉や表情からはまったく伝わらなかった。
幼いころから仕えているジン・ピンだからこそ、わかるのだろう。
シン・ユーの感想を聞いて安心したからか、義母もクレープを食べる。
「おかーさん、どう?」
「あら、おいしいわ」
こちらは素直に感想を言ってくれた。
「生地がモチモチしていて、少し塩けがあるのかしら? 中の餡と相俟って、ほどよい甘さになるのね」
「そうなの!」
生地に入れるほんのちょっとの塩がポイントなのだ。
私も餡クレープを 食べてみる。
「うん、おいしい!」
もっちり生地と、栗入り餡がよく合う。甘すぎず、上品な味わいに仕上がっていた。
ザン家の料理人が小豆を煮込んで 作った餡は絶品なのである。さすがだ。
お菓子を食べ、お茶を飲む。
会話はなかったけれど、静かで穏やかな時間だった。
これは、大成功ということでいいのかな?
意外と楽しかったので、またお茶会ができたらいいなと思った。




